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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
7 フィンランド編
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7-3 家族会議とは名ばかりの溜息大会

 

 フィンランド名物と言えば白夜であるが、今は時期的に白夜は拝めないそうだ。吸血鬼の自分達にとって白夜がどんなものか興味津々だったミナは残念に思ったが、その代り今の季節に見頃のイベントがある。

 バルコニーでそれぞれふわふわの毛布に包まって、アンジェロと共に見上げる上空には、宇宙の生み出す壮麗なカーテンがはためいている。

「オーロラなんて初めて見たよ」

「俺も」

 二人でオーロラを見上げて、その美しさに息をのむ。宇宙のプラズマが大気に反射して生み出されるこの現象は、見る者の心に大きな感動を与える。

「すげぇな」

「綺麗だね」

 お互いにそう感想を言い合って、なんとなく見つめ合って視線が絡み合う。お互いにそれに気付いてハッとして、慌てて視線を逸らす。

(うぅ、なんかうっかりドキドキしちゃった。違う、これはオーロラのせいよ)

(アカンアカン、これアカンやつや……!)

 なんとなく気まずくなる二人。


 そんな二人の様子をヴィンセントの部屋の窓から見ていた4人は、揃って溜息を吐く。

「今のこの状況じゃなきゃ、アレも微笑ましく思えたけどさぁ」

 ボニーですら溜息だ。

「この状況じゃなぁ。正直俺ァ、ミナにもイライラするわ」

 クライドだって溜息だ。

「クリシュナさえいてくれたら、こんな事にはならなかったのに」

 メリッサは嘆きながら溜息。

「それもこれも、全てジュリアスのせいだ」

 ヴィンセントは怒りを溜息で誤魔化す。


 この4人は現在家族会議中である。アンジェロは勿論、状況についていけないミナも仲間外れである。


 議題その1「アンジェロをどうしてくれよう」


 この議題に対して真っ先に口を開いたのはメリッサだ。

「殺しましょ」

 一言でバッサリである。

「それはさすがに……」

「ちょっとミナが可哀想じゃねぇ?」

 ボニーとクライドの反論に、一応わかっているのだろうが、メリッサは不服そうにする。

「ではどうするのよ? いつまでも置いておくことなんかできないわ。それでもしアンジェロとミナちゃんがどうこうなってしまったらどうするつもり?」

 直接質問をぶつけられて、ヴィンセントも唸る。

「どうこうさせるつもりはないが、どうにかなったとしても許す気はない」

 ヴィンセントの宣言にボニーが頬杖をついて覗き込んだ。

「それって娘を取られたくないパパ心ってやつー?」

 からかいを含んだボニーの言葉にヴィンセントは憮然とした。

「バカを言うな。そう言う事ではない。ミナがアンジェロの手に渡るという事は、ジュリアスの手の内に渡るという事だ。それを容認する事は出来ないと言っているのだ」

 ヴィンセントの説明にボニーは「なるほどね」と得心がいった様に、椅子の背もたれに体を預けた。


 その時、ノックもなしにガチャリとドアが開いた。4人でドアの方を見るとミナが立っている。

「どうしたの?」

 吸血鬼の聴力を考えると、今の話を聞かれたのではないかと不安になりながらメリッサが尋ねると、ミナは後ろ手にドアを閉めて入室した。

「心配しないで、僕だよ」

 ミナではなく北都だったことには一応の安心はしたが、北都と入れ替わっていたとしてもミナは意識がある。その事を警戒していることに気付いたのか、北都が「安心して」と言った。

 ミナの超能力などの力の向上に伴って、北都の能力も徐々に向上していた。ミナは北都に強制的に意識を抑え込まれ、今は精神の中で眠りについているようだ。それを聞いて安心した4人は、北都も家族会議に招き入れた。


「さすがに北都も物申すってカンジだろ」

 苦笑しながらクライドが話を振ると、北都はそれはそれは大きな溜息を吐く。

「ほんっとだよ、もーお姉ちゃん前からお花畑な人だったけど、今度ばかりは僕も参るよ」

 ミナの姿を借りたまま、北都が頭をかきむしるのを見て、ボニーたちも同情的だ。

「アンタ日頃から常々目の当たりにしてるわけだもんねぇ。そりゃ疲れるよ」

「もーやだよぉ、僕はお義兄さんだから許したわけじゃん。いくら記憶が消えたからって、そりゃないよってかんじだよ」

 とうとう北都は机の上に突っ伏してしまった。どうやら愚痴を言いに来たらしい。しかし、北都の愚痴ももっともだ。状況を把握している者なら当たり前の感情だ。


 しばらく愚痴りながら机に突っ伏していたが、おもむろに北都が顔を上げてヴィンセントを見た。

「だから僕、お姉ちゃんには本当の事を教えた方がいいと思うんだ」

 本当は、北都にもわかっている。ヴィンセントが何故クリシュナの記憶を消したのか、何故周りがそれを容認しているのか、北都にもわかっている。だがこの状況は許せない。記憶の消去がヴィンセントの苦渋の決断であることもわかっている。だが、それを不意にしてしまってでも、ミナには理解してほしかった。

 ミナを苦しめたいわけじゃない、罰を与えたいわけじゃない。だけど、その為に周りが苦しむのは間違っている。家族なら、仲間なら痛みを共有するのがあるべき姿なのではないか、北都はヴィンセントにそう説いた。

 北都の話を聞いて、ヴィンセントも一つ息を吐く。

「そうだな。私もそれは考えていた。だが、今話したところで、過去が変わるわけでもないし、ジュリアスが敵対する事も変わりはないし、何かがどうにかなるのだろうかと考えると、コストパフォーマンスが低くてな」

 それを聞いた北都を含めたメンバーも「だよねぇ」と暗い顔になる。やっぱり全員で溜息を吐いて、これはもう会議ではなくただの溜息大会なのではないかと全員が思いはじめた頃に、部屋にノックの音が響き渡った。


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