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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
7 フィンランド編

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7-2 親の心子知らずとはまさにこのこと

 フィンランドに来て3日経過した。もしかしたらここに来ることで、先住者に迷惑がかかるかもしれないとヴィンセントが話していたので、先住のお友達はミナ達と入れ違いに別の土地に引っ越していた。なのでこのお屋敷に住んでいるのはミナ達だけだ。

 どこかのお金持ちの持ち物らしく、雪深い山の中にある別荘がミナ達の新たな住まいとなっている。放っておくと数メートルも雪が積もるので、ミナは超能力で雪かきをしたり火おこしをしたり、結構忙しい。


 この日も電気分解で雪かきをして家の中に戻ると、暖炉に薪がくべられてホカホカと温まった居間で、何やら話す声が聞こえた。居間に入って様子を見ると、ヴィンセントとアンジェロが話している。

 どうやらヴィンセントが瞬間移動で最低限の荷物を取りに行くので、ついでにアンジェロを送ってやると提案したのだが、アンジェロがそれを拒否しているようだ。ミナもアンジェロの生活の事を考えると帰った方がいいような気がしたので、会話に入ることにした。

「ねぇアンジェロ、お仕事もあるんだし、イタリアに帰った方がいいんじゃない?」

 その提案にアンジェロは、表情を曇らせる。

「俺がここにいたら迷惑か?」

 ヴィンセント達にとっては迷惑極まりないだろう、という自覚はあるが、ミナならいけるんじゃないかという賭けに出るアンジェロ。

「えっ、迷惑ってわけじゃないよ? ただ、大丈夫なのかなって……」

 まんまと引っかかるミナ。更にアンジェロが続ける。

「仕事は大丈夫。今はヒマな時期だしな。それよりも」

 アンジェロはにっこり笑ってミナの頭を撫でる。

「もう少しお前と一緒にいたいんだよ。いいだろ?」

 アンジェロのスマイル・仕草・セリフのコラボレーションに、思わずミナはキュンとしてしまった。

「そ、そういうことなら、いいけど……」

「そっか、よかった」

 しどろもどろに応えるミナにアンジェロは笑うと、そのままヴィンセントに振り向く。当然ヴィンセントは頭を抱えている。

「そう言うわけですので、ミナもこう言っていますし、もうしばらくお世話になります。では伯爵、道中お気を付け下さい。いってらっしゃいませ」

 当たり前の様に見送りをするアンジェロと、単純でアホなミナにヴィンセントは溜息を吐くしかなかった。


 主に棺などの重要な荷物だけを取って、フィンランドに戻ってきたヴィンセントが居室でやっぱり溜息を吐いていると、部屋にノックの音が響く。返事をするとメリッサが入室して来て、やはり彼女も溜息を吐いていた。

 極上の美女が憂い顔で溜息を吐いている。絵画にでもなりそうなそのメリッサの美しい姿にすら、ヴィンセントはやっぱり溜息だ。何しろこれから始まるのはお説教タイムだからである。

「アンジェロがここにいるのはスパイの為だって、あなたもわかっているでしょう?」

 アンジェロがここに居座っているのは、しばらくは大人しく過ごしてヴィンセント達の情報を集め、その内逃げてジュリアスに情報を渡すため。そのくらいの事はヴィンセントもメリッサもわかっている。勿論、今大人しくしているのも、殺されないように保身に回っているだけだとわかっている。

 ヴィンセント達としても、アンジェロの狙い通り大人しく置いてやる理由はない。追い出してもいいし殺してもいいし、とにかくアンジェロがいない方が都合がいい。


 なのにヴィンセントはアンジェロを追い出し切らない。その様子を見ていると段々、メリッサはアンジェロを暗殺したくなってくる。だが一応、ヴィンセントが追い出し切れない理由もわかっているつもりだ。

「あなたって本当に、ミナちゃんに甘いわねぇ」

「……」

 昔のヴィンセントだったら、ミナが友達を殺さないでと縋っても、敵だと判明した時点で聞き入れなかっただろう。しかし、すっかりミナに情が移ってしまったヴィンセントは、「ミナのお友達」に強く出られないのである。そして恐らくアンジェロがそれを察して逆手に取っていることも、一応わかってはいる。

「あのアンジェロと言う男、扱いにくいと言ったらないわ」

「同感だ」

 賢く立ち回り、保身を優先しているだけあって地雷を踏むような事はしない。アンジェロは問題を起こすどころか、ミナと一緒に屋敷の管理を手伝ったりご機嫌取りをするので、ミナはずっと上機嫌だ。たまにケンカもしているようだが、じゃれ合いレベルのもので、すぐにケロッとして楽しそうに過ごしている。

 ヴィンセントやメリッサの帰れコールにも、のらりくらりと言い訳をして受け付けないし、ついにはボニーとクライドとも仲良くなり始めた。そして、ミナについてはやや懸念すべき傾向が見える。ハッキリ言って、もう面倒くさいから殺したいと思うくらい、ヴィンセント達は途方に暮れていた。


 ミナはと言えば、ヴィンセント達の悩みなど露知らず。雪かきで濡れた靴と服を着替えて出てきた。女性らしいフォルムの淡い水色のワンピースにラベンダー色のパンプス。

(アンジェロがくれたこの服と靴、ほーんと可愛い)

 正確には、ローマにいた時にジュリアスがプレゼントしたのだが、渡したのがアンジェロだったため、記憶を消されたミナにはアンジェロからのプレゼントと変換されている。

 服も靴も好みのデザインで可愛いし、プレゼントしてもらったのが嬉しかったので、一緒に貰った他の服も併せて最近のお気に入りだ。特に靴がシンプルなデザインで履きやすくてイイ。

 リビングに行くとアンジェロがいたので、すぐに駆け寄ってファッションショーだ。

「似合う? 似合う?」

 一応品評するように見ていたアンジェロがニヤニヤしだす。

「お前そんなヒールの靴履いてんのに、それでもチビなのな」

「うるさいな!」

 アンジェロは背が高いので、こうしてたまにチビネタでバカにしてくるのだが、言い返しつつもこういうじゃれ合いをするのは、ミナは結構楽しい。アンジェロの仕事の都合などは心配ではあるが、アンジェロが友達だと言ってくれたのは嬉しかったし、もうちょっと一緒に過ごせたらいいと思っている。


 ただ、アンジェロの事で少し疑問に思う事はある。出会った初めの頃はぶっきらぼうで無愛想で、非常にとっつきにくい人だった。なのに今はまるで別人である。ローマにいた頃のアンジェロがウソの様によく笑うし、ミナにも優しい。その事が本当に不思議だったので、思い切って聞いてみることにした。

「こっち来てから、なんかアンジェロ明るいし優しいね?」

 その質問は予想外だったのか、アンジェロは一瞬「うっ」と声を詰まらせて、ややバツが悪そうにしながら答えた。

「いや、まぁ最初はさぁ、やっぱお前吸血鬼だし、警戒してたっつーのもある。仕事柄な。でも、それなりに一緒にいたら慣れたっつーか。お前おもしれーし、いい奴だなーと思ったし」

 歯切れ悪くそう言っていたが、アンジェロはミナを見て微笑んだ。

「まぁ要するに、結構お前の事気に入ってんだよ、これでもな」

 ミナに媚びる作戦を敢行中のアンジェロの攻撃に、またしてもキュンとするミナ。

「そうなの? えへへ、嬉しい……ありがとう」

「……っ、別に……」

 ちょっと頬を赤らめてはにかむように笑って、潤んだ目で見上げてくるミナに、予想外の反撃を喰らうアンジェロ。


 そしてそのやり取りをリビングの入り口で偶然目撃し、会心の一撃を喰らい白目を剥くヴィンセントとメリッサ。

「あぁもう、どうしたらいいのかしら……」

「なんということだ……」

 少し前までこれでいいと思っていたのに、クリシュナの記憶を消したことを、これほど後悔したことはない。

 激しく落ち込む年長二人を、ボニーとクライドが一生懸命慰めるのだった。

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