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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
6 ローマ編

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6-3 結界など役に立たん

 メリッサ達はこの間にミナの居所を突き止めていた。一見ただのオフィスビルにしか見えない、10階建てのビル。しかし、そのビルはただのビルではない。赤外線やエックス線を通さない鉛の壁、防弾ガラス、レーダー、監視カメラなど、最新鋭の防衛設備をそれとわからないように備えてある軍事施設だ。このビルにある会社は表向きは傭兵派遣会社として登録してあり、紹介制で誰でも依頼できるわけではない、という事になっている。

 しかし、ここに実際に存在するのは軍属の組織であり、一般の人には認知されない―ーされる必要のない―ー化け物狩りを生業とする組織だ。そこに今ミナが囚われている。


 最初の内はミナが攫われたというメリッサの言葉に懐疑的だったボニーとクライドも、この組織の存在に行きついてからは、危機感を隠せなくなった。クリシュナは信用できる男だ。何しろヴィンセントの兄であるし、メリッサも信頼できる男だと太鼓判を押している。ボニーとクライドにとっても、インドにいた間に親交を深めて、博識で穏やかで怒る事などなく、いつも笑ってミナやクライド達の様子を見守るようにしてくれていたクリシュナと言う男を信頼している。

 だからと言って、この組織全体を信用できるはずはない。自分達に対抗する勢力の一つなのだから、危機感を感じて当然だ。


 見上げるビルは、ただの人間にはただのビルに映っているだろう。しかし、可視光線以外も感知できる吸血鬼たちには、引き込まれる様な黒さを放って映る。そしてビル全体を、青白い炎が包んで、煌々と照らしているのだ。

「どうやら結界を張っているようね」

 溜息交じりのメリッサの呟きに、クライドが唸る。

「そんなにミナを独り占めしてーのかな」

「ミナはあたしたちのミナなのにー」

 クライドの言葉にボニーが拗ねたように口を尖らせる。それを横目に見てメリッサはもう一度溜息を吐く。

「ミナちゃんを逃がさない、そして私達にも接触させたくない。ミナちゃんをかごの鳥にしてまで独占したいのか、それとも」

「それとも?」

 おうむ返しにしたボニーにメリッサが続ける。

「こんなに拒絶を受けるほど、私達が嫌われてしまっているか、ね」

 メリッサの推論にやっぱりクライドは唸る。

「クリシュナが俺らの事嫌ってるようには見えなかったぜ?」

 同調する様にボニーも頷く。そしてメリッサも頷く。

「そうね、私もそう思うわ」

 メリッサが肯定してしまったので、ボニーは首をかしげている。

「えぇ? どういうことなの?」

 ボニーの問いかけにメリッサは「わからないわ」とだけ答えて、もう一度ビルを見つめた。


 このビルの中にクリシュナがいて、そしてミナがいる。クリシュナがミナを連れ去ってしまった理由はわからないし、ミナがどんな気持ちでここにいるのかもわからない。もしかしたらミナは納得してここにいるのかもしれないし、不当な扱いを受けているかもしれない。全てが想像の域を出なくて、クリシュナが何を考えているのかも、ミナがどうしているのかもわからないことに不安な思いが募る。

 だが、ヴィンセントから前もって聞いていた話を統合すると、あのクリシュナはヴィンセントを敵視している可能性がある。だとしたら、クリシュナにとっての、ミナの存在意義は一体何なのか。そう考えると、ミナの気持ちを思うとやり切れないし、ヴィンセントが苦しむと思うと、メリッサも居たたまれない気持ちになる。だから、早くミナを取り戻して、ヴィンセントの魔眼を使って、クリシュナの記憶を消してやればいい。記憶がなければミナは傷つかずに済む。何も知らせずにイタリアから逃亡したっていい。その為にはとにかく、ミナを取り戻すことが絶対だ。


 目の前に燃え盛る青白い炎へ手を伸ばしてみる。するとメリッサが触れたところから勢いよく炎がたけり狂い、その炎の悍ましさにメリッサは思わず後ずさった。

「悔しいけれど、私にはこの結界を突破する事はできないわ」

 苦渋の表情をしてそう呟いたメリッサに影が差した。振り返ると、親友がビルを見上げていた。

「問題ない」 

 そう言ってビルに向かって歩き出そうとするヴィンセントに、メリッサは拗ねたように小首をかしげる。

「もう、ヴィンセント、戻るのが遅いわよ」

「すまない。少し手間取ってな」

「1週間も何に手間取っていたのよ?」

 その質問にヴィンセントは唸りながら答えた。

「一番時間を食ったのは、どのようにミナを納得させるかだな」

 普段なら相手が納得しようがしまいがお構いなしだというのに、今回はミナを納得させる必要がある、それほどの事が起きているのだとメリッサは推測した。

「そう。ミナちゃんは納得してくれそう?」

「難しいだろうな」

 そう呟きながらヴィンセントは歩を進め、炎の壁に手を伸ばす。青白い炎は爆発的にヴィンセントを包み込み、メリッサ達もその風に煽られて顔を腕で隠す。その腕の隙間から、炎が沈静化していくのが見える。ヴィンセントを包み込んでいた炎が徐々に薄らいで、渦が拡大していくようにヴィンセントの周囲から炎が退避していく。その様を、やはり最強の名は伊達ではないと感心とも呆れともつかない気持ちで見やりながら、ヴィンセントが促してメリッサ達も炎の渦をくぐった。

 

 

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