6-2 どうしてミナ様の幸せを奪うのですか
長らくお待たせして本当に申し訳ないです、、、。
ソファの上に寝そべるようにしながら、ヴィンセントは思案していた。そこに血を運んできたシャンティが現れ血をテーブルにおくと、ヴィンセントを不安そうに見上げた。
インドに戻って1週間、屋敷に戻るとすぐにヴィンセントはシャンティ達に事情を話し、スニルとレヴィに情報を探ってもらっていた。彼らは元々スラム育ちでスラムでは顔がきく。それに今はその交友関係を活かして、職もなく犯罪に手を染めるしかなかった人々を雇って教育し、シャンティが社長となった人材派遣会社を設立していた。こういった新進気鋭の企業で重要なのはコネクションと情報である。シャンティ達はその人脈を活かした情報収集能力にも長けていた。
シャンティ達からもたらされた情報をまとめ終わると、ヴィンセントは血を一息に飲み込んでシャンティに尋ねた。
「兄様が大学を辞めていたのは事実だな?」
その問いにシャンティは神妙に頷く。
「間違いありません。大学の事務局、エゼキエル家双方に確認を取りました。一応学生にも聞いてみましたが、2ヶ月近く前から、クリシュナ様をお見かけしていないそうです」
「そうか」
調べによると、クリシュナは2ヶ月前に退職したらしかった。それなのに今になって「仕事が片付いた」と言ってやって来た。何故クリシュナはそれを隠している? なぜ今になって? 片付いた仕事とは一体何か? その辺りは今の所考えてもわからなかった。予想は出来るが、憶測の域は出ない。
他に調べてもらったのは、屋敷の継承が正しく行われたかどうか。これは問題なかった。そして、家でのクリシュナの様子だ。これはヴィンセントが直接エゼキエル家に聞きにいった。ラジェーシュ達は何故そんな質問をされるのかわからず困惑していたが、ラジェーシュの膝に座っていたジャイサルが言った。
「あのねー、おじいちゃん最近、あんまり本読んでくれなかったの……」
不服そうにするジャイサルを見ながら、「毎晩絵本を読み聞かせてジャイサルを寝かしつけるのが、父さんの役割だったので」とラジェーシュが補足した。なんでもない話に思えたが、それが夜間の事であるのに引っかかりを覚えた。詳しく話を聞くと、読み聞かせをしてくれなくなったのは、ミナが誘拐された時期と重なっていた。だが、それ以外は特別変わった事はなく、それ以前にクリシュナはいつも朝が早く夜が遅いため、家で顔を合わせる時間は短く、正直な話、わからないというのが正しいようだった。
これらの情報をまとめ上げ、更にクリシュナの言っていたことを検証する。クリシュナは軍の組織に入ったのは、地下の者を殺すためだと言った。いつ入ったのかは不明だが、以前クリシュナに会った時ーー約200年前ーーは所属していなかったのは間違いない。そしてもう一つ確信しているのが、入った理由が真っ赤な嘘だということだ。
確かにクリシュナは地下の者を追い求めていたし、呪いも真実だ。しかし、クリシュナは200年前の時点で、自身の仇敵を既に殺害しているのだ。なにしろヴィンセントも手伝ったのだから、それは間違いない。だから今更その組織に身を置く必要性はないし、未だに呪いが残っているなら、その状態で人間の面倒を何十年もみれるはずがない。大体、200年前に片付いているのに、その後に軍に入るなんて無駄でしかない。そんなことはありえないのだ。
だとしたら、出てくる結論は一つしかない。
「ヴィンセント様……」
シャンティがやはり不安そうにヴィンセントを見つめる。いつもなら、安心させる意味も込めて不遜に笑ってやるところだが、今のヴィンセントにはできない。その心の中が怒りの炎に埋め尽くされているからだ。
「世話になった。イタリアに戻る」
「あの、クリシュナ様は、ミナ様は…」
シャンティの問いにヴィンセントは「ミナは取り戻す」とだけ言って消えた。ヴィンセントが消えた虚空を見つめて、シャンティは悔しそうに涙を流した。助け出す人の中に、クリシュナの名前がなかった、その意味を悟って。




