5-11 確かに私が悪いけどそれはない
ミナはソファに座っていたが、いきなり連れて来られてどうしたものやら悩んでいた。とりあえずクリシュナのケンカに味方するのはイイとして、ケンカの理由を聞いておかないとヴィンセントに連絡も出来ないと思った。
クリシュナはいないし、今は何もすることがない。考えあぐねて部屋を見回すと、壁際の本棚にはぎっしりと本が詰まっていた。立ち上がって本棚の前にいくと、陳列されている本を見上げる。
並べられている本は戦闘や戦略、魔術や魔物に関する物がほとんどだった。仕事上こういう知識は必要なのだろうと思って眺めていると、一冊の本が目に入った。
その本は吸血鬼の生態について書かれた者のようで、ミナも興味をそそられた。しかし、その本は最上段にあって背伸びしても届かない。ジャンプしてみたのだが、その列はギチギチに詰まっていて、無理やり引っ張り出そうとしたら背表紙を破いてしまいそうだ。
腕組みをしたミナは閃いた。今は誰も見ていないし、よじ登っても大丈夫だろう。そう考えて本棚によじ登り、なんとか最上段に到着。周りの本を押さえながら、目的の本をなんとか引き抜こうとする。
すぽんっと本が抜けた瞬間、本棚がぐらりと傾いた。ミナはそのまま本棚と共に床に落ち、上からバサバサと本が降って来たと同時に、本棚がミナの上に倒れこんできた。
「ぐえっ、いたた……」
なんとか本と本棚の間から抜け出そうとモゴモゴ動いていると、いきなりドアが開く音がした。
「どうしたの!?」
クリシュナの声だ。足音は二人分聞こえるので、恐らくアンジェロも一緒だろう。
「クリシュナさんー!」
「ミナさんここ!? 大丈夫ですか!?」
クリシュナが本棚を起こして、アンジェロが本をかき分けてミナを救出してくれた。
何とか起き上がると本棚の本はほとんど床に散らばってしまっている。
「ごめんなさい……」
シュンとして謝ると、クリシュナがミナの頭を撫でた。
「何か読みたいものがあったんですか?」
「はい……でも、上の方にあったから……」
さすがによじ登ったとは言えない。しかし恐らくクリシュナは察したのだろう。呆れたように笑っている。
「そこにステップがありますよ」
クリシュナが指差した方を見ると、壁に梯子が立てかけてあった。なんたることだ。
「ごめんなさいー」
「いいですよ。ミナさんはドジですね」
「うぅ」
しょぼくれていると、クリシュナがミナの髪にキスをして、ミナにとろけるスマイルを向けた。
「そう言うところも可愛いですよ」
ミナはクリシュナのスマイルとその言葉に一瞬で血が頭に上って、ボンと顔を赤らめた。
なんとか顔の熱を冷ましながら本を3人で片付けていると、本を仕舞いながらアンジェロが話しかけてきた。
「ミナさんは吸血鬼ですよね」
「はい。そうですよ」
「おいくつですか?」
「24です」
「お若いですね。吸血鬼化したのは最近ですか」
「そうです。アンジェロさんはおいくつですか?」
「私は25歳です」
「あ! 同い年!」
同年代と知って俄然親近感が湧いたミナは、目を輝かせてアンジェロを見た。
「敬語やめよ? ミナでいいよ。アンジェロって呼んでいい?」
アンジェロはやっぱり無表情だが、どこか複雑そうだ。
「ミナさんは好きにしていただいて構いませんが、私はこのままで結構です。ミナさんは課長の未来の奥様ですし」
クリシュナがミナの事を敬称をつけて敬語で話しているのに、アンジェロが呼び捨てタメ口で話すことは憚られるだろう。
ミナにしてみれば同世代の知り合いが出来たのが嬉しかったので、残念極まりない。
その様子を見ていたクリシュナがミナに声を掛けた。
「じゃぁこうしよう。これから僕はミナって呼ぶし敬語も使わない。ミナも僕にそうしてくれるね?」
やっぱりクリシュナはさすがである。なんと気のつく紳士だろうか。ミナは元気良く頷いて、もう一度アンジェロに振り向いた。
「ね、アンジェロ。だからアンジェロも私には普通にしてね!」
それを聞いたクリシュナは「あ」と気付いたが、時すでに遅かった。アンジェロはミナの言葉を聞くと、わかったと一言言った後、拾った本でミナの頭をブッ叩いた。
「ちょ! なにすんのよ!」
頭を押さえて憤慨するミナに、アンジェロは軽蔑の眼差しを向ける。
「なにすんのじゃねーよ。お前本棚よじ登るとかバカか。人が折角手伝ってやってんのにベラベラ喋ってんじゃねぇ。さっさと片付けろ」
確かに普通にしろとは言ったが、まさかここまで本音を出されるとは思わなかった。思わずクリシュナを見ると「ごめんねぇ」と申し訳なさそうに謝られた。
別にクリシュナが悪いわけではないし、アンジェロの言う事ももっともなのだが。
(なるほど、クリシュナが苦労するはずだわ……)
と思ったものの、自分がココの女将さんになったら、自分も苦労しそうだと思い至って、ガックリと肩を落とした。




