5-9 束縛の強い男は嫌われますよ
ミナが気付いた時にはクリシュナのオフィスに連れてこられていた。クリシュナを見ると焦燥した表情をしていたが、安心したように息を吐くと、いつものような柔和な表情が戻った。
「あの、クリシュナさん?」
なぜ急に連れて来られたのか尋ねようと声を掛けると、クリシュナはミナの肩を抱いて誘導し、ソファに座るよう促された。大人しくソファに腰掛けると、クリシュナはデスクに寄って電話を掛け始めた。
「アンジェロ、戻ったよ。すぐに結界を張ってくれるかな。うん、そう。頼むよ」
聞こえた単語に首をかしげる。なぜ結界など張るのだろうか。ミナが見つめる先で電話を切ったクリシュナは、やっとミナの隣に来てくれた。
ミナの疑問はわかっているようで、クリシュナは一つ息を吐くと口を開いた。
「急に連れて来てしまって、申し訳ないと思ってます。本当はミナさんに決めて欲しかったんですけどね。ヴィンセントと、昔のことでケンカしてしまいましてね」
なんと兄弟喧嘩の腹いせのようだ。そんなに何をケンカしたと言うのか。
「まぁ、気が済んだら仲直りしますよ。元はと言えば悪いのはヴィンセントですし、ミナさん、ちょっとこの兄弟喧嘩に、付き合ってもらえませんか?」
おねだりする子犬のような目で見つめられると、ミナはつい首を縦に振っていた。500年以上生きていても喧嘩をすると言うのは新鮮で面白かったし、クリシュナのプロポーズを受け入れた時の予行練習にもなると思った。
そうこうしているとコココガチャ「失礼しまーす」と、返事も返さぬうちにドアが開いた。どうせアンジェロだ。アンジェロはミナがいるのに気がつくと、少し驚いた様子だった。アンジェロが来るとクリシュナは立ち上がり、アンジェロが何か言う前に退室を促して、ミナに振り返った。
「すみません、少し仕事をしてきますね」
よく考えたら、本来クリシュナは夜のお仕事中だ。その事を思い出して頷くと、クリシュナは微笑んでアンジェロと共に部屋から出て行った。
「課長、結界は張りました。ですが彼女は……」
結界を張った中に閉じ込めた事になってしまうが、それはいいのか。そう尋ねようとしたアンジェロに、クリシュナはにっこりと微笑んだ。
「彼女は今日からここで暮らすから、未来の僕の妻として丁重に扱ってくれよ」
アンジェロはやはり無表情で聞いていたが、小さく息を吐いた。
「かしこまりました。彼女にはレミをつけますがよろしいですか?」
「うん。あと、彼女への来客は断って。それと、彼女を監視しておいて」
アンジェロは思わず廊下を歩く足を止めた。
「監視ですか。何故でしょうか」
「逃げられると困るからに決まっているじゃないか」
アンジェロは思わず半目になる。
「束縛が強いと、かえって逃げられますよ」
「そうなんだよ。だから彼女の意思で来て欲しかったんだけどねぇ」
クリシュナはやれやれといった風に溜息をつくが、アンジェロだってやれやれだ。
「仕方がありませんね。そうと悟られないように束縛しましょう」
「できる?」
クリシュナの質問に、アンジェロは胸を張った。
「もちろんです。若い頃から色ボケ上司に英才教育を施された色ボケ軍曹ですから」
「お前は本当に失礼だね……」
英才教育を施して来たのは間違いないが、上司に向かって色ボケとはなんだ。やはりクリシュナは溜息をつかされた。




