5-3 部外者は射殺します
それから4か月ほど過ぎた頃。生活面では勿論現代科学も活用させていただいているが、折角脳が発達して超能力が使えるはずなのだからと、ヴィンセントに指導を受けながら、超能力を生活に活用しつつ訓練している。そのおかげで、ヴィンセントとしては戦闘向きの超能力を開発したかったはずなのに、ミナの能力は生活向上に特化したものになってしまって、ヴィンセントが呆れ果てている。だがそのおかげで電気やガスは必要なくなり、造園業者に頼んで井戸を掘ってもらったので、水道局すらもいらなくなった。生活面はほぼ自給自足が確立しつつある。
そして、シャンティや春たち、クリシュナと手紙のやり取りをして、フィレンツェの写真を撮ったり、彼らの写真を送ってもらったりしながら過ごしていた。イタリアに来てからは、造園会社の人たち以外とは、買い物以外で関わっていない。この城は買った物だったので、人間たちと交流する必要性がないということから、あまり人間とは関わっていなかった。郵便ですら城に届けてもらわずに、郵便局に私書箱を作って、そこに毎日取りに行っている。それで余計にミナはこれまでの友人たちと細かく手紙のやり取りをして、両親の事も時々思い出して、北都と懐かしんだりして過ごしていた。
(いつかお義兄さんも一緒にすごせるといいね)
北都の言葉に微笑んだ。
「そうだね、いつになるかわかんないけど。近いうちに会えるみたいだから、それを楽しみにしとく」
クリシュナは長期休暇を取ってフィレンツェまで遊びに来てくれるらしい。それまでは手紙で我慢の日々だが、もういくつ寝ると会えるのだと思うと、クリシュナに会える日が待ち遠しい気持ちがどんどん高まる。この話をしたらヴィンセントやメリッサ達もとても喜んでいて、クリシュナが来た時に観光を満喫できるようにと、ミナは観光ガイド片手によく街を散策している。ちなみにミナは方向音痴なので、よく迷子になって迎えに来たヴィンセントにこっぴどく叱られるのはご愛嬌だ。
そんな日々を過ごしていたある日、ヴィンセントと共に銀行&輸血泥棒(最早日課だ)から帰ると、普段よりリビングが賑やかだった。どうしたのかと思いながらリビングに入って行くと、どうやらお客様が来ているようだった。ボニーが満面笑顔で走ってきて、リビングまでグイグイ引っ張っていくのについていくと、そこには恋人の姿があった。
「クリシュナさん!」
「やぁ、ミナさん久しぶりですね」
少し早めに休暇が取れたので、予定を前倒しにしてきてくれたらしい。久しぶりに会えたクリシュナはやっぱりカッコいいし、とても優しい。こんなに素敵な人に大事に愛されているなんて、幸せすぎて爆発してもいいと思う。だけどなんとなく、クリシュナが疲労しているように見えた。
もしかしたら城に来るまでに疲れてしまったのかもしれないし、休みを取る為に、必死に仕事を片付けてきてくれたのかもしれない。体が疲れを感じることはなくても、精神的には人間の頃と耐久性はそんなに変わらない。精神的に疲れてしまうことだってあるだろう。
少し心配だったが、翌日になるとクリシュナは以前のように戻っていて、やっぱり疲れていたのだと結論付けた。
(こんなに疲れてても、会いに来てくれたんだ)
そう思うと嬉しさで胸がいっぱいになって、思わずニヤケていたら、ボニーに不気味がられた。
今日はいよいよ満を持して、クリシュナとフィレンツェデートである。この日の為に散策を頑張って来たので、腕の見せ所だ。もちろんクリシュナが恥ずかしくないように、精一杯オシャレをした。ちなみにボニーとクライドも行きたがったが、折角だから二人きりにさせてあげなさいとメリッサが引き留めてくれていた。有難いことである。
(みんなで行くのは明日。今日は私にクリシュナさんを独り占めさせてくださいね)
そう思いながらみんなに手を振ってクリシュナと共に街に繰り出した。
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男が一人廊下を歩いていた。時刻は既に夜明けが近いので、夜に活動する彼を含めた数人以外は寝静まっていて静かだ。仕事が忙しい彼はいつも早歩きで、その腕には大量の書類を抱えているが、決してバランスを崩すことなどなくスタスタと歩みを進める。目的地はもうすぐそこだ。毎日訪れる上司の部屋、ドアの前に辿り着く。いつも通りに3回ノックをして、いつも通り返事を待たずに「失礼しまーす」とドアを開ける。彼はとてもせっかちなので返事など待っていられないが、「失礼しますと言うがお前は上司に対して本当に失礼だ」といつも叱られる。だがこれもいつもの事、叱られ慣れた彼が気にするはずもない。ドアを開けると広い部屋には手前に応接セットがあって、その向こうには重厚なデスクがある。いつもはそこに上司が座っていて、彼を見るなり上司が溜息を吐くのがいつもの光景だ。しかし、彼が見た者は、いつもの光景とは全く違っていて。
なぜか応接セットに座っていたのは二人の男女だったが、来客の予定など聞いていないし、部屋に上司の姿はない。彼は上司の秘書でもある為、彼の知らない来客などあり得ないはずだった。もしかしたら客ではないかもしれないと考えた彼は、ドア横のコンソールに書類を置いた後に琥珀色の瞳で男女をとらえると、流れるような動作で「ダスク」と「ファントム」と名付けた銃を男女に向けた。
「どちら様でしょうか。射殺されたくなければ速やかに氏名と目的を」
銃を向けられた男女、プラチナブロンドに緑眼のイケメンは呆れたように溜息を吐き、かたや黒髪の小柄な東洋人の少女は慌てふためいて両手を上げ、「ミナ・ナガクラ! 観光です!」と答えた。




