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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
4 インド編

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44/140

4-15 どんだけインド経済に貢献してるんですか

 北都と交代したミナが地図を壁に張ると、シャンティがナイフを持ってきた。

「じゃぁ、まずはヴィンセントさんから」

 ナイフを手渡すと、壁に投げつけた。

「えっとー、イタリア……うぇっ! ヴァチカン!?」

 よく見るとローマのど真ん中に刺さっていた。割と最悪である。

「じゃァ次メリッサさん」

 次はメリッサが投げてロシア、クライドは目を瞑って投げたので太平洋、ボニーも適当に投げて南極に刺さった。

「じゃぁ、最後は私ですね」

 今の所ヴァチカンとロシアの二択だ。ヴァチカンだけは絶対避けたい。ロシアに当たりますようにと祈りながら投げた。

「ミナは一人で宇宙だな」

 地図にすら刺さらなかった。

「えぇぇ!? ちょ、もう一回!」

「だめだめー! 俺だって海なんだから!」

 懇願しても突っぱねられて、渋々引き下がった。

「じゃぁロシアかイタリアの2択ですけど……」

「待て、クリシュナと北都にも投げさせろ」

 その言葉に背筋が伸びた。

「え! クリシュナさんも、インドを出るんですか……?」

 クリシュナには仕事も家族もあるし、てっきりインドに残るのだと思っていた。遠距離恋愛は淋しいけど、いざとなったらヴィンセントに瞬間移動で連れてきてもらえばいいや位に思っていた。

「うーん、正直僕はまだ悩み中ですね。でも、46歳でこの見た目っていうのは怪しいから、そろそろ潮時だとは思っていたんです。すぐに一緒にいられるわけじゃないけど、たまに旅行がてらミナさんに会いに行きます」

 嬉しくて言葉がつまり、じっとクリシュナを見つめると微笑み返された。その様子を周りは完全無視していたが、ヴィンセントが「さっさと北都を出せ」とせっつくので、渋々北都と交代した。

 

「よーし。そりゃ!」

 北都はアメリカに刺さった。この時点で選択肢はロシアとアメリカになったようなものだ。最後にクリシュナが投げると、見ていた吸血鬼はショックを隠し切れなかった。

「ちょっとお義兄さん! さては狙っただろ!」

「フフ、実は行ってみたかったんだ」

 クリシュナの投げたナイフは見事にイタリアの足首に刺さっていた。

「え、ていうか、まさかヴィンセントさんも狙ってました?」

「あぁ」

 この二人、絶対打ち合わせていたと思う。


 ヴァチカンだけはあり得ない! とみんなで抗議して、とりあえずローマには近づかないという事で妥協してイタリアに決定した。

「いつ発たれるんですか?」

そう、そこが問題だ。

「つーか俺ら移動手段車じゃん! イタリアまで一体何か月かかるんだよ?」

「下手したら1歳くらい年取りますかね」

「準備にどれくらい時間がかかるかしら……」

「てゆーか、あの辺国境警備突破できんのかな?」

 想像だけで溜息倍増。空気中の二酸化炭素含有率急上昇。やっぱりやめたいと言い出したい感情に襲われる。

「ハァ。仕方がない」

 ヴィンセントが溜息を吐きながら口を開く。もしかして何か策があるのか、それとも行先変更を検討してくれたのか。そんな期待を抱いてヴィンセントを見つめる面々だったが、見事に期待は裏切られた。


「航空機を奪うか」

「はぁぁぁぁ!?」

 冗談は休み休み言って欲しいものである。本当にこの暴君についていくのは大変だ。

「せっかくの提案ですが、すいません。絶対、嫌です」

「黙れ、決定だ」

「イヤイヤ! 決めないでくださいよ! 本当勘弁してください!」

「お前の意見は聞いていない」

「ていうか、操縦できる人なんていないでしょ!?」

「操縦士を操れば済むことだ」

「あぁ、なるほど。イヤイヤ! それを差し引いても嫌ですって! 大騒ぎ必至じゃないですか!」

「騒がれなければいいだろう」

「え? そんなの、できるんですか?」

「任せておけ」



 任せていいのだろうか。猛烈に心配だ。仕方なく、上手くいきそうならいいんだけど、無理しなくてもいい、とやんわり言ってみたものの、反対を押し切る事は出来ず。

 結局ヴィンセントの指示通り準備して、更に2か月が経過した。


 クリシュナに聞いた通りに、弁護士に間に立ってもらって、屋敷と財産の譲渡は完了した。クリシュナはしょっちゅう一緒にいてくれたし、エゼキエル家の人たちにもすごくお世話になった。

  こうなって見ると、つくづくクリシュナの存在って有難い物だったのね、としみじみ感じた。

 まぁとにかくそんなこんなで準備は整ったわけだ。





「さて、じゃぁそろそろお別れだね」

 お見送りをしてくれるみんなはそれぞれ笑顔だったり泣いていたり。使用人だけでなく、今日はクリシュナがエゼキエル家の人たちも連れてきてくれた。

「泣かないでくださいよー!」

 と言っても泣き止むはずもなく。

「絶対、また来てくださいね……お待ちしてますからぁー! うわぁぁぁぁん!」

 シャンティに至っては子供のように泣き出す始末。

「シャンティ泣きすぎ! 絶対また来るから、それまでよろしくね」

「うわぁぁぁん! ミナ様ぁぁぁ!」

「本当泣きすぎだよ。なんか死んだみたいじゃない」

 苦笑しながらも泣きつくシャンティをギュッと抱きしめた。

「絶対また来るから、それまでみんなと一緒に頑張ってね。私達も頑張るから」

「絶対だからな! ウソついたら十字架千本飲ますからな!」

「うっ、それはいやだな。絶対また来る。約束する」

 シャンティを宥めていると、クリシュナが傍に寄ってきた。

「クリシュナさん、淋しくなるけど、手紙を書きますね」

「うん、僕も君に手紙を書きます」

 そう言うとクリシュナはミナにキスをした。驚いて硬直しているミナに、クリシュナは悪戯っぽく笑った。

「その内イタリアにも遊びに行きますね。続きはその時に」

 ミナは顔を真っ赤にして、頭に血が上り過ぎてパッタリと倒れた。やれやれと言った風にヴィンセントがミナを小脇に抱え、別れを惜しみながら、ミナ達は屋敷を後にした。



「って言っても、何十年先の話だろうなぁ。ベトナムもロンスァンが生きてる内に行けるのかなぁ」

 顔の熱を冷ましながら、車の中でぼやいてみる。

「心配しなくても、そう先の話ではないだろう」

「え? そうなんですか?」

「あぁ」

「どうしてですか?」

「そのうち話す」

「はぁ」

 気になるが、どうせこれ以上聞いても絶対教えてくれないので、諦めるしかない。


 それより、本当に飛行機を奪取するつもりなのか。どこのどなたのをどうやって? 空港の旅客機などと言い出したら問答無用で却下だ。ヴィンセントは運転するクライドに右、左、と道案内をしている。しばらく車を走らせると、「停めろ」と指令が下りて、停車した。


(ヴィンセントさんさぁ……私の考えが読めるなら、空気も読もうよ。頼むから。なんで空港きてんの? なんで? もう本当なんで!?)


 当然の様にみんなの歩みも進まない。残念ながらムンバイ空港にご到着だ。飛行機の云々はよく知らないが、管制と連絡取るのがどうのとか、制空権とか、そのくらいはわかる。勝手に飛行機を奪って、他国の空港に無許可着陸できない。大体燃料が足りなかったらどうするのか。全くもう。

 しばらく歩いていくと、車がミーンとやってきて荷物と共に乗せてくれて、飛行機の昇降口まで連れて行ってくれて、そのまま機内に乗り込むことができた。

「……あれ!? なにこれ魔法!? ちょ、ヴィンセントさん!? どういうことですか!?」

「うるさい、黙れ、鬱陶しい」

 ヴィンセントに掴み掛ると、即座に剥がされる。

「もー! どういうことですか!?」

「ハァ。うるさいと言っているだろう……これは、この前買ってきた」


 な ん で す と


「は!? 買ってきた!?」

「あぁ」

「飛行機を!?」

「あぁ、というかお前、人の話を聞け。うるさい」

「だって! 意味わかんないし! マジ意味わかんないし!」

「うるさい」

「ちょ、いくらしたんですか! いくらすると思ってんですか!」

「うるさい」

「うるさいじゃなくて!」

「黙れ」

「もー! 信じらんない!」

 ミナが苛々して座り込むのを気の毒そうに見つめて、クライドたちも小さく話す。

「ヴィンセントって本当色んな意味で半端ねぇな」

 何故か感心するクライド。

「だねー。でも無事に渡航できるならいーんじゃない?」

 果てしなく楽天家のボニー。いっそこのお気楽コンビが羨ましい。


 もう考えるのが嫌になった。そうだ、ヴィンセントの行動について色々不可解な点があるのは今に始まったことじゃない。考えるだけ無駄だ。やめよう。もう諦めよう。


 悩めるヴァンパイア達を乗せて、鉄の鳥はインドを後にした。



 

 それを見送るように、二つの青い瞳が飛行機を眺めて、口元に弧を描いた。

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