4-14 シャンティ、君に決めた!
「で、戦いも終わったし、私達はインドを出ようと思う」
イスラムをやっつけた後死体を片付けて(胃に)、クライド達がシャンティ達を呼びに行った。サルーンに全員を集めて、ヴィンセントが伝えると、使用人たちは一斉にざわめきだす。
「ヴィンセント様、私達も連れて行っては頂けませんか!?」
シャンティが人を押しのけて前にやってきて、ヴィンセントはそんなシャンティを頬に手を当てて見やると口を開いた。
「ついてきたい奴は着いてきても構わない」
「ならば、是非……」
「だが」
瞳を輝かせたシャンティの言葉を遮って、ヴィンセントは言葉を繋ぐ。
「シャンティ、お前はダメだ」
ヴィンセントの言葉を聞いたシャンティは悲壮感に顔を歪ませる。
「なぜですか!? 私ではお役に立たないからですか!?」
「シャンティ、落ち着け」
「お願いします……努力致しますから、どうか私もお連れ下さい!」
「落ち着け、と言っているだろう」
ふぅと小さく溜息を吐きながらシャンティを宥ると、シャンティも雰囲気を察して黙り込んだ。
「お前を連れて行かないのには理由があるが、役立たずだとかそう言う事ではない」
「え? それでは、何故、でしょうか?」
ヴィンセントが合図したのでミナは書類を取り出してシャンティに手渡した。
「サインしろ」
「これは……?」
差し出された書類をシャンティが受け取ると続けてペンを渡し、ヴィンセントはソファに背中を預けてシャンティを真っ直ぐ見つめた。
「この屋敷、そして全財産をお前に譲渡する」
静まり返るサルーン。ベトナムの時は大声大会だったから少し調子が狂う。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
やっぱりインドでも大声大会だった。シャンティは驚きのあまり、ヴィンセントの前に跪いてしまった。
「ヴィンセント様……私にはとてもお受けする事は出来ません。私のような者では……」
「お前以外に信頼して任せられるような人間はいない」
「で、ですが私にはとても勤まりません!」
「シャンティ、お前は私の目が節穴だとでも言うつもりか?」
「と、とんでもございません! ですが……」
「ならば、私の命に従え」
とうとうシャンティは反論できずに黙り込んでしまった。当然ながらその顔色には激しい葛藤の色が見える。
「シャンティ、この屋敷と財産はお前の思うように有効に使え。住居として開放してもいいし、事業を始めてもいい。お前のやりたいようにやれ。財を増やし、信頼できる人間を増やせ。そして、この屋敷に私達が戻ってきた時に、いつでも迎えられるよう準備をしておけ」
ヴィンセントに諭されてもシャンティの頭はついてこない。すると、シャンティの背後にスニルとレヴィがやってきてシャンティの肩にぽんと手を乗せた。
「シャンティ、心配するな。俺たちも協力するよ」
「そうだぞ、お前、ヴィンセント様のご推挙を不意にするなんて地獄行きだぞ」
二人が笑顔でシャンティを励ますと、他の使用人たちもシャンティの周りに集まってきた。
「シャンティなら大丈夫だって!」
「俺たちも手伝うからさ、心配すんなよ!」
「ヴィンセント様達が帰っていらした時に、ちゃんとお迎えしたいだろ?」
仲間からの励ましにシャンティは顔を上げる。しばらく考え込むように目を瞑って、瞼を開いたシャンティの目には決意がこもっていた。
「ヴィンセント様、本当によろしいんですか?」
「あぁ、お前なら間違いはない」
「かしこまりました。ではこのご推挙、謹んでお受けいたします」
シャンティの返事を聞いてヴィンセントはにっこり微笑んで、頼んだぞ、と言葉を贈った。シャンティが書類にサインをして、ヴィンセントが受け取ると、ミナに書類を回してきた。
「弁護士と話をつけているから、その弁護士に渡せ。クリシュナの知人だ」
「え? あ、はい」
一応頷いて書類を受け取ると、クリシュナが傍に寄ってきた。
「シャンカール先生は、ラジェーシュの大学時代の友達なんです。明日にでも一緒にいきましょうか」
「はい!」
頷いてクリシュナを見上げると、クリシュナもにっこりと微笑んだ。ミナが連れ去られたあとから、クリシュナの愛情がより一層深まっている気がする。怪我の功名万歳でミナは幸せである。
ふと、クリシュナが思い出したように手を叩いた。
「そう言えば聞けなかったんです。北都、というのは? ミナさんの別人格?」
そう言えば話した記憶はなかった。勿論シャンティ達だって知らない。いい機会なので、事情を説明して北都を引っ張り出した。
北都はまずクリシュナにあいさつした。
「弟の北都です。お義兄さんはじめまして」
「おっ、お義兄さん……。僕はクリシュナ・エゼキエルです。お姉さんとお付き合いさせてもらっています。北都くんよろしく」
意外にも超ド級シスコンの北都がクリシュナの存在をすんなり受け入れている。ヴィンセントの時はあんなに嫌がっていたと言うのに。ミナは精神テレビを見ながら不思議に思って北都に尋ねた。
「お義兄さんはお姉ちゃんが怪我した時、すごく心配してたし怒ってたから。お姉ちゃんの事大事なんだなってわかった。つまり、コッチ側の人だと思った」
その返答を聞いて笑ってしまったのはミナだけでなくて、ヴィンセントもクスクスと肩を揺らし、クリシュナは恥ずかしそうに後ろ頭をかいていた。
続いて北都はシャンティ達に挨拶をした。事情を話したとしても、シャンティ達にはミナが口調を変えて離しているようにしか見えない。複雑な気分になったシャンティだったが、「あ」とレヴィが声を上げた。
「もしかして、私達に正体を明かしていただいた時にお話しされたのは、北都様でしたか?」
言われてシャンティも思い出した。ヴィンセント達に呼び出されてシャンティとスニルとレヴィで話を聞いた時、ミナはいつもと違っていて、いつもの少し抜けた調子ではなく知的な感じだったのだ。北都も思い出したようで、「そう言えばシャンティ達3人とは初対面じゃなかったね」と笑ったので、3人は北都の存在を納得できた。
話しが一段落して、シャンティが口を開いた。
「次はどちらへ行かれるのですか?」
シャンティに言われてみんな、ハッとした。
「決めていなかったな」
「すっかり忘れていたわね」
「ていうか、スレシュの事も忘れてるよな」
「あ」
本気でスレシュの事も忘れていた。さて、どうしたものか。本当処分に困る。頭を悩ませていると、ヴィンセントがシャンティを見た。
「シャンティ、地下室にスレシュを監禁している。お前らの好きにしろ」
考えるのが面倒だったのか、ヴィンセントはシャンティに押し付けてしまった。
「スレシュがこの屋敷にいたのですか!?」
「実はね、ずっと地下室に閉じ込めてたんだ。食事一人分いつも追加で作らせてたでしょ?」
「そういえば……そう言う事だったのですね」
「悪いけど、適当に処理しといて」
「……わかりました」
シャンティの顔には「どないせーっちゅーねん」と書いてある気もしたけど、見て見ぬふりをした。
「さて、行先をどうするか、だな」
「うーん、この前話し合いで決まらなかったし、いっそくじとかの方がいいんじゃない?」
主にボニーとヴィンセントが悩んでいると、北都がハイハイと手を挙げた。
「世界一周ダーツの旅ってどう?」




