表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
4 インド編
40/140

4-11 イスラム誘拐事件

 ミナが眠りについた後、ヴィンセントは屋敷の人間全員を招集した。

「今日、ミナが重傷で帰ってきたことで、お前らも気づいただろうから全てを話そう」

 ヴィンセントの言葉にサルーンは静まり返る。

「私達は人間ではない。吸血鬼だ。あれほどの怪我を負いながらも回復したミナを見れば人間ではないことはわかるだろう」

 さっきとは打って変わってざわめく。やっぱりと言う言葉があちこちから聞かれた。

「先日のテロの件も私達の仕業だ。そのせいかどうかはわからないが、ミナが襲撃された。つまり、敵が来る。敵は強い。お前達人間がいては足手まといだ。屋敷から出ていけ。私達が敵を掃討するまでは絶対に屋敷に近づくな。敵がお前たちを殺さない保証はないし、お前たちを守りながら戦えるほど生易しい敵ではない。出て行かなければ死ぬ。死にたい奴は好きにしろ」

 ざわめく使用人たちの間からシャンティが割って出てくる。

「それほど危険な敵なら、ヴィンセント様達もお逃げになった方がよろしいのではありませんか?」

「それはできない」

「なぜですか?」

「これは宣戦布告だ。ここまでされて黙っているわけにはいかない。敵は殺す」

 ヴィンセントの強い言葉を聞いたシャンティは苦悶の表情を浮かべる。

「敵は、何者ですか? 人間、ですか?」

「人間ではないわ。私達とは逆の化け物」

 口を挟んだメリッサにシャンティは向き直る。

「逆、ですか?」

「そうよ。敵は神の使い。だから殺すのよ」

 そう言ってシャンティに強い視線を向けると押し黙ってしまった。

「お前達から見れば私達は悪魔だ。私達は神に反旗を翻した鬼だ。神は最大の敵であり、私たちの歴史は戦いの歴史だ。どちらかが滅ぶまで、その戦いを止めることはない。わかったらさっさとここを出て行け。出て行かないのであれば私がお前たちを殺す。それが嫌なら即刻出て行け」

 ヴィンセントの声に、1人2人とその場を立ち去る。サルーンにはヴィンセント達と、シャンティ、スニル、レヴィ、フリティックが残った。

「お前達も出ていけ」

「私達も戦います」

 4人はヴィンセントに強いまなざしを向ける。

「ダメだ。残るなら私がこの手で殺すと言った筈だ」

「ですが、私達はまだなんの恩もお返ししておりません。ですから……」

 縋るような声で懇願するシャンティを遮ってヴィンセントは冷たく言い放つ。

「お前たちが戦ってもすぐに死ぬ。それならば私の手で殺してやる。どうしても私達に恩を返したいと思うのなら、生きてここから出ろ」

 その言葉を聞いたシャンティは俯いてポタポタと涙をこぼした。

「わかり、ました。では、約束してください。絶対に生き残ると。ヴィンセント様達が死んでしまっては、私達はもうお仕えすることもできません。ですから、絶対に死なないでください」

 シャンティの涙の言葉にヴィンセントはふっと笑った。

「当然だ。私を誰だと思っている。伊達に不死王と呼ばれてはいない」

 ヴィンセントの言葉を聞いてシャンティも涙を止めて笑顔になる。

「絶対、ですよ。信じて、お待ちしております」

「あぁ、戦いが終わったら遣いをやろう。それまで身を隠せ」

「はい。ご健闘を」

 シャンティ達4人も頭を下げて出て行った。




 彼女たちを見送って話し合いを始める。

「とりあえず、戦闘に備えて今から血を大量に飲んでおけ。意識がなかったとはいえミナにあれほどの怪我を負わせる敵だ。手足の1本や2本なくなる可能性はある」

 ヴィンセントの言葉にみんな頷いて、クリシュナがじゃぁ後で血を調達してくるね、と名乗り出ると、ヴィンセントも頷いた。

「それと、屋敷に乗り込んでくるとは思うが、各個撃破を仕掛けてくる可能性もある。絶対に一人では外出するな。その際に力のバランスを考えて組め」

「だとすると、ヴィンセントとボニー、クリシュナとクライド、私とミナちゃんね」

「でも、大丈夫かなぁ」

 ボニーが不安そうにする様子を見ていたヴィンセントはソファにギッと背中を預ける。

「心配するな。いざとなれば私の術を全解除する。最悪、巻き込まれてお前らも死ぬかもしれんが」

「……それはちょっとやだな」

「私が術を発動したら逃げればいいだけの話だ」

「ヴィンセントの術ってバスカヴィルのことだよね?」

「そうだ。制御術1号バスカヴィル、2号ホロコースト。この2つはまだいいが、3号と4号を発動した時は気をつけろ」

「3号と4号?」

 まだあったのかとみんなヴィンセントに視線を向ける。

「3号を発動したら私を見るな。それだけで死ぬ」

「何それ!? 超こえぇ!」

 驚いたようにクライドが畏怖の目を向ける。

「目が合わなければ死ぬ事はないが、念のためだ」

「バジリスクみたいだな」

「名前は違うが似たようなものだな」

「で、4号って?」

 ボニーが尋ねると、ヴィンセントは少し考え込むような顔をする。

「4号は、私の力を全て攻撃に充てる術式だ。依って、広範囲かつ圧倒的。一瞬でも飲まれれば命はない。規模が大きすぎてあまり使いたくはない術だ。疲れるしな。もし4号を解除したら速やかにその場を離れろ」

 良くわからないけど、とても恐ろしい物らしい。

「で、それって具体的にはどんなもの?」

 クリシュナが重ねて尋ねると、ヴィンセントはにやりと笑って、見てのお楽しみだ。とはぐらかした。

「とにかく、敵は抹殺しろ。一片の情けも必要ない。皆殺しにしろ」

「勿論」

 クリシュナ達は強く頷いて行動を開始した。


「スレシュどーする?」

 応戦準備の兵糧血を啜っているとボニーが呟いた。

「そーいえば。地下室だから安全かもしれねーけど、万が一敵に殺されたら厄介だなぁ」

 スレシュの事なんかすっかり忘れていた。権利の譲渡が済んでいない以上今はまだ逃がす事は出来ないし、殺されても困るし。どうしたものか。

「奴の事ならもう手は打ってあるから心配ない」

 ヴィンセントが空になったパックをテーブルに放り投げる。

「昨日、スレシュに譲渡書にサインさせた」

「え? いつの間に?」

「兄様が映画を見に行っている間にだ」

「……あぁ」

 つまり、その譲渡書が無事で、後継者にサインさせれば仮にスレシュが死んだとしても問題ない。

「一応命の保証をすると約束しているから、わざわざ殺したりはしないが」

「万が一地下室を攻められたらどうする?」

「一応守る。一応な」

 やたらと「一応」を強調する。正直守る気はないらしい。

「スレシュに関しては現状維持で問題ない。後は戦いに勝って、シャンティに譲渡すればインドにはもう用はない」

 ヴィンセントの言葉に全員が振り向いた。

「え? シャンティに譲渡するの?」

 思わず質問したクリシュナに、ヴィンセントは尋ね返した。

「シャンティ以外に適任者がいるか?」

「それもそうか。ていうか、もうインドから出るのかい?」

「こうなった以上この国にいても面倒だ。さっさと別の国に移る」

 この戦いが終わったらもうこの国とはお別れだ。インドに来て2年と7か月。今回も短期間の滞在だった。

「ねーねー! 次はどこ行くの?」

 ボニーが目を輝かせてヴィンセントに尋ねると、ヴィンセントは少し考えるような顔をして逆に尋ねてきた。

「中東はムスリムなんか見たくもないからやめとこうぜ」

「じゃぁやっぱヨーロッパ?」

「ロシアも捨てがたいわねえ」

「ヨーロッパならイタリアとか?」

「クリシュナってマゾなの? ローマなんて近づきたくもねぇ」

 皆でキャイキャイ言いながら議論を交わす。

 結局話し合いは白熱しただけで決まらず、めんどくせーから戦いが終わってから決めよーぜ、とクライドが言い出して、次の行先の話はお流れになった。



「それより、気になることがある野だけれど、もし敵が昼間に攻めてきたらどうするつもりなの?」

 もし昼間に来たら、戦力はヴィンセントとクリシュナの2人しかいない。ヴィンセントだけでも大丈夫そうな気はするが、当然不安に感じたメリッサが質問したが、「なんとかなるだろう」だけで終わってしまった。

 メリッサが溜息を吐いた瞬間、クリシュナとヴィンセントが突然立ち上がって窓の外を見つめた。その二人の眼差しは、明らかに敵意を宿していた。




 その時、眠っていたミナも勢いよく覚醒し、パチリと目を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ