3-9 誰だって何度でも生き直せる
「一つ、聞きたいことがあるんだが」
突然マイケルが口を挟んだ。
「何故、私の家を襲撃してきたんだね?」
(うわー本人の前で言いたくないぞこれ)
前回の反省を生かして、こういうことは言わないようにしたいと思うミナだったが、遠慮なくヴィンセントが口を開いた。
「とりあえず、理由は3つある」
ヴィンセントは偉そうにふんぞり返る。
「まず1つ目。ハノイに来たのはいいが、宿が取れなくてな。仕方なく家を探していたら貴様の家を見つけたから頂戴することにした」
マイケルは信じられないと言った顔をした後、ショックそうな顔をしている。人間ではない化け物なので、普通の思考回路ではないのだと無理やり自分に言い聞かせている模様。
「そして2つ目。貴様らデイヴィスファミリーの事業が気に入らなかった」
「事業とは?」
「我々吸血鬼は人の血を飲む。できれば美味い血が飲みたいからな。麻薬の売買をするような人間は私たちにとっては敵だ。麻薬の混じった人間の血は汚物のように不味い。しかも貴重な少女及び処女までご丁寧に薬漬けにされては、こちらは堪ったものではない」
血液の、特に後半の処女のくだりに関しては完全にこっちの都合だが、やはり麻薬はダメ、絶対だ。
「そして3つ目。消えて喜ばれることはあっても泣かれることはない金持ち。これは毎回私が家探しをする時の条件だ。そういう奴なら殺しても周囲からの批判が少ないからな。まぁ、この3つが理由だ」
ヴィンセントの話を聞いたマイケルは俯いてしまった。聞かなきゃよかったと思っている事だろう。沈黙したのを見届けて、話が終わった後ヴィンセントは思い出したように龍に振り向いた。
「言っておくが、基本的に全てお前に任せるが、麻薬だけはやめろ。麻薬の売買に手を出せば、いかにお前といえども殺す。それ以外なら武器密輸なり殺人なり何でも構わん。わかったな」
「うん。わかった」
今の話を聞いた後にやるとは言えないだろう。自殺行為だ。そもそも龍はそう言った事をやる気ではないので、その点は安心だ。
その後マイケルから組織へ向けて完全に解散宣言が出され、デイヴィスファミリーは事実上崩壊した。
「消えても泣かれることはない……か」
話が終わった後にマイケルが呟いていた。マイケルも何か思うところがあったのだろう。マイケルと龍は協力して財団をと病院を設立し、献血の推進と、麻薬やアルコール中毒者の支援団体を作るのだと躍起になっている。これはヴィンセントの言葉に影響を受けたんだと思う。血の清浄化。人間にとっても吸血鬼にとっても良い事だ。
いよいよ、旅立ちの日。
「じゃぁミナ、元気でな」
「あんまり無茶しちゃだめだよ!」
春と龍が笑顔で見送ってくれた。
「うん! 私二人に出会えて本当に良かった! 絶対また来るからね!」
「こっちこそ。アミンには本当に感謝してる。待ってるからな」
「ちゃんと私達が生きてる間に来てよ!?」
「う……がんばる!」
ミナ達は大きく手を振って、いろんなことを教えてくれたベトナムに別れを告げた。




