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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
3 ベトナム編
28/140

3-8 結局トドメはさすんですね

 今日は「気分転換しようよ」とスァンからお誘いがあって、3人で”ハノイの歴史めぐり”をして回っていた。ハノイには霊廟や古い建造物が郊外にたくさんある。ミナはまだ一度も行ったことがなく、オペラハウスや文廟は見ごたえがあったが、一柱寺や聖ジョセフ教会の前に来たら全力で走って逃げたりしたものの、とてもアカデミックな時間を過ごした。

 市内に戻ってカフェで一服。

「ミナってば、なんでお寺や教会が嫌いなの? あんなに必死に逃げちゃって」

 痛いところを突いて来なさる。

「え? あー私、お化けとか見えるから、ああいうところ怖いんだよねぇ」

「あはは! なにそれ! あ、私ちょっとお手洗い行ってくるね」

 春は席を立って、それを見届けてロンが口を開く。

「化け物はミナじゃん」

「うっ……そうですね」

「春に、話さないのか? 最後だし、本当のことを話してもいいんじゃないか?」

「うーん、私もそのことを考えないわけではないけど……」

「本当のことを知っても、春はお前のことを嫌いになったりしないと思う」

「ありがとう。龍がそう言うならそうだね。だけど春が傷つくのは嫌なんだ。春が傷ついた顔を見るくらいなら一生嘘ついてた方がいい」

 龍は小さく、そっかと言うと、それ以上は言わなくなった。

「龍は、話したの?」

 龍は正直な人だ。嘘を吐き続けるのは辛いだろう。

「あぁ、本当の自分を隠して騙し続けるなんてできなくて、話したよ。そしたら……」

「そしたら?」

 龍は一旦言葉を遮ると、俯いてこう漏らした。

「春は知ってたんだ」

「え?」

「俺がデイヴィスファミリーの人間だって知ってて、利用されてるってわかってたって。知らないふりをしてでも俺の傍にいたかったと言ってくれたんだ」

 龍の話を聞いていたら、なんだか目頭が熱くなった。

「そっか、そっか。龍よかったね。これで本当に幸せになれるね」

「あぁ、ありがとう。でも、ミナを撃ったって言ったらさすがに怒られたよ」

「あはは!」

 二人は本物の幸せを手に入れた。それを聞いて、幸せそうに笑う龍の笑顔を見て、ミナも幸せな気分に浸った。




 春が戻ってきて、しばらくして帰ることになった。春を家まで送りながら、今日の歴史探訪を振り返って盛り上がった。楽しい時間はあっという間だった。

「龍、私ちょっとミナと話したいことがあるの。先に帰っててもらえない?」

 急に春がそう言いだして、ミナと一緒なら、と龍は先に帰って行った。ミナは春と近くの公園のベンチに腰かけた。

「話って何?」

「私の家族の話、まだ、したことないよね」

「そう言えば、あんまり聞いたことなかったね。聞かせてくれるの?」

「うん。あのね、私たち姉弟、妾腹なんだ。だからうちにはお父さんがいないんだ」

 春の母親のトゥイエットは、学生時代働いていたキャバレーで知り合った男性と恋に落ちた。が、その人は結婚しており、結ばれることはなかった。だが、父親は雪を本当に愛していた。その内春が生まれて姉弟が増えて、その父親は本当に可愛がってくれた。家のこともお金のことも面倒を見てくれて、春や弟たちがが進学できたのもその父親のおかげだった。父親は本当に雪と春たちを愛してくれていた。

「でもね、お父さんは去年死んでしまったの」

「え、そうなんだ……ご病気?」

 ミナがそう尋ねると、春は俯いてバッグに手を入れた。その手はわずかに震えて、不思議に思って覗き込んだミナと視線を合わせた春の視線は、今まで見た事もないほどに冷淡なものだった。

「ううん。殺されたのよ。あなた達に」

 春はバッグから手を抜くと、迷うことなくミナの眼前に差し出した。ミナの額には銃が突きつけられていた。

「私の本当の名前はデイヴィス・フォン・スアン。マイケル・ダン・デイヴィスの娘よ」

 その言葉に驚愕するミナに、声を震わせた春は、瞳に涙と憎しみを滲ませた。

「ミナ、あなたをずっと、殺したいと思ってた――」

 夜の公園に銃声が響いた。額を撃たれて、そのままベンチに倒れこんでしまった。至近距離で撃たれて結構痛い。ここは死んだふりをしておいた方がいいかもしれない。

「やっと、やっと仇が討てたよ、パパ……」

 春は泣いているみたいだった。ベンチから立ち上がると、さらにミナに3発の銃弾を浴びせてその場を立ち去った。

 春はミナを殺す為に近づいたのだろう。きっと雪も、春を助けたとはいえ複雑な思いだったはずだ。あの友情は偽物だったのだろうか。龍は知っているのだろうか。春が龍の事を知っていたのなら、逆に利用しようと考えていたのか? ミナが屋敷を襲った理由を聞いて、彼女は笑ったが、本当はどう思っていたのか。遊ぶときはいつもミナがお金を出したが、それも本当は父親の財産のはずだった。最後に3発も打ち込むとは、余程恨んでいたのだろう。何も知らずに、春の傍にいて傷つけてきた。

 いろんな考えが浮かんでは消えて、ポロポロと涙が零れた。自分達はとんでもない事をしてしまった。彼女の父親を殺して、彼女を傷つけて、彼女を鬼にしてしまったのは、ミナたちだ。龍の時は上手くいった。だがもうダメだ。

「うっ、うぅ……春、ごめんなさい……」



 とにかく公園で泣き続けて、少し落ち着いてきたので人に見つからないように家に帰ると、ヴィンセントが広間にいた。龍には言えない。春には死んだと思わせておいた方がいいかもしれない。龍には会わないようにしなれば。そんな事を考えて歩いていると、名前を呼ばれた。

「お前、私に話すことがあるんじゃないのか」

 突然話しかけられて思わず身を震わせる。このことは、みんなに内緒にしてていいことではない。ヴィンセントには話しておくべきだ。

「はい、あの、人に聞かれると困るので、私の部屋でいいですか?」

「あぁ、わかった」

 連れ立ってミナの部屋に入って、二人でベンチソファに腰かける。

「今日、春と龍と出かけてたのは知ってますよね」

「あぁ」

「帰りに、春が話があるからって、二人で公園に行ったんです」

 公園での出来事をポツリポツリと話す。話している間も悲しくて涙が溢れてきた。ヴィンセントは黙って聞いてくれている。

「それで、こっそり帰ってきたんですけど。見つかったのがヴィンセントさんだけでよかったです。私、どうしたらいいんですか? 春をここまで追い込んだのは私たちのせいです。多分龍も知らないと思います。私はいいんです、でも、龍が知ったらどう思うか……龍は本気で彼女のことを愛してるんです。だから龍にだけは知られたくないんです。

「私、今まで一年間、春がどんな思いで私の傍にいたか、春がどれほど私を恨んだか、どれほど春を傷つけたか考えると辛くて。私、春の気持ちも知らないで、親友だって思って。もう、私、どうしたらいいかわからない……」

 辛い、どうしようもなく心が引き裂かれそうだ。泣き出してしまったミナをヴィンセントは優しく抱きしめてくれて、ミナが泣きやむまでずっとそのまま傍にいてくれた。

「ミナ、とりあえずこの事は龍には黙っていよう。龍には会わないように部屋から出るな。だが、メリッサ達3人には話す。いいな?」

「はい」

「その間お前は行方不明という事にしておく」

「はい」

「春と話をする機会は作る」

「はい」

 ヴィンセントは諭すようにそう言って、ひとしきりミナを慰めた後部屋から出て行った。部屋を出て自分の部屋に戻ると、深く溜息を吐いた。

「あの娘、なかなかやるな」

 流石にマフィアのドンの娘と言ったところだ。ヴィンセントが春を賞賛しているセリフなど聞いたら、ミナはショックを受けそうだ。が、ヴィンセントは何やら愉快そうにして笑った。




 それから10日後



ヴィンセントは全員を招集した。勿論春もだ。ミナは2階の吹き抜けに隠れて様子を覗き見している。

「全員集まったようだな」

 みんなが集まり静かになったのを見計らって、ヴィンセントが仕切り始める。

「全員じゃないだろ? ミナがいないじゃないか」

 さっそく龍が気付いた。

「ていうか、最近ミナを見かけないんだけど、どうしたんだ?」

 キョロキョロしたり、首を傾げたり忙しい龍にヴィンセントはふぅと息を吐きながら話を進めた。

「その事を含めての招集だ。とりあえず、龍。返事を聞こうか?」

 龍は少し考えたような顔をしたが、すぐに決意したように顔を上げた。

「やります」

 ヴィンセントは龍の返事を聞くと、ニッと笑って封筒を渡した。

「それは土地と財産の権利書だ。後はお前がサインするだけだ」

 龍はペンを走らせて、ヴィンセントに確認させた後封筒に戻した。

「これでこの屋敷も財産もお前のものだ。頼んだぞ」

「わかった」

 後継の話はこれで丸く収まった。ただお金を持っているだけではこれから過ごしていけないので、龍は何か事業を始める予定らしい。



 その話が一段落して、次の話題だ。

「さて、あともう一つ。ミナのことだが」

「あぁ、そうだよ、どうしたんだ?」

「いや、ミナは先日殺害された」

 その言葉を聞いて、相当予想外だったのか驚いて立ち上がる龍。狼狽えるメイド。その中で春は落ち着いている。

「公園で遺体で見つけてな。額を銃で撃ち抜かれていた」

「そんなバカな!? ミナが死ぬはず……」

「まぁ、聞け」

 龍はミナたちが吸血鬼だと知っているから、撃たれたくらいで死なないという事も知っている。だからヴィンセントは龍の言葉を遮って話をつづけた。

「龍も知っている通り、私たちは特殊な人間だ。私とミナは特別な間柄でな。ミナの考えていることも居場所もすべてわかる。要するにミナを殺した奴もわかっているという事だ」

 それを聞いて少しは落ち着きを取り戻したのか、ソファに座った龍はつんのめって尋ねた。

「ミナを殺した奴は誰なんだ!? 仇はもう討ったのか!?」

 座ってはいるが龍がものすごく憤慨している。なんだか嬉しい。生きているけれども。

「いや、まだ仇は討っていない。殺す前に聞きたいことがあったからな」

「何落ち着いてんだよ! 悔しくないのかよ!?」

 龍が顔を真っ赤にして怒り出す。それを見ていると生きているのが申し訳なくなる。

「まぁ落ち着け。隣で落ち着き払っている春を見習え」

「え……?」

「まぁ春は落ち着いていて当然だな。ミナが死んだことを知っていたのだから」

「な、どういうことだよ……まさか、春がやったとでも……」

「あぁ、そうだ。春がミナを撃った。そうだな?」

 ヴィンセントが春を真っ直ぐ睨みつけると、春は大きな溜息を吐いた。

「何も龍の前で言うことないでしょ」

 春は完全に開き直っていた。そしてミナも龍には秘密にするようにお願いしたはずである。だがお構いなしにヴィンセントの尋問は続く。

「それは認めたと解釈していいんだな?」

「えぇ」

 春はヴィンセントと目を合わせずに溜息を吐く。

「まっ待ってくれよ! 俺には何が何だか……」

 とうとう龍は頭を抱えてしまった。本当に申し訳ない。

「まぁ龍、落ち着けというだろう。どういうことなのか、事の顛末はこれから春に話してもらう。さぁ、どういうことなのか話して貰おうか」

 落ち着き払って開き直っているところを見ると、ここに呼ばれた時点で覚悟をしていたのかもしれない。促されると、春は素直に口を開いた。

「私は、マイケル・ダン・デイヴィスの娘よ」

 春がそう言うと龍がこれでもかと言うほど目を見開く。

「あなた達が殺した男の娘。父は、確かにマフィアのボスで最低だったと思う。町の人からも嫌われていたし、父の娘だと知られないように生きてきた。でも、父は、私達にとっては最愛の父だった。私達と母をとても愛してくれた。大好きなパパだった。それをあなた達はくだらない理由で殺した。私はあなた達が心底憎かったから、ミナに近づいて仲のいいふりをしたの。ミナと仲良くなれば屋敷に出入りする機会があるだろうと思ったから。でも、殺せるチャンスを窺っているうちに、あなた達がベトナムから出国することになって慌てたわ。だから、ミナだけでもと思って殺したの」

 春は一息にそう言うと、深く溜息を吐いた。

「こんな大きなマフィアをたった5人で壊滅させる程だもの。私が敵う筈ないってわかってる。死ぬ覚悟はできてる。父の仇を一人でも討てて満足したから」

 龍は絶句してしまっている。何と声をかければいいかわからないんだろう。その様子を少し眺めると、ヴィンセントが軽く姿勢を崩し、ニヤニヤと笑った。

「そうか。わかった。だが、殺す前に見てもらいたいものがある。ボニー」

「はーい」

 ボニーは地下室へと歩いていく。見てもらいたい物とはなんだろうかと、ミナも階段の所から首を傾げつつ見守る。地下室へ降りて行き、しばらくしたらボニーは誰かと話しながら戻ってくる。ボニーに広間へ連れてこられたのは、金髪でやつれた顔をした初老の男性だった。

「パパ……?」

 春が立ち上がって呟いた。それを聞いた瞬間、ミナと龍は同時に立ち上がって叫んだ。

「生きてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!」

 ミナの声が響き渡り、一瞬キョトンとした龍と春。恐る恐る階段を見た二人に、ミナが慌てて隠れようとしたが後の祭りだった。

「生きてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!」

 本当はもうちょっと後から出て行く予定だったのだが、ビックリし過ぎて台無しにしてしまい、先程までニヤニヤしていたヴィンセントが相当にお怒りである。だが今はそれどころではない。マイケルの方が問題だ。


「本当に、パパ?」

「あぁ、春、逢いたかったよ……元気そうでよかった」

 二人は駆け寄って抱き合う。感動の再会だ。二人は涙を流して抱き合う。本当に仲のいい親子だったのだ。それをミナ達は引き裂いたのだ。この件に関しては本当に反省すべき点が多い。

「いい加減座りなよー」

 ボニーに促されて二人はソファに戻った。ミナもソファに座ろうとしたのだが、いかにも期待外れと言った風にヴィンセントがとても深い溜息を吐いているので、我慢して後ろに立つことにした。

「なんで、パパ生きて……皆殺しにされたって聞いたのに……」

「あぁ、私以外は皆死んだ。私は……」

 マイケルの言葉を遮ってヴィンセントが口を開く。

「この男を生かしておいたのは、このためだ」

 言いながらヴィンセントは龍の持つ封筒を指した。

「書類の譲渡者の氏名を確認してみろ」

 言われたとおり龍ははすぐさま封筒を開いて書類に目を通す。

「マイケル…ダン・デイヴィス」

「そうだ。ちなみに書類の作成日は昨日だ。私達はいずれこの国を出ていく。譲渡するにふさわしい人間が見つかるまでは、こいつは生かしておくつもりだった。そして、龍、お前が現れた。お前が春の最愛の恋人だと言うと、この男は喜んで譲渡書にサインしたぞ」

 それを聞いた龍の書類を持つ手が震えて、春の瞳からは大粒の涙が零れた。それを見て、マイケルはしわのあるごつごつした手で春の手を握った。

「春、私は彼から龍と言う男がどんな人物か聞いたよ。春の事を心底思ってくれる優しく強い男だと。私は春の傍にそう言う男がいる事が嬉しかった。そう言う男になら、私の全てを捧げても構わない」

 マイケルは春を撫でて優しく語りかける。本当に春を愛しているんだと伝わってくる、優しい声。

「そして、お前がこの家の娘を殺したことも聞いた」

 春はハッとして顔を上げる。マイケルは一瞬ミナをチラリと見たが、また春に視線を戻した。

「ま、生きていたようだが……。私が死んだと思ってお前は絶望したんだな。私の為にしてくれたことなのだな。そのことは素直に嬉しい。だが、その娘はお前の友人ではなかったのか?」

「そう……私、パパを殺されたと思って、ミナを殺した」

 途端に春は悲壮感に顔を歪ませて涙を零した。

「でも、お父さんは生きていた。ねぇ、ミナはお父さんが生きてるって知ってたの?」

「いや、コイツには何も知らせてはいなかった」

 本当に知らなかったからビックリして予定よりも早く出てきてしまい、このザマである。

「春、お前は額に打ち込んだ後、背後から3発撃ち込んでいたな。そこまでミナが憎かったのか?」

 ヴィンセントの追及に春は大きく首を横に振る。

「私、最初はを殺すつもりで近づいた。あなた達が憎くて憎くて、仕方がなかった。でも、ミナは優しくて可愛くて、いつも私を守ってくれた。私が攫われた時も必死になってくれて、龍をファミリーから抜けさせて、私達に本当の幸せを掴ませてくれた。私は、本当はミナが大好きだった。ミナとは違う出会い方をしたかったってずっと思ってた。なんでミナが仇なんだろうって、ずっと……。でも、パパの仇だからいつか殺さなきゃって、でも、殺したくなくて、悩んでるうちに1年が経って、あなた達が出国することになって、私、焦って……」

 涙が零れた。ずっと春は悩んでいた。ミナを殺したくないと思ってくれていた。それがとても嬉しかった。

「私、なんてバカなんだろう……本当はミナのこと大好きなのに、パパは生きていたのに、ミナ、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 泣きじゃくる春の前まで行って、跪いて涙を拭いた。

「春、私の方こそごめんね。何も知らなくて、ずっと春を傷つけていたことにも気づかなくて、本当にごめんね」

 ミナ達は謝りながら、泣きながら抱き合った。ひとしきり抱き合うと、少し落ち着いてきたので、二人でソファに座りなおす。

「龍も黙っててごめんね」

「おかしいと思ったんだよ! ミナが撃たれたくらいで死ぬはずないもん!」

「そうだよ! 私額を撃ったのに、なんで生きてるの? どうして無傷なの?」

 気になるのは仕方がない。普通眉間を打ち抜かれて生きている人間はいない。

「えーと……あの……」

 ヴィンセントに助けを求めようと視線を向けると「ここにいる者なら話してもいい」と許可をもらえたので話すことにした。

「あの、今まで黙ってたんだけど、私、人間じゃないんだよね……」

 春の頭には?マーク。

「あの、私、っていうか、私達、吸血鬼なんだ」

「吸血鬼? ウソでしょ?」

「いや、本当なんだけど…」

「ミナ、あれ見せてよ!」

 龍がにやけながら提案して来て、良い案だと思ったので翼を広げた。その翼を見たデイヴィス親子は腰を抜かしそうなくらい驚いている。メイドに至っては腰を抜かしてしまった。

「とりあえず、人間じゃないことはわかった?」

 デイヴィス親子は驚きも冷めやらないのか、無言でコクコクと頷いた。

「私、吸血鬼だから撃たれたくらいで死なないし、普通の人間が私たちに敵う筈ないよ」

 羽をしまってソファに座りなおすと、まだ二人はびっくりしてこちらを見ている。

「銃弾うけてイテテテっていう奴俺初めて見たもん」

「あぁ、豆鉄砲みたいなものだもん」

「千切れた腕も元に戻ったしね」

「あぁそう言えばそうだったね」

 龍と二人で話していると、春が会話に入って来た。

「龍は知ってたの?」

「知ってたよ? 前に抗争に巻き込まれちゃって」

 思い当たる事件を思い出したようで、春はなるほどと頷いた。

「ねぇ、ミナは本当に吸血鬼なのね?」

「うん。今まで隠しててごめん」

「だから夜に起きてくるのね?」

「うん」

「だからお寺や教会がきらいなのね?」

「そう」

「じゃぁ死なないのね?」

「うん。死なないよ」

 春はにこっと笑って「ミナが死ななくて本当に良かった!」と言ってくれた。

「春は私が吸血鬼で怖くないの? 気持ち悪くないの?」

 ちょっとドキドキしながら聞いてみる。すると春は不思議そうな顔をして「どうして怖いの?」と逆に尋ねてきた。

「だって吸血鬼って人の血を飲む化け物だよ?」

「吸血鬼ってだけで考えたら怖いかもしれないけど、ミナは怖くないよ」

 龍と同じことを言ってくれた。


 本当に良かった。マイケルは生きていて、春とも仲直りできて、春は龍とも幸せになれるし、龍のオヤジさんもマイケルが生きていると聞いたら喜ぶだろう。と思ったのだが。

「あ、そうだ! ていうか、ヴィンセントさん! このこと龍には内緒にしてって言ったじゃないですか! 何もみんなの前で話すことないのに! 私達3人だけで収まる話じゃないですか!」

 10日前の話し合いを反故にされたことを思い出して抗議する。

「あぁ、確かにそう言ったが。それはダメだ」

「なぁんでですかぁ!」

「当然だろう。お前を撃ったんだぞ。相手が春でなければ、どんな理由があろうとも本来ならとっくに殺しているところだ。このくらいの制裁は受けてもらわなければな」

「もー! ヴィンセントさんのケチ!」

「ヴィンセント性格悪っ!」

「黙れ」



 最後にちょっともめたが、一件落着!







登場人物紹介


【マイケル・ダン・デイヴィス】

春の父親でデイヴィスファミリーのボス。「麻薬を中毒にする男」と呼ばれる麻薬王。若いころからギャングに身を置いて一代で巨大マフィアのボスにまで上り詰めた。

結婚はしているが妻は既に亡くなっている。春の母、雪と再婚しようとも考えたが自分がマフィアである為、雪や春の幸せを考えて結婚自体は辞退した。



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