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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
3 ベトナム編

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3-5 みんな悩みながら生きてる

 数日後、屋敷のみんなで映画を見に行った。その映画がヒーローアクションものだったので、どうしても話題は先日の「美味しいところ全部取られた救出劇」になる。ヴィンセント達と救出劇の話をしながら帰路に就いていた。


「もう! ヴィンセンさんたち本当ヒドイ! 教えてくれたっていいのに!」

「お前が私たちに一言も言わないで飛び出すからだ。というかお前はうるさい。近くで喚くな」

「喚かせないでくださいよ! ヴィンセンさん達のせいでしょ!」

「折角手伝ってやったのになんだその言いぐさは!」 

 うっかり逆鱗に触れたらしく、頭をクラッチされてしまった。

「ギャァァァ! 痛たたたた! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「困ったなら相談すれば済んだことだろう! 本当に世話が焼けるなお前は!」

「わ、わかりました! 本当ごめんなさい!」

 ジタバタ暴れて必死に謝ると、何とかクラッチを外してくれた。


かなり頭痛の余韻が残っているので心の中でぶつぶつ文句を言いながら歩いていると、パンと乾いた音がして、背中に痛みが走ったので、とっさにヴィンセントを睨んだ。

「痛いじゃないですか! もう、ヴィンセントさん、突かないで下さいよ!」

「何がだ? 私は何もしていない」

「え? じゃぁなに?」

 不思議に思って振り返ると、地面には弾丸が一つ転がっている。

「ん? もしかして撃たれた?」

 後方に視線をやると、と少し離れたところで走り去る男を見つけた。

「あいつだな。追うぞ」

 ヴィンセントが走り出してミナ達も後を追う。

「とりあえず、泳がせて本丸を叩こう」

「はい」


 しばらく追いかけると、男は歓楽街に入っていった。さっきまでは撃たれる覚えなどないと思っていたが、撃たれる覚えがある奴を一人思い当たる。

「あれ? まさかと思うけど、エンジニアじゃないよね……」

 男はまんまとエンジニアの店に入っていった。

「どうやら、エンジニアが黒幕らしいな」

「あれだけ脅してやったのに!」

「まぁミナじゃねー。怖くなかったんじゃねぇ?」

「そんなぁ……」


 話しながらエンジニアの店に上がりこんだ。店の入り口付近には例のマッチョ男がいて、ミナの姿を見て大層驚いていた。

「こんばんは。また来ちゃった。どうしてか、わかるみたいだね?」

「う……あ、ボs!」

 マッチョが声をあげそうになったので、すかさずクライドがマッチョの口を塞いだ。

「ちょっと静かにしてもらえないかな? 痛いのは嫌でしょ?」

 そう言って微笑むと男はコクコクと頷く。

「さ、アンタも一緒に来て」


 マッチョを先頭に立たせ、エンジニアの部屋へ行く。男に目で「ドアを開けろ」と命令すると、ドアをノックして、ミナたちを案内した。中に入ると、エンジニアの部屋はまたしても煙で充満していた。いつの間にやらポスターが貼られて壁が塞がれている。良く見えないが、室内にはエンジニアと男が一人。この男がミナを撃ったのだろう。


「エンジニアさん、たびたびお邪魔してすみません」

 そう言うと、慌てた様子でガタンと椅子を立てる音がした。

「な、あ、あなた……」

「そんなに慌ててどうしたんです? まるで幽霊でも見たみたい」

「な、なぜ……」

 今度は若い男の声。やはりこの男が撃ったようだった。


(でも……なんだろ。この人の声、聞いたことあるような?)

 少し首を傾げながらも、エンジニアには強気に出なければいけない。


「私が生きているのが不思議みたいですね。それより、どういうことですか? 私に逆らうなと言った筈なんですけど。壊れるのは壁だけじゃ済まないとも申し上げましたよね?」

 そう言いながら男とエンジニアに歩み寄る。

「う! く、来るなぁぁ!」

 若い男がそう言うと銃声がして弾丸が体に当たり床に転がった。スタスタと男の前まで歩み寄り、男が握った銃を取り上げて捕まえた。

「こんなもので私に勝てると思わない方がいいよ」

 そう言って男を引き寄せると、煙を割って視界に飛び込んできたのは知己の友人の顔だった。


ロン……?」

 捕まえた男は龍だった。あまりのことに驚いて、思わず手を離した。

(龍が、何故……どういうことなの?)


 呆然としていると二人は逃げ出そうとして、即座にヴィンセント達が取り押さえ、床に組み伏せられた龍に視線を落とした。龍のうなじに、髪の隙間から何かが見える。龍のうなじの髪をどかすと、そこには黒い入れ墨が彫られていた。

そのマークはこの一年、毎日見続けてきたもの。盾の中の大鷲が鍵を抱きしめた姿。

「龍、あなた、デイヴィスファミリーの人間なの……?」

 家中いたるところにあるデイヴィスファミリーの紋章。それと同じものが龍のうなじに彫られていた。

「龍は、私を騙していたの……?」

 何も知らずに友達だと思っていた。彼も友達だと思ってくれてると思い込んでいた。そんな友人の裏切りに、力なく彼の前に座り込んだ。


スァンも、仲間なの?」

「違う! 春は関係ない!」

「春は何も知らないの?」

「あぁ、知らない」

 それを聞いて少しだけ安堵した。


「龍、あの誘拐は仕組んだものだったの? 私を殺す為に?」

 龍は組み伏せられたまま床を見つめて何も言わない。

「あの時、春を助けてって縋ってきたのはウソだったの? 春も騙してたの? 私を殺す為に春を利用したの?」

 どうか、違うと言って欲しい。春が傷つくのは見たくない。だが、龍はミナをきつく睨んでいった。


「それが、どうしたっていうんだよ。あいつはお前と仲がいいから近づいただけだ」


 願いは虚しく、一番聞きたくない言葉を、一番聞きたくない人の口から聞かされた。ミナのせいで、春は怖い目にあった。ミナのせいで、春は傷つく。

よくよく考えてみれば、春が攫われた時に龍も傍にいたはずなのに、龍は怪我一つ負っていなかったし、慌てた様子ではあったが、汗の一滴もかいてはいなかった。

だから、春の事で頭がいっぱいだったこともあるが、ミナは龍の心配をしていなかった。どう考えたって、目の前で恋人が攫われる様な事があれば、龍も無事ではいられないだろう。なのに彼は平然と、警察ではなくミナに助けを求めた。

龍は知っていたからだ、デイヴィスファミリー絡みの事件で、警察が動くことはないと。そして本来の目的は、誘拐事件の解決ではなかった。


「龍、どうして……あんなに春と仲良くしてたのに……あれも嘘だったの?」

「ふん、あいつは利用するために近づいただけだ。それ以外に何の価値もない」

「本気で言ってるの?」

「お前を殺せて、春を売って金も入って一石二鳥のはずだったのに、計算違いもいいとこだ。まさかお前が銃で撃たれても死なないような化け物だとは思わなかったよ。お前だって春を騙してるんだろ。俺とどう違うんだよ」

 龍の言う通り、ミナも春を騙して人間のふりをしていた。

「私も春に嘘を吐いていること、たくさんあるよ。でも、私は春が大好きで、ずっと守りたい、友達だと思ってる」

「春が知ったらお前の事なんか嫌いになるだろうな」

「それでも構わない。春に嫌われても、私は春が好きだもん。でも、知ってしまったら春が傷つくよ。私のことも、あなたのことも」


 春が本当のことを知ったらどれほど傷つくか、どれほど悲しむか。友達は化け物で、恋人には利用された。春の泣き顔は見たくない。ならば、龍の引き起こした偽物を、本物に出来ないだろうか。


「ねぇ、龍。本当に利用しただけだったの? 本当は春の事愛してるんじゃないの? 龍、デイヴィスファミリーなんて抜けて普通の男の子になって、何もなかったように春の傍にいてあげられないの?」

 龍は辛そうに顔を歪めた。やはり彼は春の事を愛している。

「そんなこと……簡単にできるわけないだろ」

「龍、あなたが協力してくれるなら、私がなんとかする」

「でも、俺は……俺は春を騙し続けなきゃいけないんだぞ……」

 一生嘘を吐きとおすのは辛いことだと、ミナもよく知っている。

「でも、その方があなたも、春も幸せになれるわ」

「でも、俺は、俺は……」


 その瞬間突然轟音がして、建物が激しく揺れた。


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