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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
2 脱出編
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2-4 罪を犯した者は

 あれから数日経ち、少しずつ悲しみは癒されてきた。勿論、時間だけで解決されたわけではない。ヴィンセントはもちろん、その場に居合わせたボニーやクライド、メリッサや誘夜姫までミナのことを心配して来てくれた。なによりも、北都が傍にいてくれるということがとても大きい。彼らのおかげで、徐々にミナの悲しみは薄れてきている。

 そう、悲しみだけは。その代り日に日に恐怖が大きく首をもたげてくる。ミナはあの日化け物だった。まぎれもなく、ただの化け物だった。北都を殺されて、怒りに任せてあの男、川崎を殺した。この手で、殺した。あの男はこれ以上生きていても、他人に害悪しかもたらさない疫病のような人間だ。きっと、捕まっても裁判で死刑を宣告されることは免れない。どの道、あの男の人生にこの先道など見えない。そのことは十分わかっているし、北都本人も仇を討ってくれて嬉しいと言ってくれるし、ミナだって死んで当然だと思っている。

 だが、ミナが殺す必要はなかった。川崎は公の場で裁かれるべきだった。公の場ですべての罪と思いを吐露し、蔑まれながらその罪を懺悔し、法の下で死んでいくべき人間だった。それなのに、ミナは激情に任せて他の意を介さず殺した。人を殺してしまったということが、恐ろしくてならなかった。怒りに任せて心まで化け物になって、無残に殺してしまった自分が恐ろしい。あんな、大勢の人の前で、残虐な殺し方をした自分が恐ろしい。

 ミナは、怒りに任せて川崎を殺した。それは、川崎のした事とどう違うのか。自分を抑えられずに人を殺めるなんて、川崎と同類ではないのか。自分の心に潜む狂気に震えが止まらない。

(あいつは死んで当然なんだ。復讐には正当性があるわ)

 どれほど自分に言い聞かせても、払拭できない後悔と恐怖に苛まれていた。


 棺から起き上がると、リビングからは話し声が聞こえた。ヴィンセントと誘夜姫はもう起きているのだろう。クローゼットの中でゆっくりと着替えリビングのドアを開けると、ボニーとクライド、メリッサも来ていた。

 おはようございます、とあいさつをするとおはよう、とみんなは優しい笑顔を向けてくれる。みんなのこの笑顔にどれほど励まされたか、感謝してもしきれない。その時、テレビが夕方のニュースを伝え始めた。

「先日発生した無差別殺傷事件について、警視庁は次のような見解を示しました。川崎被告は自殺であるという証言と状況の下捜査されていましたが、検死の結果他殺であるという断定が下されました。検死結果と、男女4人組が現場から逃走したとの目撃証言を受けて、警察はこの4名の捜査に乗り出しましたが、現場付近の監視カメラには姿は映っておらず、依然身元も判明していない為、捜査は難航している模様です」

 そのニュースが別の報道に切り替わっても、ミナたちは硬直したままだった。

(捜索されている……私が、警察に……殺人犯として)

 愕然と立ち尽くしていると、溜息を吐いた後ヴィンセントが呟くように言った。

「日本の警察は優秀だな」

 ヴィンセントが言葉を発して我に返ると、ヴィンセントもミナに振り向いた。

「ミナ、お前も座れ」

 そう言われて隣に腰かけた。

「こうなるのはもう少し先だろうと思っていたんだが……」

 そのはずだった。あの時、ヴィンセントはセイジにも周りの人にも、自殺したと暗示をかけて記憶を改竄した。ミナたちの目撃証言が出てくるなんて、思ってもいなかった。

「なのに、どうして……」

 泣きそうになり上ずった声でヴィンセントに尋ねた。

「おそらく私の魔眼の及ばない範囲にいた人間だろう。そこまで聞き込みを徹底するとは計算外だった」

 ヴィンセントも悔しそうに眉を顰めた。

「こうなった以上、私たちは国外に逃亡するしかない」

 その言葉に、一度は零れかけた涙も引っ込んでしまった。

「国外に、逃亡? じゃ、じゃぁ私もう家に帰れないんですか?」

「そうだ。ミナ、覚悟を決めろ」

「そんな……」

 戸惑って俯くと、ヴィンセントが諭すように背中を撫でた。

「そうでなくてもお前には失踪届と捜索願が出ている。もし、警察がお前に目星をつけるようなことになれば、逃亡しようがしまいが、もう会う事は出来ないだろう」

 失踪宣告。自分が言い出したことだ。7年経過すれば法的には自分は死んでいるはずだった。その方が都合がいいだろうと考えて両親に頼んだ。それが、ここで足かせになるとは。警察にはミナが失踪しているという事はわかっている。失踪した娘の弟が殺害されて、犯人も殺害された。ミナに容疑の目を向けられる可能性はゼロではない。このまま警察がミナを犯人と断定して、ミナが捕まれば、セイジとあずまは悲劇の遺族から一転して「殺人犯の親」となってしまう。

「目星をつけたとしても、お前を犯人と断定することは難しいだろう。目撃者も私から離れたところにいたならば、ミナの顔は見えなかったはずだし、カメラにも映らないからな。何より、証拠もない。ただ、参考人として招致される可能性は高い。どの道、警察に見つかれば終わりだ」

 このまま日本にいても逃げ続けなければならない事実に変わりはない。もし、警察に発見されれば、両親に迷惑がかかる。覚悟を決めるしか、道はなかった。

「わかりました。どこへでも、行きます」


登場人物紹介


【ニュースキャスターさん】

夕方のニュース「首都圏18」の司会者さん。別の番組では結構おちゃらけキャラなのに、この報道番組の時だけは異常に真面目ぶっている。

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