2-1 憎しみに身を焼かれるということ
「ヴィンセント! ミナ! 買い物行こうぜ!」
来て早々クライドが突然言い出した。買い物と言われると苦い思い出が蘇る。
「買い物って何を?」
「とりあえず、服とか、日用品?」
よくよく思い返してみると、B&Cは手ぶらだったので、色々と必要だろう。
「そうか。行きたいならお前らで勝手に行って来い」
「えー! ヴィンセントも来ればいいじゃない!」
「ヴィンセント! 行こうぜ!」
ヴィンセントは買い物に付き合うのが嫌なようで、二人が駄々をこねても中々頷かない。
(あれ、もしかして私のせい?)
と思いつつ静観していると、クライドとボニーは駄々をこね始める。確かにヴィンセントの言う通り、ミナ達は必要ない気もするのだが、なぜ一緒に行きたいのか? 考えていると、クライドが答えを言った。
「頼むよ! 俺ら金持ってないんだって!!」
たかる気らしい。ヴィンセントはそれを聞くと、ものすごく嫌そうにしながら「仕方ない。行くぞ」と言って立ち上がった。なんだかんだいって面倒見はいい。
4人でショッピングモールで買い物。周囲の視線が痛い。老若男女みんな振り返る。確かにこの3人は目立つ。美貌の外国人が3人も集まっているのだから致し方ない。パッと見海外セレブのようだ。
(私の役どころは通訳ってところか)
そんな事を思いながら買い物に付き合っていたのだが、しかしこの二人の買い物に付き合うのは大変だ。片っ端から試着しては「やっぱこれいらなーい」の繰り返し。女のミナでも敬遠するような、大人なランジェリーショップに二人で入っていくし、酷い時には二人で試着室に入る。恐ろしい。
正直、付き合っていられない。どこかに座りたい、むしろ帰りたい。
「ねぇ、ヴィンセントさん、帰りません?」
「帰りたいのは山々だが、強盗でもするのではないかと思うと気が気ではない」
そういえば二人は強盗殺人犯だった。やむなし、と項垂れていると、ボニーが呼んだ。
「見て見て! 似合うー?」
ボニーがはしゃいでいる。見てみると黒い超ミニのピタピタしたワンピースを着ている。それがまた恐ろしく似合う。
「めっちゃ悪女っぽくてよくお似合いです」
少し皮肉を込めて言ったのに
「マジー? じゃぁこれ買っちゃおう!」
逆に喜ばれた。
結局こっちが精神的にヘトヘトになるまで買い物に付き合わされて、4人でも手一杯なほどの大荷物を持たされた。4人で入り口に向かうと、持っていた紙袋をすれ違いざまに人にぶつけてしまった。
「あ、ごめんなさい」
そう言って振り向くとそこに立っていたのは、よくよく見覚えのある二人。
「お父さん!?」
「ミナ!?」
「お姉ちゃん!!」
瞬間的に持っていた荷物を全部クライドに押し付けて、セイジと北都に駆け寄った。
「こんなところで会うなんて! すごい偶然だね! こんな時間にどうしたの?」
どうやら今度北都のサッカーの試合があるようで、新しくスパイクを買いに来たらしい。3人でキャッキャ話していると「ねぇお姉ちゃん、あの人たちは?」と北都がバカップルを指さす。
「あぁ、女の人がボニーさん、荷物に埋もれてる方がクライドさん。私と同じで、ヴィンセントさんのファミリーだよ」
紹介すると、ボニーが傍までやってきた。
「へぇ。ミナのパパと、坊やは弟? あたしボニー。よろしくー」
ボニーはにこっと挨拶。
「俺クライド。よろしくー」
荷物が挨拶。
「どうもミナがお世話になります」
セイジにつられて北都も頭を下げる。挨拶をしたセイジは、嬉しそうにミナに向いた。
「ミナ、本当に久しぶりだな。最近はどうしてるんだ?」
「最近はこの二人も加わって賑やかだよ。それに修行の成果も出てきて、あんまり困った事態も起きなくなったし。ね? ヴィンセントさん?」
「ええ。ミナさんはとても努力家で、その成長ぶりには私も驚かされるばかりです。この二人の面倒もよく見てくれますし、本当に彼女には助けてもらっています」
ヴィンセントはにっこりと笑ってそう返した。セイジはヴィンセントの言葉にすっかり気をよくしてご満悦だが、視界の隅っこで「ちょ、あれ誰!」「ヴィンセントの猫かぶり、ハリウッド級じゃん!」とB&Cは驚きを隠せない。それは本当におっしゃる通りなのだが、それがセイジ達の耳に入ってしまっては、後で面倒な思いをするのはミナだ。
「ちょっと二人とも! 今は黙っててくださいね!」
小声で二人に注意して、さっとセイジの方に向き直る。
「そう言えば今日はお母さんは? お留守番?」
「お母さんは今日は同窓会だ。だから外食ついでに北都の買い物に来たんだよ」
「そっかぁ残念。お母さんにも逢えたらよかったのに」
ちぇっと口を尖らせると「ミナさん、家族なんですからいつでも会えますよ」とヴィンセントが優しくフォローに入ってくれる。こりゃ確かにハリウッド級だ。
「あぁ、彼の言うとおりだな。いつでも来るといい。じゃぁ早くしないと店が閉まるから行くよ」
セイジははそう言って北都にさぁ行こうかと声をかける。
「お父さん北都またね!」
「ミナ、ヴィンセントさん、お二人さんも。また」
「お姉ちゃんバイバイ!」
セイジと北都は手を振ってエスカレーターに向かっていった。それを見送ってミナ達も再び出口に向かう。すると、ボニーがすり寄ってきた。
「ミナいいなぁ! いいお父さんじゃん! それに可愛い弟! あたしんち、まともな家族じゃなかったから、ミナんちみたいな家族羨ましい!」
ボニーはそう言って笑いかけてくれる。が、ややもすると悪戯っぽい顔をして、顔を寄せて小声で言った。
「ていうかヴィンセントの変わりっぷりがヤバいよね」
「確かに!」
ミナとボニーでクスクス笑っていると「黙れ」とヴィンセントに冷たく怒られた。
「ねーそれよりミナー。いつになったら俺の荷物もってくれんの? 俺、全然見えなかったんだけどー」
クライドに荷物を持たせていたことをすっかり失念していた。「あはは……すいませぇん」と足を止めてクライドから荷物を受け取ろうとした時だった。
「キャァァァ!」
「うわぁぁ!」
店内からたくさん悲鳴が聞こえてきて、たくさんの人たちが入り口になだれ込んでくる。何が起きたのかとみんなで慌てて振り向くと、一人の男がエスカレーター付近でナイフを振り回しているのが見えて、その男の近くには服を赤く染め上げた人が、何人も倒れていた。ミナたちは荷物を放り出し、人込みをかき分けて一斉に店内へ走る。
「ボニー! クライド!」
何かを感じ取ってか、焦燥の顔色を浮かべたヴィンセントが言うが早いか、「わかってる!」と返事をした二人は、男に飛び掛かり、ナイフを叩き落として取り押さえた。
見える範囲だけでもけが人は10人以上いる。重症そうな人達から早く手当しなければ、そう思って周囲を見渡すと、見覚えのある後姿がエスカレーター前に座り込んでいた。
(まさか……まさか……)
一歩一歩近づく。
ウソだ、絶対ありえない。絶対違う。そう言い聞かせながら近づく。
「お、お父さん」
震える声で呼ぶと、セイジはゆっくりこちらに涙に濡れた顔を向けた。
「ミナ、ミナ、助けてくれ。北都が……」
セイジの腕の中には、胸を真っ赤に染め上げた北都が横たわっていた。一瞬理解が追い付かなかった。そんなはずはない、そう言い聞かせていたせいかもしれない。苦しそうに眉根を寄せて、胸を紅く染めて、ぜいぜいと喘鳴をする北都が、いつもの北都でないことが信じられなかった。
「ウソ……ウソでしょ! 北都! 北都!」
座り込んで、どうしようどうしようと狼狽えながらも、血を止めなければと考えて、創傷部に触れた。ぐちゃりと音がして、生暖かい血の感触がする。こんな時でも血の匂いが鼻腔をくすぐることが、歯噛みするほど辛かった。触れた傷口に手を当てて、圧迫して止血しようとするものの、指の隙間からは血が溢れる。
「あぁ! 北都! どうしよう……血が……血が止まらない!!」
北都の胸からは大量の血がとめどなく流れ出る。一生懸命傷口を圧迫しても、指の隙間から滴り落ちてくる。一生懸命呼びかけると、ミナの声が聞こえたのか北都はうっすらと、少しだけ目を開けた。
「あ! 北都!」
「お、ねぇちゃ……」
「北都! しっかりして! 喋っちゃだめ! 絶対助かるから! すぐに救急車が来るから! しっかりして! 頑張るんだよ!」
必死に北都の手を握って励ますが、徐々に北都のその小さな手は体温を失っていく。
(このままじゃ……なんとかしなきゃ、どうにかしなきゃ、北都を死なせたくなんかない!)
一生懸命北都を延命させる方法を考えていたら、ハッと気づき、ヴィンセントに振り向いた。
「ヴィンセントさん! 北都を吸血鬼にして!!」
私の声にお父さんもハッとして、ヴィンセントの元まで四つん這いで這って行き、泣きながら膝元に縋り付いた。
「あなたならできるだろう!? 頼む、北都を助けてくれ!!」
たとえ吸血鬼でも、どんな姿になっても、生きていてくれさえすればそれでいい。ヴィンセントのズボンの裾をくしゃくしゃに皺を付けながら、懇願する親子に、ヴィンセントは首を横に振った。
「それは……できません」
一瞬、ヴィンセントの言った言葉が理解できなくて、言葉を詰まらせた。
「な……に? なんで? なんでよ! できるでしょ!? なんでダメなのよ!!」
泣きじゃくりながらヴィンセントに掴み掛ると、ヴィンセントも残念そうにその場に膝をつき、ゆっくりとミナの手を引きはがして、北都に視線を注いだ。
「北都は心臓を刺されている。吸血鬼になってもすぐに死んでしまう……だからできない」
「そんな…そんな!! 頼む!」
「どうしてよ!! 不死身の化け物なんでしょ!! そんなの……」
泣きながら掴み掛るミナとセイジに、背後から北都が弱々しく語りかけてきた。
「ぼく、死ぬ……でしょ。きゅ、けつき、なれ……ない、でしょ」
「北都! 死ぬなんて言わないで! 絶対に助けるから!!」
苦しそうに何とか言葉を紡ぐ北都を必死に励ますも、北都は目を開けていることもできないようで、だんだんと、呼吸も短く、脈も弱くなっていく。
「おね、ちゃ……ぼくの……血を、飲んで。そし、たら……ず……と一緒、に……」
そう言った瞬間、北都の目尻から涙が零れて、それはまるで魂が抜けたかのように、同時に体からすぅっと力が抜けた。
「え……ウソ、北都? 北都?」
北都。大好きな弟。たった一人の兄弟。大切な家族。
北都が、死んだ? 信じられない。ウソだ、ウソだと思いたかった。
「や、いや……いやぁぁぁ!! 北都! 北都! 起きてよ! 起きてよぉぉ……」
一生懸命北都に語りかけても北都の目は開かない。北都の体からどんどん体温が消えていく。
「おね、ちゃ……ぼくの……血を、飲んで。そし、たら……ず……と一緒、に……」
脳裏に北都の言葉が蘇る。北都は、ミナに自分の血を飲めと、そうすれば、ずっと一緒に……。慟哭しながら北都の言葉を反芻して、泣き濡れていたその時、ボニーが取り押さえていた男が暴れ出した。
「みんな死ねばいいんだよ! 腐ってんだよ! そこの男も、そこのババァも! そこのガキも!! ざまぁみろ!! ハハハハハハ!!」
その時、心の中で何かが壊れる音がした。壊れたものは一体なんだったのか。北都との思い出なのか、北都の命なのか、それともミナの理性が瓦解する音か。
ミナは口を開くと牙を尖らせて、北都の喉元に噛みついた。牙で切り裂いた総頸動脈からは勢いよく溢れだし、それをごくっごくっと喉を鳴らせて血を飲み干す。
(北都、これで、ずっと一緒だよ――――)
北都から口を離し、亡骸をそっと横たえた。北都の遺言は、せめてそれだけは、命を守れなかった代わりにそれだけは、遂行しなければ。ミナの血肉となって、魂で寄り添う姉弟になれば、北都の遺言は果たされる。
だからと言って捨て置けない。許せない、許してよいはずがない。北都はまだ子どもだ。将来のある子どもだ。フォワードで、ジュニアクラブでもチームを引っ張っていく存在だった。勉強もよくできる子で、両親は私立の中学校を受験させるつもりだった。これからきっと恋をして、大きくなって、反抗期もあるかもしれないが、きっと立派な青年になるに違いなかった。それでも、大人になっても相変わらずシスコンで、彼女を困らせたりしたら申し訳ないわ、なんてことを家族で語って笑いあったこともあった。
それなのに。
こんな非道を許す断りなど、ミナの中には存在しなかった。
「絶対に許さない。私がこの手で―――――殺す!!」
目の前には怒りとあの男しか見えない。ミナの死刑宣告を聞いて、ヴィンセントが不遜に微笑んだことなんか気づきもしない。仮に気付いていたって、今はそんな事はどうだってよかった。すっと立ち上がって振り向き、男に歩み寄る。
「なんだよ! クソアマ! なんか文句あんのかよ!!」
この男が北都を殺した。
心の中で呟いてみる。
この男が北都を殺した。
確認作業でもするように、ターゲットを補足する捕食者のように。
「お前が北都を殺したのね」
男を取り押さえていたボニーを押しのけて、男の胸を思い切り踏み潰した。最初の一撃で、男の肋骨は砕けて、男は苦しそうに呻き声をあげる。再び踏みつけて、踏みにじるように足をひねると、折れた肋骨が、心臓や肺に突き刺さっていき、胸を突き破って飛び出てきた。骨の砕ける音と、内臓の潰れる音と、血の滴る音を響かせて、周囲とミナの足を真っ赤に染め上げながら、ミナは何度も何度も何度も何度も男を踏みつけた。
北都はもっと痛かった。北都はもっと苦しかった。北都はもっと辛かった。
北都はもっと、生きたかった――!
貫通する程、男の胸を踏み潰しても尚、執拗に踏みつけるミナを、見かねてかヴィンセントが無理やり男から引き離した。
「いや! 離して! あいつが殺したのよ! もっと苦しませてやらなきゃ! 北都が!」
ヴィンセントの腕の中で暴れていると、頬に痛みが走った。その瞬間、北都の声が聞こえた気がした。
「ミナ、あいつはもう死んでる! しっかりして!」
ボニーさんに平手打ちされて、少しだけ正気に返った。それを見届けて、安心したように溜息をついたヴィンセントはミナを抱えたまま、群衆の前に立った。ヴィンセントの瞳が紅く輝きだすと、群衆はそれに魅入るように静まり返り、彼の言葉に耳を傾けた。
「人間ども、今見たことは忘れろ。この男は自殺した。いいな」
ヴィンセントが命令すると、人々は頷きながら声をそろえた。
「「「この男は、自殺した」」」
ヴィンセントは野次馬に暗示をかけると、近くにあったポールを男の胸に刺して、今度はセイジの許に歩いていく。
「お父様、あなたも、今見たことは忘れてください」
同様にセイジにも暗示をかけた。暗示が罹ったことを確認し、しばし周囲を整えた後、「行くぞ」と言うとヴィンセントはミナを抱えたままそこから走り去る。離れるほどに、だんだんと遠ざかり小さくなる北都の亡骸。最早知らない何かになってしまった、「北都だった」亡骸を見つめていると、喪失感でどうしようもなかった。
「北都……北都ォ……うっうぅ……あぁぁぁぁぁぁぁ―――――!」
気付くと、もうマンションに帰りついていて、ミナは風呂場にいて、ミナの血まみれの右足をボニーが洗ってくれていた。
「ミナ! 大丈夫!? 気が付いた!?」
ボニーの声でヴィンセントとクライドも風呂場に入ってきた。ミナの脚から流れ落ちて揺蕩う赤い血。あの男の汚らわしい血。早く流されて消えてなくなればいい。一滴すらもこの世界に残しておきたくない。
もう、北都をこの腕に抱くこともできない。もう、北都のサラサラの髪の毛を撫でてあげることもできない。あの丸い瞳で見つめられることも、笑いかけてもらう事も―――――。
ヴィンセントが泣き出したミナの前に跪ひざまずいた。
「ミナ……」
「ヴィンセントさん……私……北都を助けられなかった……北都は、まだ、子どもなのに……私……」
堰を切ったように涙が溢れ出る。ヴィンセントはミナを抱きしめて「ミナ、お前のせいじゃない。お前は悪くない」そう言ってくれる。だが、自責の念に苛まれて、北都を死なせてしまった事実に追いつめられる。
「私があの時、引き留めなければこんなことにはなってなかった! 私が早く気付けば北都は殺されなかった! こんなことになるなら吸血鬼にしてあげるべきだった!! 私が……うっうぅ、私の……せいで……」
自分を責めるミナが居たたまれなかったのか、ヴィンセントは抱きしめる腕に一層力を込めた。
「ミナ、お前のせいじゃない! 何も悪くない! お前は北都の為に仇を討った。北都の言葉通り、北都の血を飲んだだろう? ミナ、北都はお前の中にいるだろう?」
(そうだよ。お姉ちゃん。ぼくはここに、お姉ちゃんの中にいるよ)
北都の声が聞こえて、ハッと顔を上げた。
「北都、北都、私の中にいるの……?」
(うん。お姉ちゃんがぼくの血を飲んでくれたから、ぼくはここにいるよ。ずっとお姉ちゃんと一緒だよ)
「北都、ごめんね……守ってあげられなくて、ごめんね……。私の……」
(お姉ちゃんのせいじゃないよ! お姉ちゃんはぼくの血を飲んでくれた。ぼくの為に仇を討ってくれた。ぼくそれで十分満足だよ)
「北都……ごめんね。ごめんね……」
(もう! お姉ちゃんが泣いてるの、見たくないって言ったでしょ。もう泣かないで。ほら、ヴィンセントが呼んでるよ―――――――・・・)
「北都!!」
「・・・・―――――ミナ、ミナ」
北都の声が薄れて、ヴィンセントが呼ぶ声がする。
「ヴィンセントさん・・・北都が、ずっと一緒だよって……」
「そうだ。北都は一生お前の中で生き続ける」
「北都は、これで、満足だって……でも……」
「北都はお前に嘘をつくか?」
「……いいえ」
「北都がそう言うのなら、そうなのだろう」
ヴィンセントの言葉一つ一つが胸に落ちた。それでも、哀惜は抑えきれない。まだ抑えられようはずもない。
(北都、北都、ごめんね。守ってあげられなくてごめんね……。約束守れなくてごめんね)
泣くことも謝ることもまだ、止められそうにない――。
登場人物紹介
【川崎善次】
普通の家庭ではあったが、幼少から兄より劣っていると差別され、両親から軽度のネグレクトを受けて育ったため、自己中心的で利己的、排他的な人間に成長してしまった。
プライドが高く卑怯で高飛車な性格から、会社でも疎ましがられていた。
周囲をバカにしていても、いつも誰かに認めてほしいと思っていて、それが叶わないのは周りのせいだと思い、そのジレンマとストレスで犯行に及んだ。