拝啓 親愛なるヴィンセント様
拝啓 親愛なるヴィンセント様
ヴィンセント様が休眠期に入られたあの日から、一体いくつの歳月が流れたでしょうか。
ヴィンセント様がお帰りにならない間に、屋敷の者達はそれぞれ所帯を持ち出て行き、ミナ様たちはアメリカで過ごしています。
しかしながらミナ様は今でも、あなた様をお待ちしております。
今日は、悪いお知らせと良いお知らせ、それぞれ報告がございます。
まずは、悲しいお知らせから。
ヴィンセント様がお屋敷にいらっしゃった頃、護衛を務めていたスニルを覚えておいででしょうか?
スニルも妻をめとり屋敷を出た一人でありました。彼の妻となった女性は、仕事で出会った女優でした。スニルは彼女の護衛を務めていて、それで縁故を深めて結婚に至りました。
彼女はグレイスと言って、南アフリカからの移民で両親や家族はなく、スニルと結婚してからは、私どもとも家族同様に懇意にしておりました。グレイスは人気のある女優で、しかもスニルより20歳以上も年下ですので、娘の様に思っておりました。
ですが先日、グレイスとスニルは揃って、交通事故でこの世を去りました。
二人には遺された子がおりました。サイラスと言います。まだ4歳になったばかりだというのに、なぜこうも神はお見捨てになるのか……。
サイラスは私とレヴィとで引き取りました。私の体の都合で、私達夫婦に子は望めないと言われておりましたので、これも何かの縁でございましょう。サイラスは、スニルとグレイスの分まで、愛情を注いで養育していこうと思っております。
それと、良いお知らせでございます。実は数年前、アンジェロが戸籍を操作して、ボニー様とクライド様は入籍し、公的に結婚することが出来ました。二人とも、それはそれはお喜びになり、元々仲の良いお二人でしたが、一層仲良く睦みあっていらっしゃいます。
そのお二人の間に、子どもが生まれました。吸血鬼は妊娠できないと、私も聞いておりましたが、このような奇跡が起こるのですね。
生まれた赤ちゃんは男の子でした。緑色の髪にに紫色の瞳をした、少し変わった容姿の子どもですが、吸血鬼の子どもだと、そういうこともあるのでしょう。アレックスと名付けられ、お二人は大変な可愛がりようでございます。
私の子どもになったサイラスに加え、屋敷はとても賑やかでございます。
ヴィンセント様がお帰りになった時に、子どもたちが粗相をしないよう、きちんとしつけておきます。
あと10年……私には長く感じます。ですが、私もミナ様も、ヴィンセント様のお帰りを、心からお待ちしております。
ヴィンセント様へ、愛を込めて。
シャンティ・アヴァリ