人を幸せにすると自分も幸せになれる
ボニーとクライドは話を聞いて、頷いていた。満足した様にクライドが笑って尋ねた。
「孤児院の子どもたちは、やっぱ超能力者ばっかりか?」
「最初の内はそうでしたが、一般の子どもも受け入れているので、今は半々と言ったところです」
「能力バレとか大丈夫なのか?」
「問題ありません。最初から子どもたちの能力は一切隠していませんし、私の経営する学院に通わせていますから」
「お前学校まで経営してんの? 大変だな」
「そうでもありませんよ。ウチには天才が山ほどいますから」
「……」
この10年で成人した子どもたちの中には、アンジェロの仕事を手伝ってくれている子どももいるし、弁護士などになって力添えしてくれる子どももいるので、アンジェロは安心である。更に言うと、アンジェロ自身も天才脳は持っているので、なんだかんだ経営自体は楽勝でどうにかなっている。
ちなみに能力者は能力者だけのクラスを作って、超能力者コースというのもしっかり公開して開設している。
ボニーが前かがみになって尋ねた。
「てゆーかアンタ妹とかいたんだね」
「一般的な妹の定義とは離れていますが、生物学上は妹ですね」
「いや普通に妹でいいじゃん」
「そうなんですが、私が施設を出たのが15の時で、妹はその時7歳だったので、付き合い自体は長くありません。同じ遺伝子プールから生まれたので、特別な存在ではありましたが」
「アンジェロの妹見てみたい。今度連れてきてよ。てか小姑じゃん。ミナと上手くやってる?」
「妹は孤島で診療所を開いているので、今はいないんです。ミナに挨拶はさせましたがね。すぐに打ち解けて仲良くなってましたよ」
「なんで孤島なんかにいるの?」
「妹の能力の特性上、都会向きではなかったんです」
アンジェロの妹、アンジェラは精神感応特化型の天才テレパシストだ。テレパシーも使えるし、サイコメトリックも出来るし、相手の脳神経に作用して行動を操作したり、悪夢を見せたり予知夢を見たり何でもござれ。
ただ、唯一の欠点が、人の心を読めてしまうこと。聞く気がなくても勝手に聞こえるし、勝手に感情の波が見える。
人間はハッピーな感情だけで満たされているわけではないので、恨みや憎しみや嫉妬、怒りや悲しみ、いかがわしい妄想まで、アンジェラの頭の中には常に流れ込んでくる。
都会だとその絶対数が多い為、アンジェラを苦しめた。だからアンジェラは人の少ない孤島で、人の役に立つ医師として働くことにしたのだった。
ちなみにアンジェラは精神体の北都とも仲良くなって、しょっちゅうテレパシーで連絡を取っているらしい。いつか精神体の北都が宿れる体を制作するのが、人生の目標なのだそうだ。
その目標はどこか組織を髣髴とさせるので、アンジェロはちょっとやめて欲しいと思っている。
ついでだが、ミナが現れてからは、子どもたちは自分が超能力者であることに悩んでいる場合が多かったのだが、化け物のミナを見るや否や、ミナに比べたら全然自分は人間だと認識できたらしく、情緒が安定したらしい。思いがけぬ効果である。
子どもたち自身が超能力者なので、ミナに対する恐怖や偏見などもなく、子どもともミナはすっかり打ち解けて、子どもと一緒に泥んこになって戻ってくる始末だ。子どもたちにはアンジェロは「いんちょーせんせー」と呼ばれているが、ミナは「およめさん」「おくさん」と呼ばれている。
しれっとアンジェロは私文書偽造して、ミナと入籍していたのだった。
「おま! そう言う事早く言えよ!」
「ミナに先を越されるなんて……」
「すみません。良かったら二人も私文書偽造ですが、入籍しますか?」
「マジで?」
「オナシャス」
アンジェロは苦笑しながら、携帯電話を操作して、二人の戸籍をでっち上げた。
クライドの籍に入っているボニーの名前を見て、二人は感動した様子で携帯電話を握りしめる。
「うぉぉぉ! マジかぁぁ! とうとうボニーと結婚できた!」
「超嬉しい! 結婚式挙げなきゃ!」
「結婚式の際は呼んでくださいね」
「あったりまえじゃん! アンジェロ本当ありがとー!」
二人が喜んでいるのを見て、北都の言葉を思い出す。アンジェロの力は人を幸せに出来る、そう言った北都の言葉を。
この10年間ミナを待ちながら、子どもたちの幸せを一生懸命考えてきたつもりだ。その為に役立つなら能力をフル活用した。良いことにも悪いことにも。
ただ、自分の大事な人が笑ってくれるなら、それに役立つなら良かった。そうして子どもたちが幸せそうにしていることが、アンジェロの幸せだった。
子どもの頃は泣く事もあった。若い頃は辛い思いを押し殺して生きてきた。それでも今は、子どもたちとミナがいて、本当に幸せだと思える。
この10年を振り返りながら、アンジェロはようやく、心から自分が幸せな人間なのだと思えた。