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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
オマケ 空白の10年間
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過去の清算 8


 子どもたちとアリス達とともに、約束通りレストランへ来ていた。人数は子どもだけで28人もいて、ちょっとした修学旅行のようだ。

 子どもたちは街を歩くだけでキョロキョロと忙しそうにして、あれはなんだこれはなんだと質問攻め。人の多さに驚いて、車の音に驚いて、空の青さと太陽の眩しさに感動して駆け回る。

 大騒ぎする子どもたちを何とかレストランに連れてきて、ここでも子どもたちはギャースカと大騒ぎ。


「お前らが騒ぐから、他のお客さん達がビックリしてるだろ。人のいる所では騒がない。わかったか?」

「「「はーい」」」


 子どもたちは子どもらしく大騒ぎしていたのだが、やっぱり秀才の集団なだけあって聞き分けは良い。すぐに大騒ぎはやめた。

 小騒ぎくらいになってざわざわしながら、料理の説明をしたり、一人で食事できない子に子ども同士で食べさせたりしていると、アリスの電話が鳴った。

 アリスがしばらくはなして、アンジェロに電話を渡した。


「俺?」

「ええ、社長からよ」


 どうやらジュリアからのようだった。一体何の用だと思いながら電話に出た。


「俺だ」

「ありがとう! 私今とっても感動しているの!」


 いきなりジュリアは大興奮だ。一体何のことだろうと首をひねる。


「今地下室を見てきたところなの。警察が来た時に、地下に死体が山積みになっていたら大変じゃない? だから部下に始末させようと思って、私も一緒に来たのだけど、綺麗さっぱり何にもなくなっていて、ビックリしちゃったわ!」


 アンジェロは地下室を破壊した後、この施設の何もかもが気に入らなかったので、死体から機械から設備から資料から、とにかく全部ブラックホールで吸い込んでしまった。お陰で地下には塵一つ残っておらず、がらんと空間が広がっているだけだ。

 ジュリアとしては、証拠隠滅の手間が省けたので、とっても有難いことだったのである。


「修理代もたくさんもらったでしょう? だから何かお礼をしたいの。あなた達住むところはある? 子どもたちも一緒よね?」

「あー、まぁ、それは今から探すけど」

「イタリア国内かしら? それとも他国に行くつもりかしら?」

「一応今はアメリカに住んでる」

「丁度良かったわ! ワシントンに私の個人の別荘があるの。そこをあなたに貸してあげるわ。弁護士を通して管理会社に話をしておくから、すぐに住めるわ」

「え、いや……」

「これで貸し借りは無しね。子どもたちの事をよろしくお願いね。それと、ウチの有能な研究員は返して頂戴ね。話はお仕舞よ。ウォーカー博士に替わって頂戴」

「……」


 言いたいことだけ一方的に言って、話はお仕舞だそうだ。不承不承と言った様子でアンジェロが電話を返すのを見て、アリスは苦笑している。

 アリスはいくつかジュリアと話すと、ジュリアに一方的に電話を切られたらしく、小さく苦笑してアンジェロを見た。


「社長って面白い方よね」

「面白いっつーか、超ワンマン女狐だよな」

「ふふふ、そうね。でも、社長はいい人よ」

「……まぁ、そうかもな」

「社長はクローンだから、子どもを作れない。だから、子どもたちの事に、ずっと胸を痛めていたのよ」


 クローンであるジュリアは一代限りの命。人間でもないし妊娠も出産も出来ない。悪辣な男家族。家族を作れない自分。彼女にとっては会社が子どもだった。

 そして、研究によって生み出される子どもたちの処遇に、最も胸を痛めていたのもジュリアだった。

 だけど彼女は父や兄たちに逆らえなかったし、軍との関係や組織の存在が明るみに出る可能性を考えると、一方的に研究を潰すことが出来なかった。

 だからジュリアにとっては本当に、アンジェロ達の襲撃は渡りに船だったのだ。


「まぁ、別荘は有難く借りるかな。ジュリアは研究員は返せっつってたけど、アンタらどーすんだ」

「私には家族はいないし、しばらく科学の世界から離れたい。私もアメリカで保母さんをしてみたいわ」

「いいんじゃねーの」


 他の研究員たちは家族がいたり、製薬会社でのまっとうな研究をしたいとの事で会社に戻ったが、アリスはアンジェロ達についてきた。

 

 そして、アメリカのワシントン。管理会社の担当者は二つ返事で鍵をくれて、すぐに別荘に入ることが出来た。ジュリアの別荘は仕事柄政界人などのVIPが訪れる事があるそうなので、ものすんごく豪華だ。

 ヴェネツィアゴシック調のアンティークな趣の別荘に、子どもたちもビックリしつつ屋敷内を探検している。


 屋敷内を探検したり、庭の芝生の上で転げまわったり、花の匂いを嗅いだり、噴水に落ちたり。自由に遊びまわる子どもを眺めていると、レミが携帯電話をいじりながら隣に来た。


「これだけの人数ってなると、子だくさんでは言い訳がきかないよ」

「そうだなぁ。じゃぁもういっそのこと孤児院って事にするかな」

「オッケー……はい、登録したよ」

「ウソ吐け、お前。登録じゃねーだろ。公文書偽造だろ」

「仕方ないじゃん? 僕らも彼らもミナさんも、僕の公文書及び私文書偽造がなきゃ、この国で生活できないんだから」

「……わかったわかった。助かりました」


 やれやれと溜息を吐いていると、子どもがアンジェロの袖を引っ張って外に連れ出した。アンジェロは子どもにねだられて、自分の能力を見せている。

 花壇に手を着くと、植物の成長が促進されて、沢山の花がふわりと咲き乱れる。噴水から持ち上げた水を細かな霧にして、その向こうに綺麗な虹がかかる。その辺の石ころを拾って宝石に変える。鉄などの導体である金属を空中にばら撒いて、そこに電流を流して、炎色反応のイルミネーションを灯す。

 その度に子どもたちは目をキラキラと輝かせる。


「すごいすごーい!」

「お兄ちゃんなんでもできるんだね!」

「魔法使いみたい!」


 子どもたちが大興奮する様子を見ながら、レミはもう一度携帯電話を開く。そして登録を途中にしていた画面を開いて、続きを入力して登録した。


「うん、これでよしっ」


 レミは満足そうにして、子どもたちと一緒になって笑いあうアンジェロ達を見ながら、ポケットに携帯電話を仕舞った。



 こうしてアンジェロを院長にした孤児院「魔法使いの家」が設立された。


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