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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
オマケ 空白の10年間
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過去の清算 7


 子どもたちを全員救出して、一旦外の公園に子どもたちを集めた。アンジェラとアリス達が子どもの面倒を見てくれるというので、すぐにアンジェロ達は地下に戻る。


 取りこぼしの無いように、地下の施設内をくまなく見て回る。見つけた戦闘員や研究者たちを片っ端から殺害していき、地下の制圧は完了した。ついでに地下の設備やコンピュータも、片っ端から破壊した。


 そして、次に目指すのは、このビルの最上階だ。


 アンジェロが最上階の一室に空間転移した。すぐ下の階にヘリコプターが突き刺さっているというのに、その席には女性が一人、悠然と座っていた。


「遅いじゃない。待ってたのよ」


 そう言って笑う女性は、金髪に青い目をしている。そしてとても見覚えのある顔だ。

 スペンサー製薬会社CEO、ジュリア・スペンサー。ジュリアスのクローンの中で唯一、XX染色体の女性型で生まれたクローンだ。彼女がこの企業の経営をし、そして研究を指揮している。そうして生まれた超能力者を、ジュリアスを通じて軍に流通させていた。


「父さんと兄さん達が、死んだって聞いたわ」

「あぁ、伯爵とその眷愛隷属に、全員殺されたぞ。なんなら死にざまを聞かせてやろうか?」


 皮肉たっぷりにアンジェロがそう言ったが、ジュリアは「是非」と言って笑った。意外過ぎる反応に戸惑うアンジェロに、ジュリアは愉快そうに笑う。


「あなた達が裏切って、父さんと兄さん達が死んだんですってね? とっても面白い話だわ」

「アンタ……何考えてるんだ?」

「なぁんにも。素直な感想よ。私は父さんと兄さん達が、大っ嫌いだったもの」

「は?」


 キョトンとするアンジェロ達に、ジュリアはやっぱり笑って、CEOのデスクに頬杖をついた。


「だって、私が女ってだけでバカにするのよ? ずーっと昔から。誰のお陰で会社をここまで大きくできたのか、わかっていないのよ。あんな、復讐と女の尻を追いかけるしか能のない人たちに、私以上の経営能力があるとは思えないわ。それなのに、私の経営方針に口出しされるのは、本当にうんざりだったのよ」


 ジュリアは一息にそう言って、ふぅと小さく溜息を吐く。アンジェロ達がやっぱりポカンとして聞いているのを見て、ジュリアはまた笑って言った。


「だからね、あなた達がここに来たら言おうって思っていたの。父さんと兄さん達を見殺しにしてくれて、ありがとうって。伯爵たちにも連絡が取れるなら、お礼を伝えておいてね」


 そう言ってジュリアはにっこりと笑った。

 

 やっぱりアンジェロ達はビックリしていたが、どんな事情があるにせよ、ここに来た目的は伝書鳩ではない。


「伯爵たちにはその内伝えといてやる。その代り俺の頼みを聞け」

「死ねというなら無理よ? 私には社員3000人の生活を守る義務があるし、株主総会も近いの。新薬の申請で揉めているから、明日は弁護士が来るしね。あなた達が派手に会社を襲撃したせいで、きっとマスコミも大騒ぎよ。既に部下からの対応に追われてるの。ホラ、また電話が来た。こう見えて私は忙しいのよ。だから死ねというのは却下ね」


 予想外過ぎるジュリアのキャラクターに、アンジェロはちょっと頭痛がしてきた。ジュリアは鳴り響く電話を無視して、電話線を引き千切っているが、全くどうしたものやら。

 スペンサーの名を冠する者は全員殺すつもりだったのに、なんとも憎めない女だ。


 だが、彼女が地下で行っていた事業は、あの施設だけは許すことが出来なかった。ジュリアがどれだけ会社を大事にしていようが関係ない。そう考えてアンジェロが能力を発動しようとした時、ジュリアが人差し指を立て「ちょっと待ってて」と言って、秘書室に声を掛けた。


 秘書室からドアを開けて、2人の人物が入ってきた。一人は男性の秘書らしくスーツを着ていて、もう一人は70代後半くらいの、白衣を着た男だった。


「オルランド博士を差し出すわ。私は超能力研究には興味ないの。だからこれで手を打ちましょう?」


 面白い女だと、思ってしまった。


「そのジジィの価値は知ってるだろ。手放していいのか? そいつは超能力研究の第一人者だぞ?」

「ええ、もちろんよ。あなた達のお陰でこの事業とも縁を切れそうで、私は嬉しいわ。経費ばっかりかさんじゃって、費用対効果の薄い事業に大金を投入するなんて、ばかばかしいったらありゃしないわ。そんな事、経営者のする事ではないわ」

「軍からかなり資金が回ってきてるはずだ」

「ええ。その資金はどうなっていたと思う? 兄さん達がピンハネしていたの。本当に腹が立つわ。とにかく、私は超能力研究はしたくないの。だからオルランド博士も、地下の施設もいらないわ」


 そう言いきったジュリアは、デスクに前のめりになって、CEOらしい威厳のある顔で言った。


「私はこのスペンサー製薬会社を、世界一の製薬会社にしたいの。その為には、父さんも兄さん達も超能力研究も、足枷でしかないわ。役に立たない社員をクビにするのは、CEOとして当然の事よ」


 思わずアンジェロは吹き出してしまった。

 ジュリアがジュリアス達のように、復讐やミナの事に囚われていないのは、恐らく女性だからだ。その記憶や能力なども引き継いでいるようだが、女性だから女性に対する執着などない。

 何より女は新しい環境に順応するのが早いし、厭味ったらしい男家族よりも、我が子の様に育て上げた会社の方が大事なのだ。


 アンジェロが笑っているのを見て、ジュリアは椅子の背に体を預け、満足そうに笑った。


「交渉成立という事でいいかしら?」

「あぁ、コイツの命で手を打つ」

「それはよかったわ。病気になった時は、是非ウチの薬をよろしくね」


 アンジェロは肩をすくめると、床にうずくまるオルランドを見下ろした。そして彼を思いっきり蹴飛ばすと、オルランドはガラスを突き破って、ビルの最上階から真っ逆さまに落ちて行った。

 それを見てジュリアは思いついたように言った。


「そうそう、ガラスもそうだけど、ビルの修理代を請求してもいいかしら?」


 とうとうアンジェロ達は大笑いしてしまって、コピー用紙を片っ端から純金化してジュリアにプレゼントした。



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