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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
オマケ 空白の10年間
132/140

過去の清算 6


 アンジェラの案内によって、最後にやって来たのは地下の最下層だった。ここに集められているのは、ロストナンバーズ。処分を待つ失敗作の少年少女たちだった。


 能力を持っていても、障害を持って生まれてきた子どもや、能力の制御が出来ない子どもや、能力を持たずに生まれた子どもたちがロストされる。

 ステファニーも本来はロストナンバーなのだが、能力が強すぎてロストすることが出来ず、ずっと監禁されていたのだった。


 ただでさえ人間扱いされない実験体扱いだが、ロストナンバーズの扱いは酷いものだった。薄汚い一つの部屋に集められて、風呂に入れないどころかトイレも用意されず、異臭が漂っている。病気の子どもの治療もされず、食事も与えられず、衰弱しきっている。


 8畳ほどの狭い部屋に、力なく生気を失った目をする少年少女が10人もいる。アンジェラは一人の少女に駆け寄って泣き出して、アンジェロ達も顔を見合わせた。

 少し考えてレオナルドが言った。


「よし、まずはシャワーを浴びよう! そんで飯食いに行こう!」


 そう言うと入り口近くにいた子どもを抱き上げて、さっさとシャワールームのある方へ歩き出した。アンジェロ達も頷いて、子どもたちをシャワールームに連れて行った。


 レオナルドに体を洗ってもらった少年は、5歳の男の子だった。ふわふわに泡立ててせっせと体を洗うレオナルドを、男の子は不思議そうに見つめた。


「お前なんてーの?」

「ロストナンバー5683」

「違うよ、名前だよ、名前。あるだろ?」

「リヴィオ。カストがつけてくれた」


 子どもたちは番号で呼ばれる。だけど、みんなそれが嫌で友達同士で名前を付けあうのだ。

 一生残る、心を込めたプレゼント、それが彼らの名前だ。彼らは友達から貰った名前を、とても大切にしている。


「そっか、リヴィオか。よし、綺麗になった。お湯かけるぞ」


 リヴィオは大人しくシャワーを浴びている。リヴィオが何故ロストナンバーなのかはわからない。後でアンジェラに聞けばいい。そう考えて体を拭こうと、リヴィオを立たせた。バスタオルを取って、こっちにおいでと手招きすると、リヴィオは探るように壁に手を着きながらゆっくり歩いてくる。それを見て気が付いた。


「リヴィオ、お前、目が見えないのか」

「うん。薬が合わなかったんだって、言ってた」


 リヴィオは失明したから、ロストされることになってしまったのだ。リヴィオが失明したのは、研究の過程のせいなのに、リヴィオは何も悪くないのに。

 目が見えなくたって、会話はちゃんとできる。大人しいけど、しっかりしている。きっといい子だ。

 それなのに、視力を奪った上に、命まで奪おうというのか。


 自分の千里眼の視力を、ほんの少しでも分けて上げられたらどんなにいいか。絵空事だとわかっていても、そう考えてしまって、思わずレオナルドはリヴィオを抱きしめた。

 

「シャワー浴びたらさ、飯食べに行くぞ。外の飯だよ。レストランに行くんだ。ここの飯なんかよりスッゲェ美味いし、いい匂いなんだぜ」

「嬉しいなぁ、楽しみだなぁ。ここのご飯は冷たくって、いっつもおんなじ」

「しかもマズイ」


 リヴィオが可笑しそうにケラケラと笑っている。

 レオナルドはバスタオルで体を拭いて着替えさせた。リヴィオの手を繋いでシャワールームを出る。少しおっかなびっくり歩いているが、わくわくしているのが表情でわかる。


「イカした音楽が流れてる店を探そう。んで、上手い飯食って、腹いっぱいになったら、公園で噴水の音聞きながら鳩に餌やって、お日様の下で日光浴するんだ。お日様って温かくて気持ちいんだぜ」

「わぁ、楽しみ!」


 リヴィオはわくわくが隠しきれない様子で、目がきらきらと輝いている。

 目が見えなくても、リヴィオは生きている。目が見えなくても、音や匂いは感じることが出来る。リヴィオなりの楽しみを、きっと外の世界は用意してくれている。

 

 隠れていた戦闘員を千里眼で見つけてコッソリ射殺しながら、レオナルドは子どもたちと何をして遊ぼうかと真剣に考えるのだった。

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