過去の清算 5
その頃アンジェロ達は何度かの戦闘を挟みつつも、強化人間型の子どもたちを救出していた。強化人間のなので、連れて歩いても問題はなく、アンジェラの言う事をよく聞いていた。
次にアンジェラに案内されたのは、鋼鉄の扉が厳重に締まっている、大金庫のような部屋だった。
「こんな所に閉じ込められてるのか?」
「あの子は力の制御が出来ないの。能力が暴走して何人か殺してしまって、そのせいで情緒不安定になって、余計に制御がきかなくなっちゃった」
「なるほど、悪循環だな」
そう言いながらアンジェロが扉を開けようとすると、アンジェラが止めた。
「お兄ちゃんは感応型でしょ? やめといたほうがいい」
「そんなにヤベェのか?」
「うん。多分今も制御できてないと思うから、その状態でお兄ちゃんがコピーしてしまったら、都市区画まるごと吹き飛んじゃう」
「随分危ないな……何の能力だ?」
「核融合だよ」
それは本当にヤバそうだ、とアンジェロは大人しく部屋の外で子どもたちと待つことにした。
再生力のない人間は離れていた方がいいとアンジェラが言うので、クリスティアーノが扉を開けて入った。
鋼鉄の重い扉を開けると、中からは眩しい光が揺らめいていた。その光の中心では、和紙でできた灯篭の様に体を発光させる、14歳の少女がいた。その少女はクリスティアーノを見ると、涙を浮かべて後ずさりした。
「やだ、来ないで、近寄らないで! もうやだ、誰も殺したくない! 死んじゃうから、こっちに来ないで!」
少女はぼろぼろと涙をこぼしながら、クリスティアーノに出て行くように嘆願した。だが、クリスティアーノはゆっくりと歩みを進める。それを見た少女の体が、更に強く発光するのを見て、クリスティアーノは歩みを止めて、少女の目線までかがんだ。
「心配するな。俺は死なない。再生能力を持ってる」
「でも、火傷してる……痛いでしょ?」
彼女の能力によって、クリスティアーノの皮膚は焼けただれ、再生を繰り返している。それを見てクリスティアーノは苦笑して、少女に向いた。
「まぁ多少は痛いけど、この位の怪我ならどうってことねーよ」
「本当?」
「あぁ」
「本当にお兄さんは、死なないの?」
「死なない。そう言う能力だからな」
安心したのか、少女の体の光は徐々におさまって、すぅっと光は消えた。影からコッソリ見届けていたらしく、すかさずアンジェラが入ってきた。
「ステファニー! よかった!」
「アンジェラ、どうして……?」
「お兄ちゃんたちが助けに来てくれたの。外に出られるのよ!」
やや興奮した様子でアンジェラはそう言ったが、その少女、ステファニーは俯いて、再び体が発光しはじめる。
「でも、私、能力を制御できない。このまま外に出ても、また、たくさん殺しちゃう……!」
「大丈夫だよ」
ステファニーの前にジョヴァンニが立って、柏手を打って封印を発動した。するとステファニーの光が急速に消えて行った。その事にステファニーは驚いた様子で、自分の前に膝をつき、手を握ってくれているジョヴァンニを見つめた。
「大丈夫。俺が傍にいれば、君の暴走を止められる。君の能力は俺が制御できる。だから安心して、俺達と一緒に行こう。俺が傍にいるから、大丈夫だよ」
クリスティアーノはステファニーの傍にいても死ななかった。ジョヴァンニが傍にいてくれれば、能力の暴走を止めることが出来る。ステファニーはその事で希望が見えて、笑顔になって頷いた。
だが、ジョヴァンニが握っている手を見て、少しもじもじし始めた。
「あ、あの、手を……」
「あぁ、ごめんね」
ジョヴァンニは何でもない様子で笑って手を離したが、ステファニーは顔を真っ赤にして、上目づかいでジョヴァンニを見つめている。そしてジョヴァンニはそれに全く気付かない。
「ステファニーが可哀想。ジョヴァンニって、なんて残念なの」
「ジョヴァンニは鈍感だから、チャンスを逃してモテないんだ。今に始まったことじゃない」
アンジェラとクリスティアーノでそんな事を言って、やれやれと溜息を吐くのだった。