過去の清算 4
子どもとアリス達は、転移で先にレミの待つ公園に送られていた。アリス達はレミを見て少し驚いた様子だった。
レミは特殊な個体だった。強化人間をベースにした戦闘特化型でありながら、天才型の能力を有する特殊個体。
新たな試みによって生まれた、試作型個体識別番号P-02。新人類の完成形として作られた、最初の試作型だ。
「あなた……試作型のダリルね?」
「僕はレミだ」
「レミは死んだはずよ……っ!」
言いつのろうとするアリスに、レミは迷わず銃を突きつける。10歳の少年が、微塵の躊躇もなく銃を構えてしまえることに、アリスは冷や汗を流した。
「過去の事なんかどうだっていいんだ。あなた達には未来が見えないの? 僕には未来が見えている。僕の未来を邪魔しないで」
レミの鋭い視線と剣幕に圧倒され、アリスは大人しく頷いた。
レミは無線から音を拾っていたので、状況は理解していた。子どもたちの中には、幼い頃の面影を残した友達の姿も見える。
だが、そこにいる子どもたちは全員天才型の子どもばかりだ。強化人間型の子どもの姿が見受けられない。
「ブーストは?」
「強化人間型の子どもたちは、今アンジェロ達が助けにいってくれているわ。アンジェラが案内についているから、大丈夫よ」
「そう」
気の無い返事を返すと、レミはさっさと携帯電話を画面を覗き込む。ビルのコンピュータの制御、周囲の状況を把握するための衛星からの映像、レーダー。
一通りチェックして、電源を復活させる。地下だけ出入りできないようにして、正面玄関だけシャッターを開け、火災警報を鳴らし、スプリンクラーを作動させる。勿論警報の情報が消防署に伝わらないように遮断してある。
襲撃の情報を受けたのか、軍から派遣されたであろうヘリコプターが一基飛んでくる。コックピットの回線に侵入し、操縦権を奪うと、レミはヘリコプターをビルの上階に墜落させた。
失敗失敗と思いながら、軍へは「異常なし」報告をした後、回線を遮断した。
少しすると、正面玄関からたくさんの人間が逃げ出してきた。
この組織で人体実験に関わっている人間は、地下にいる人間だけだ。地上で働いている人間のほとんどはただのサラリーマンとOLで、自分の勤める製薬会社が、こんなに非人道的な事をしているなどと、知らない人ばかりだ。
無関係の社員が3000人。そんな人達まで殺す気はない。ヘリの墜落にビビって、さっさと逃げ出してくれるとありがたい。
淡々と作業をこなすレミの隣に、アリスが腰かけた。
「あなたはその才能を、人のために役立てたいと思ったことはない?」
「あるよ。これからそうするのさ。今まではその舞台が用意できなかったけど、これから僕は何にでもなれるし、何でもできるからね。変なことしようとすると、クソオヤジがガミガミうるさいし、まっとうに生きるよ」
レミの話を聞いて、アリスはふっと微笑んだ。
「レミは、変わったわね」
「そう?」
「ええ。ふふ、昔は嫌味な子どもだったもの」
「悪いけど、今でもそれは変わってない」
「そうみたいね」
外の世界を知ったレミが、人とのかかわりの中で変わっていって、成長している。
子どもたちは空を見て、その青さと広さに感動している。砂や鳥や車、他の子どもの姿に感激して大はしゃぎしている。
他の子どもたちも、これからきっと豊かに花開いていくだろう。その未来を夢見て、優しく微笑んだ。