過去の清算 3
ふすふすと煙を上げる戦闘員と研究者から視線を上げて、研究室に目を向けた。ガラス張りの研究室の中では、6人ほどの研究者の後ろに、白衣を着た子どもたちが集まって、アンジェロ達を見て怯えていた。
研究所に入った時真っ先に声を掛けてきたのは、茶髪の40代半ばの女性研究者だった。
「アンジェロね?」
「久しぶりだな、アリス先生」
言いながらアンジェロはDr.アリス・ウォーカーに銃を向けた。少し後ずさりしながらも、アリスはアンジェロに言った。
「私達を殺すのなら、それでも構わない。だけど、子どもたちは助けて。この子達を、逃がしてあげて」
アンジェロは驚いたが、一人の研究員がアリスに掴み掛った。
「ウォーカー博士! あなたは正気か!? 組織を裏切る気か!?」
研究員はアリスに詰め寄ったが、突然発砲音が聞こえて、その研究員はどさりと倒れこんだ。別の研究員が、射殺していた。
それを見届けて、アリスは言った。
「私は長年、この研究所に身を置いてきた。だけどね、研究員の全員が、ここの研究に賛同しているわけじゃないの」
続けて他の研究員たちも言った。
「超能力者を生み出すこと、超能力の開発は、とても魅力的な研究だ」
「新人類を生み出し、世界を変える。その理念は素晴らしい。だが、手段が気に入らない」
「こんな子どもたちに辛い思いをさせ続けるなんて、もう俺には耐えられない!」
アリスがアンジェロの前までやってきて、アンジェロの手を取って懇願した。
「お願いよ、アンジェロ。この子達に、世界の本当の美しさを、空や海の青さを、見せてあげて」
アリスがそう懇願しているのを聞いて、子どもたちの何人かが反応した。
「えっ! 海を見せてくれるの?」
「空を見たい!」
「鳥も見れるかな!」
「僕達外に出たいよ!」
子どもたちがアンジェロ達の所に集まって、連れてって連れてってと大合唱を始める。やれやれとアンジェロは銃を仕舞って、子どもたちの中では、一番年上の少女に目を向けた。
確か今年で18歳だったはずだ。金髪に琥珀色の目をした、アンジェロと同じ卵子の細胞からつくられた、最高傑作の遺伝子上の妹。
「久しぶりだな、アンジェラ」
「アンジェロ兄ちゃん、久しぶり」
「お前が今、リーダーか?」
「うん」
「しょーがねーから連れてってやる。ちゃんとお前がガキどもの面倒見ろよ」
「任せて」
アンジェラがアンジェロの様に軍に入らず、研究所に留まっていたのは、彼女が天才型だからだ。この施設で研究されている能力者は大別して2種類あって、強化人間をベースに作る戦闘特化型と、天才をベースに作る精神感応特化型とに分かれる。
その中でアンジェラは特に秀才であり、その精神感応能力の技術は高く、組織内でも一目置かれている天才テレパシストだ。
そのアンジェラが子どもたちを率いてくれるのであれば、子どもも素直に従うだろう。
クリスティアーノ達が護衛しながらアンジェラ達が研究室を出る時に、アンジェロは見送るアリスたちにも声を掛けた。
「アンタ達も一緒に来い。俺らはガキの面倒なんか見た事ねぇから、おもりがいなきゃ困る」
アリス達は苦笑しながら、アンジェロ達と共に研究室を出た。