過去の清算 2
レミのハッキングによって、自動ドアが開かなくなり、ビルの窓や入り口に、機械音を立ててシャッターが閉まる。エスカレーターやエレベーターが動きを止めて、それに乗り込もうとしていた人たちは、一層恐慌状態に陥る。
コンピュータや照明を初めとする、ビル全体の全ての電源がダウンし、非常電源すらも入らない。
誰も逃がさない、真っ暗闇の中。恐怖に喘ぐ大人たちの目に映るのは、パイロキネシスの炎に灯されるアンジェロ達の姿。
それを見て一人の研究員が飛び出してきた。白衣を着た60代くらいの男だった。
「き、貴様は、個体識別番号B-1682だな!」
「人を番号で呼ぶんじゃねぇよ」
「脱走したことは聞いている。貴様はオルランド博士を失望させた。最高傑作だと思っていたが、とんだ失敗作だ」
「あのジジィまだ生きてやがったのか。勝手に失望してろ。どーせ持って数分の短い余生だ。失望の中で、死ね」
アンジェロは笑うと、容赦なく炎を放った。白衣に炎が燃え移り、悲鳴を上げてのたうちまわる研究員。軍人や傭兵に改造を施して強化された戦闘員達が、アンジェロ達に向かって銃撃してきた。
突風が起きてクリスティアーノが前にまわる。揺れ動く様な残像と共に金属音が鳴り響くと、剣によって切断された銃弾が転がり落ちる。
ふと、アンジェロの姿が見えなくなり、何もないところから発砲炎がしたと思ったら、銃に斃れた仲間たちがばたばたと崩れ落ちた。
物陰に隠れて様子を窺っていたのに、レオナルドの千里眼で見つかり、跳弾を利用した狙撃によって狙い撃ちされていく。
背後から襲いかかろうとしていた班は、ジョヴァンニの炎の壁によって阻まれて、先に進むことが出来ない。
最高傑作と呼ばれた、最強の超能力者が率いる、強化人間をベースに作られた戦闘特化型の個体たち。その実力を目の当たりにした戦闘員達は、額に汗を浮かべた。
自分達は歴戦の軍人だ。コソボ、イラク、様々な土地で戦い抜いてきた。各国の軍、モサド、傭兵として活躍してきた。この組織からヘッドハンティングを受けた時、もっと強くなれる、もっと戦えると喜び勇んで改造を受けた。
それがどうだ。普段は戦闘特化型の子どもの暴走を止めるだけ。久々に敵が現れて、闘えると思ったら、自分達とは段違いの実力。
「青二才が、調子に乗るなよ!」
一人が銃を乱射したが、見えない何かに反射して、全て弾き返される。悪魔のような嫌らしい微笑を浮かべた青年が、こちらを見ている。
「その青二才以下なのは、一体どこのどいつだ? 鉄クズども」
アンジェロが高圧電流を纏っている。戦闘員達は改造の為に、体内にチップや武器などの金属を埋め込まれている。いかに強靭な肉体を得ようとも、電撃を喰らえば活動を停止……いや、あのレベルの電力だと、確実に死ぬ。
ある戦闘員は死の恐怖に喘ぎ、ある戦闘員は死の恍惚に浸る。まばゆく光る青い閃光が、腹に響くような激しい雷鳴と、強烈な衝撃とともに、戦闘員に襲い掛かった。