過去の清算 1
発端は、アンジェロの一言から始まった。
「っあー、ムシャクシャする。おい、誰か殺そうぜ」
ミナを失ったアンジェロは、この頃、荒れに荒れていた。街に出れば気に入らない相手は即喧嘩を吹っ掛けるし、しかも容赦がなかった。
アンジェロがこれだけ荒れてしまう理由も理解していたが、クリスティアーノ達は、アンジェロをこのままにしてはいけないと頭を悩ませていた。
ふと、思案に耽っていたレミが顔を上げて、アンジェロ達に提案した。そのレミの提案に全員が賛同し、やって来たのは、イタリアはローマである。
「懐かしいなぁ」
と、アンジェロがニヤニヤ笑って見上げるのは、かつて彼らが育った、超能力者を創造し、開発研究する施設だった。こちらも一見するとただのオフィスビルにみえる。
表向きは製薬会社なのだが、その地下では人体実験や投薬実験、交配実験が行われ、生産された「成功作」と「失敗作」が地下に監禁されて、その能力を無理やり開発されている。
アンジェロ達はこの施設及び組織を壊滅に追い込むためにやって来たのだ。
入り口から始まるセキュリティは、外の公園で暢気に携帯電話をいじっているようにしか見えない、10歳の少年によって難なく開錠されていく。
アンジェロ達は堂々と歩みを進めて、1階から地下へエレベーターで降りる。
そして到着したのは地下6階から始まる、非合法組織の暗躍する世界。
アンジェロ達の目に飛び込んできたのは、投薬実験をされる子ども、その能力の限界値を知るために拷問される子ども、そして、無心になって白衣を着てコンピュータに向かう子ども達の姿だった。
その子どもたちの姿を見て、自分達の子ども時代の姿が重なり合う。自分達もそうだった。実験される友達のデータを取って、友達になった失敗作が処分されるのを見送って、ただ自分の環境を嘆く事しかできなかった。
何も知らない人は、反抗すればよかったと言うかもしれない。だが、子どもにとって、養育者は神であり、育つ環境はその世界の全てだ。
なまじ優秀に生まれ育ってしまった子どもは、自分が一般的な社会環境で生きていけないことを、子どもながらに理解して諦めてしまう。
この施設で生まれ育った子どもは、全員そう言う思いを抱いて生きている。
何故自分は普通の人と違うのか。
何故自分は特別なのか。
何故自分は失敗作なのか。
何故自分は存在しているのか。
子どもの頃から、往年の哲学者でも解説できないような難題を、その胸に抱えて生きる。それがこの施設の子どもたちの姿だった。
「まだ……こんなことやってやがったんだなぁ。あぁもう、ここの奴らは、全員死刑だな」
パイロキネシスを発動しながらそう言うアンジェロに同調し、クリスティアーノが剣を抜き、ジョヴァンニとレオナルドが銃を抜く。
警報が鳴り響いて、戦闘員がこちらに銃を構え、白衣を着た研究員が恐慌状態で逃げ出す。
「誰も逃がさねぇぞ。お前ら全員、皆殺しだ」
脱走した最強の超能力者による復讐劇が、幕を開けた。