この10年どーしてた?
ミナがヴィンセントに謝罪したいというので、アンジェロとミナはインドのシャンティの屋敷にいた。あいにくヴィンセントとメリッサは不在との事で、ミナは少し席を外していて、クライドとボニーがアンジェロと話をしてくれている。
「お前ら急にいなくなってさぁ、ミナも連れてったとか言うしさぁ」
「連絡先も聞いてないし、淋しかったじゃん!」
ボニーとクライドは何も知らないので、そのまま何も知らされずに10年過ごしてきたようだった。今更話す必要もないので、10年前の事はアンジェロも言わない。
ボニーがアンジェロの顔をまじまじと見て、苦笑しながら言った。
「どうでもいいけど、アンタ全然老けないね」
アンジェロも思わず苦笑する。
「以前から怪しいとは思っていたのですが、どうやら私とクリスは不老不死のようです」
「人間なのになぁ。ドンマイ」
アンジェロは今年36歳になるというのに、20代の頃と全く容姿に変化はない。アンジェロとクリスティアーノは、細胞増殖による細胞再生の能力を持っている。その為、加齢による細胞の委縮や破壊なども修復されてしまって、結果、歳を取らない。人間なのに。
続けてクライドが尋ねた。
「お前らこの10年どうしてた? ……いや、クリスは知ってるけど」
思わずアンジェロは項垂れる。最近クリスティアーノのせいで悩んでいるのだ。
「やっぱり知ってますよね……アイツ不老不死のくせに、何をやっているんだか……本当に参ってるんですよ」
「アイツ本当バカやったな。不老不死の超能力者が、今や世界一有名なプロサッカー選手だもんな」
クライドの言うとおりである。10年前、色々落ち着いた後、クリスティアーノはサッカーをしに行くと言ってブラジルに渡った。街角でボールを蹴っていたら地元のチームに誘われ、地元チームでプレイしていたら企業のチームの目に留まり、更にプロの目に留まってスカウトされ、あれよあれよと言う間に有名になってしまった。
強化人間をベースにしているので、その身体能力を活用したプレーでブラジル代表をワールドカップ優勝に導き、MVPまで獲得してしまったのである。
「私達は不老不死なので、老けもしなければ死にもしない。いつかは高飛びしなければならないのに、こんなに有名になってしまったら、どこに行ってもバレる。その事に今頃気付いて、泣きついてきましたよ」
「アイツもうちょっとしっかりした奴かと思ってたけど、見た目通りの脳筋バカだったんだな」
「私もそのはずだったんですが……クリスによると「富と名声に目がくらんだ」のだそうです」
「バッカだねぇ」
「全くです」
超能力者や化け物が、人間に紛れて暮らしたいなら、目立たずひっそり。これは鉄則だ。
自分の力がどこまで通用するのか試したい、と思うのは当然だが、ベースから化け物じみている人間のやっていい事ではない。
有名になり過ぎたクリスティアーノは、テレビなどの無いような、文明が未発達の、未開の土地に高飛びするしかないだろう。例えばシンプソン砂漠とか。
クリスティアーノの今後を思って溜息を吐いていると、今度はボニーが尋ねてきた。
「レオは何やってんの?」
「FBIに所属していますよ」
「「FBI!?」」
二人揃って食いついた。
レオナルドは超能力者であることを、最初から隠さなかった。公募が出ている時期に普通に面接に行って、軍人の経歴と技術と超能力を普通に見せて、面接官たちの度肝を抜いて採用。
今やレオナルドはFBIの超能力捜査官として大活躍している。
「テレビで特集もされてましたよ」
「レオも有名人になっちゃったんだ」
「まぁアイツは不老不死ではないので、別に構いませんけどね」
アメリカはその辺り寛大な国だ。超能力捜査官は何人もいるし、超能力を開発研究する施設もたくさんあるし、そう言う子ども向けの学校まである。
超能力者にとってアメリカは、非常に住みやすい国だ。勿論、一般の人にバレるのはよろしくないが、レオナルドのように人の役に立つ場合は、賞賛されるのである。
「レオはFBIかぁ。まぁお前ら前歴が派手だから、大活躍だな」
「そのようです。お陰でモテるらしいですよ」
「そーいえばアンタ達人間じゃん。アンタはともかく、レオとか結婚してないの?」
「レオは結婚して子どももいますよ」
「へぇ、そうなのか」
「しかも子どもに千里眼が遺伝したようです」
「ワオ、マジか」
「でもそのせいで大変な事になって……」
と言いながら、アンジェロは思い出し笑いしてしまった。二人が不思議がるので、その話をすることにした。
レオナルドの子どもは4歳で、当初レオナルドも妻も、千里眼が遺伝している事には気付かなかった。強化人間が遺伝したことには気付いたらしいのだが、それでも子どもの内は「発達の早い子」程度の認識だ。
それが発覚したのは数か月前。レオナルドは捜査官なので、仕事の都合で何日も家を空けることがあった。それで子どもが淋しがり、千里眼を発動してレオナルドを発見。
ここまでは良かったのだが、子どもが発見したタイミングが悪かった。子どもが千里眼でレオナルドを発見した時、レオナルドは浮気中だったのである。子どもの千里眼発覚と同時に浮気も発覚。妻は激怒して子どもを連れて家を出てしまい、ついに先日離婚が成立したところである。
この話を聞いて、ボニーもクライドも吹き出して大爆笑した。
「レオは昔からチャラかったので、いつかはやるだろうとは思ってましたが……」
「子どもの千里眼で浮気がばれるとか、超ウケるんだけど!」
「レオには悪いと思いましたが、私も最初に聞いた時は爆笑しました」
FBIに入ったお陰で妻と出会って結婚し、そのせいでモテはじめ、浮気して妻に捨てられる。この世は因果なものである。
レオナルドは現在非常に落ち込んでいるらしく、レミの所にしょっちゅう愚痴を言いに行っては、鬱陶しがられている。
「レミはどうしてんだ? アイツももう20歳だよな」
「ええ、大学にいますよ」
「大学生かぁ。いーねーキャンパスライフ」
「いえ、レミは講師です」
「は?」
「天才なので」
「あぁ……そっか……」
レミの説明は全て「天才だから」で済んでしまう。アメリカに渡ったレミはアイビー・リーグに名を連ねるコロンビア大学を受験。成績はもとより、自己アピールがハンパなかった。
自分は今まで兵器から携帯電話まで色々発明をして来たし、子どもなので伸びしろも大きい。ただでさえ天才的な頭脳を、世界最高のものにしたい。
そんな感じの事を天使の笑顔をオプションで付けて、堂々とアピール。試験の成績もダントツトップで申し分ないとの事で、9歳の子どもが入学したという前例もあったことから、レミは楽勝で入学。
その後、工学部に入ったくせに、在学中に司法試験や医師の試験など、難関と言われる資格を次々にゲット。大学卒業後は大学院に入り、研究所からもお声がかかり、更に特別講師として教壇に立っている。
レミは学生とは年齢が近いし、レミの講義は皮肉とユーモアたっぷりで面白いらしく、学生からは人気があるそうだ。
「末恐ろしいな、レミは」
「まだ20歳なのに米国内でも最高峰の大学の教員ですからね。すでに天狗になっていますよ」
「そういえば、あの子腹黒かったね……」
地位も実績もある超絶イケメンの天才は、現在腹黒さにも磨きがかかっている。幼いころからのレミを知っているアンジェロとしては、将来が少し心配だ。
「ジョヴァンニは?」
ボニーの質問に、自分と一緒に仕事をしていると伝えた。
「そーいやお前の話聞いてないな。お前ら今なにしてんだ?」
「私はジョヴァンニと一緒に孤児院を経営しています。私が院長で、ジョヴァンニが副院長です」
「なんでまた」
「色々ありまして、子どもを引き取ることになったんです。金は沢山あったので、どうせなら孤児院を経営しようという話になりまして」
「いや普通そこで孤児院経営とはならねーだろ」
「人数が多かったもので」
ちょっと事情があって、アンジェロ達は30人近い子どもの面倒を見なければならなくなった。なので、どうせなら事業化しようという事になったのだ。
その事情とは一体なんだとボニーが尋ねるので、10年前の戦いの後、約1か月経ってからの話を始めた。