12-7 最終話
10年後。アメリカ合衆国。
アンジェロ達はアメリカで、人間と同じように生活をしていた。クリスティアーノだけはブラジルに行ったが、他のメンバーはアメリカにいる。レオナルドとレミはニューヨークに、アンジェロとジョヴァンニはワシントンにいる。
夕日の挿し込む夕方のリビング。アンジェロは小さな女の子と向かい合う。
「Aはあっぷる、Bはぼうる、Cはくりすます!」
「そうそう。ジェシカは覚えるのが早いな。えらいぞ」
4歳のジェシカは嬉しそうに笑う。後ろからパタパタと足音が聞こえて、誰かがアンジェロの背中に抱き着いた。
「みてみて! テスト100点だった!」
「おぉ! ジョニー頑張ったな!」
7歳のジョニーは得意げに胸を張る。
ミナを失ってから10年。アンジェロの心の傷は深いものだったが、それも時間と共に少しずつ癒された。未だに忘れることはできないが、今笑っていられるのは子どもたちのお陰だ。
ふと、キィ、とドアのきしむ音がした。少し離れた部屋のドアが開かれたようだった。子どもたちを一か所に集めている間に、足音が近づいてくる。足音はどんどん大きくなり、だだだっと走り抜けてくる。
そしてドアをぶち壊して飛び込んできたのは、黒髪を振り乱して、目を紅く光らせて、一糸まとわぬ姿で襲い掛かってくるミナだった。
ミナはアンジェロに飛びかかって、その首筋に噛みつこうと必死に顔を寄せる。
「おなかすいた、血、ちょうだい、おなかすいた」
「ジョヴァンニ! ミナが暴走してる! 血ィ持ってこい!」
「わかった!」
慌ててジョヴァンニが冷蔵庫に血を取りに行って、アンジェロに血を放り投げた。それを何とか受け取って、口でパックを切ってミナの口に押し付けた。ミナはその血をごくごく飲んで、ぺっとその場にパックを放る。だがやっぱりアンジェロに噛みつこうとする。
「たりない、おなかすいた、おかわり」
「ジョヴァンニおかわりー!」
「はーい!」
今度はジョヴァンニが両手に血を抱えて持ってきて、封を開けるごとにミナは片っ端から血を飲んでいく。そしてようやく落ち着いたのか、プハァと満足そうに笑った。
紅くなっていた瞳が元の黒い瞳に戻り、正気を取り戻した様子のミナは周囲をキョロキョロと見渡した。
「あれ? ここどこ? 私死ななかったっけ? あれ?」
ミナがようやく正気を取り戻したことに安心して、アンジェロが深く溜息を吐いた。それでミナがようやくアンジェロを下敷きにしていることに気付いて、同時に自分の格好にも気付いた。
「あれ!? なんで私裸なの!? え!? その子たち何!? アンジェロの子!?」
ミナは大混乱に陥って、とりあえず自分の体を隠すように抱きしめていた。アンジェロはミナの下から抜け出すと、ダイニングテーブルからバサリとテーブルクロスを引き抜いた。
テーブルクロス引きを成功させたアンジェロに、子どもたちが尊敬の眼差しを向ける中、アンジェロはそのクロスをミナにかけて、少し呆れながら笑った。
「詳しいことは、これからゆっくり説明してやるよ」
ミナはクロスを握って、素直にコクリと頷いた。それを見てアンジェロが笑って言った。
「ずっと待ってたんだぜ。ミナ、おかえり」
胸がいっぱいになったミナは、折角かけてもらったテーブルクロスから手を離して、アンジェロに思いきり抱き着いた。
やっぱり絶好調でサバ折りされるアンジェロだったが、この時ばかりは許してやることにした。
「アンジェロ! ただいま!」
10年もかかったけれど、ミナの笑顔を、取り戻せたから。
(やったー! やっとお姉ちゃんの所に帰れる! アンジェロ早く寝室行って!)
(北都くん、君はちょっと黙ってなさい)
最後に北都にちょっと水を差されたが、めでたしめでたし!