12-2 今シーズンも絶好調だ!
ミナとアンジェロに、砂の龍が体をくねらせながら襲い掛かってくる。ミナは両手を向けて電撃を放ったが、電撃を喰らった龍はわずかに動きを止めるのみで、ダメージを喰らった様子はない。
ミナの横ではアンジェロが、両手を上空に挙げて炎を大きくしている。だが、中々撃とうとはしない。早く攻撃して欲しくてアンジェロに詰め寄ろうとした瞬間、ミナの傍を突風が駆け抜けた。
残像でクリスティアーノだという事が分かるだけで、ミナには全く彼の動きは認識できない。だがクリスティアーノは一瞬でアイザックに迫り、アイザックに縦横無尽に斬撃を浴びせかける。
後方からは銃声が響いている。クリスティアーノの斬撃を受けつつ、しかもレオナルドの銀弾によって、アイザックは幾度も額を撃ち抜かれて、その体がガクガクと震えている。
アイザックが龍を操ることに集中できていないため、龍は動きを止めてしまった。
「出来たぞ!」
そう言ったアンジェロの炎は、太陽の如き恒星の威容を放って、巨大化しつつ圧縮された炎の球体が、すさまじい高熱を放っている。アンジェロの合図とともにクリスティアーノが離脱し、それと同時にアンジェロがアイザックに向けて炎の球体を放った。
炎を受けたアイザックは、その球体の中で激しくのた打ち回り、もだえ苦しんでいる。その様子を見て、アンジェロを見上げた。
「ねぇ、龍は攻撃しないの?」
「本体をやれば、龍と戦う必要ねーだろうが」
言われてみればそうだ。さすがはSMART、化け物狩りのプロ。戦い慣れている。
龍は巨大すぎて、しかも砂でできているせいで、中途半端な攻撃では倒せない。龍の尻尾が一薙ぎするだけで、ミナ達は全員吹き飛ばされて重傷を負うだろう。だが、龍を操るアイザック本体を攻撃して、その動きさえ止めてしまえばいいのだ。
ミナは感心していたが、徐々に炎が小さくなっている事に気付いた。そして悶えながらも、アイザックの殺意は微塵の衰えもない様子だ。炎が終息して、アイザックが活動を始める前に、何かしら手を打つ必要がある。
ミナは雑草の生えている所まで行って、地面に手を着いた。すると、生えていた雑草がスルスルと伸びていき、砂の龍にまとわりつく。スルスルと伸びて行って龍に巻き付いた雑草は、更にぎりりと締め上げて、龍を雁字搦めにした。これで、アイザックが操っても、少しは龍の動きが止まるはずだ。
続いてミナは家の裏の井戸に行って、井戸の中から水を引き上げた。人一人分くらいの大きさの水の玉がゆらゆらと形を変えながら、アイザックたちの上空へと飛んでいく。その水玉が弾け、更に細かく弾け、周囲に濃い霧を生み出した。そして窒素を冷却して気温を下げる。
「お前何やってんだ?」
「お手伝い」
アンジェロの所に戻った頃には、炎の球体は大分小さくなっていた。そして、アイザックは炎に包まれながらも攻撃しようとして、龍を動かした。だが龍は絡みつく草で身動きが取れず、しかもアイザックからはミナ達の姿が見えなかった。
ミナ達が逃げたと喚き散らすアイザックを見て、アンジェロは不思議そうだ。
「お前何した?」
「あっちからは霧と蜃気楼で、私達の事見えてない」
「なるほど」
アンジェロは納得していたが、得意そうな顔をした。
「俺一人なら、わざわざそんな事してもらう必要もねぇけどな」
「人が手伝ってや……」
言っている途中でミナはビックリして辞めてしまう。アンジェロが足元からすぅっと消えてしまったからだ。どうやらアンジェロは透明化できるらしい。
「透明人間とかズルい!」
「結構便利なんだぜ」
何もない空中から声が聞こえる。それはそうだろう。気配感知が出来る相手ならともかく、それ以外の相手には一切認識されず、こちらから一方的に攻撃できるのだから。
ミナには見えないが、アンジェロは少し進み出て腕を振る。アイザックの元に発生した竜巻が、炎ごと渦を巻く。炎が消えてしまうかと思ったが、その炎は竜巻の渦に乗って、酸素を取り込み爆発的に火力を増してゆく。いわゆるバックドラフト現象だ。またしても感心させられるミナ。
「すごい、そう言う使い方もあるんだ」
「俺はコピーだからな。工夫は大事」
コピーはオリジナルには勝てない。同じ能力なら、コピーよりオリジナルの方が強くなる。アイザックがアンジェロの体に乗り移っていた時、同じ能力を持つはずのクリスティアーノとレオナルドに対応できなかったのがその証拠だ。
コピーはその時見た段階での能力しかコピーできないが、オリジナルは鍛えることによって能力が発達する。
クリスティアーノは以前は音速を超えるくらいの速度だったらしいが、今はそれを上回っている。レオナルドの千里眼は遠くを見るだけでなく、X線や赤外線を捉えて、相手の心臓、筋力、脳神経の動きから、相手の行動を予測することが出来るようになった。
何が起きているのか知りたいと強く願ったレミは、脳神経の発達とそれに伴う知識欲の強さから、予知夢を見るようになった。その内過去視も出来るようになるかもしれない。
だがアンジェロの能力は、クリスティアーノ達の様に成長や発達する事はない。これはアンジェロの能力の大きな欠点の一つだ。
だから色々な能力を組み合わせたりなどの工夫が必要だ。勿論、アンジェロはその欠点を補って余りあるだけの能力を有しているのだが。
話している間にも、アイザックは炎の渦の中で悶えている。皮膚が焼けただれて燃え落ちては再生を繰り返している。今までで何度死んだかわからないが、アイザックの再生力を見ていると、炎では彼を殺すには力不足に見える。
やはり吸血鬼を倒す原則は、頭部若しくは心臓の破壊だろう。そう考えたミナが作り出したのは、砂漠の砂鉄から作り出した金属バット。そして石、鉄、アルミニウム、マグネシウム、銅などから作ったボールだ。
そんなもので一体何をするのかと訝るアンジェロ達の前で、ミナはボールを浮かべて金属バットをフルスイング!
「うりゃぁぁぁ!」
ミナが全力で打ち出した金属球は、アイザックの頭に命中すると、ぐしゃりと嫌な音を立てながら潰し、ボキャッと肋骨と肉を砕きながら心臓に穴をあける。
「お前何やってんの」
「ヴァンパイア流千本ノックよ! ハイ次ぃぃぃ!」
いつもこんな戦い方をしているのかと呆れるアンジェロの隣で、今シーズンもミナは絶好調だ!