11-13 ミナ救出
アンジェロがインドの屋敷の地下室に到着すると、ベッドに拘束されたミナから、途端に緊張感が溢れたのが分かった。時間にしてはそう長時間ではないはずだが、ずっとこんな緊張状態だったのかと思うと、ミナが可哀想だった。
なるべくミナを見ないようにしながら、ミナをシーツで包んで手錠を引き千切って壊した。ミナが体を起こしたので、ベッドの傍にしゃがんだ。
「心配すんな。俺だ」
「アンジェロ? 本当に?」
「あぁ。アイザックは元の体に戻した」
「よかった……!」
ミナはぽろぽろと涙をこぼして、零れた涙がミナを包むシーツにしみ込んでいく。シーツを掴む小さな手にぎゅっと力が入っているのを見ながら、話を続けた。
「ごめんな。俺が憑りつかれたせいで、お前に嫌な思いをさせた」
「アンジェロのせいじゃないよ」
「もっと早く取り戻せていたらよかった。本当にごめん。償いはするから」
「償いなんて……アンジェロは何も悪くないよ」
ミナがそう言ってアンジェロを見つめるので、ミナの涙を拭おうと手を伸ばした。だが、ミナはびくりと震えて、途端に緊張が走ったのが分かった。
アンジェロはミナには触れずに手を引いて、そのまま立ち上がった。失敗したと思ったのか、ミナは慌てた。
「アンジェロ、ゴメン、ゴメン、違うの」
「謝るなよ。お前は何も悪くないだろ。もうすぐ伯爵たちも来るから、ちょっと待ってろ」
なんとか営業スマイルを取り繕って言った瞬間にヴィンセント達が来たので、メリッサとボニーにミナを任せて、アンジェロはすぐに地下室を出た。
地下室の廊下の壁にもたれかかる。ひんやりしていて、背中の熱が奪われていく感覚がした。
(まぁなぁ、嫌われても、しょーがねぇよなぁ……)
そんな事を考えていたら、思いがけず返事が来た。
(別にお姉ちゃんはアンジェロの事を嫌いになったわけじゃないよ)
(おぉ、そうか。北都は残ったんだったな)
(忘れてたの? 心の友なのに、ひどいねぇ)
(ははっ、悪い。別に忘れてたわけじゃねぇけどさ)
ふぅ、と一つ溜息を吐く。
(俺もミナも悪くねぇのはわかってるし、ミナもわかってるってのは、一応理解してるぞ)
(ならいいけど。多分お姉ちゃんにもどうしようもないことだから。時間はかかるかもしれないけど、見守ってあげてよ)
(そのつもり)
(でもなるべく早くね)
(なんでだよ?)
(いつまでもギクシャクされてると、僕はずっとお姉ちゃんの所に戻れない)
(うっ、いや、それはだな……。ほら、他にも方法はあるかもしれねぇだろ?)
(そこは男として、頑張るって言う所じゃない? なんでアンジェロはそうヘタレなんだよ)
(うるせーな! とにかくお前はしばらく俺ん中で我慢しろ!)
(はいはい)
やっと北都が静かになって、やれやれと溜息を吐く。ボニーやメリッサが出たり入ったりして、ミナの身支度を整えている。レオナルドも負傷しているし、しばらくはミナもインドで療養した方がいい。
アンジェロはその間にオーストラリアに行って、アイザックを殺すのだ。ヴィンセント達に、その場に立ち会ってもらう必要はないだろう。
本当はこの戦いが終わったら、ヴィンセント達と離れようと思っていた。ヴィンセントとしても、兄の仇を傍に置きたくはないだろうと思ったのだ。
だが、北都がアンジェロの中にいるとなると、それも出来ない。
それを考えると、自分がアイザックを殺すという選択が正しいのか、少し判断に迷うところだ。
とりあえずインドで少し療養してもらって、その間に北都がミナに移動できる手段を講じて、それからアイザックを殺しに行けばいい。どうせシンプソン砂漠で衰弱しているだろうから、そう遠くへは行けないはずだ。アイザックはいつでも殺せる。
今はそれよりも、ミナが心の傷を癒して明るさを取り戻して、以前のような笑顔になれるかどうか、その事が心配だった。
自分が悪くないことはわかっている。だけど償いをしたかった。北都はアンジェロの力は人を幸せに出来ると言ってくれた。
だから、ミナを幸せにするために、アンジェロはこの能力がどう役に立つのか、廊下に佇んで考えた。