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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
11 インド/無人島編
114/140

11-10 自分に自信を持って


 続いて、アンジェロ達が向かった空間では、雄叫びと地鳴りが響いていた。剣戟、叫び声、血飛沫、馬蹄の音。その世界では数万の人がひしめき合い、戦争をしていた。

 その軍容を見てアンジェロがポツリと言った。


「十字軍とオスマン兵」

「アイザックの記憶を元にしているからね。アイザックもヴィンセントも、この時代の人間だったんだね」


 記憶があるということは、戦争に参加していたのだろう。それが生新世界にあるという事は、この戦争もアイザックを形作るファクターの一つになっているという事だ。

  

 なんとなく戦争の様子を眺めていると、戦争をしていた兵士たちがピタリと動きを止めた。そして、両軍の全員が、アンジェロと北都の方にぞろりと向いた。


「……まさか」

「僕達に戦争をしろってことみたいだ」


 平原を埋め尽くす人、何万人いるかもわからない兵士たちが、一斉にアンジェロ達に向かって行軍を始める。


「うわぁ、マジかよ。コレ全員倒すコース?」

「恐らくね。アンジェロ超能力でぱぱっとやっつけてよ」

「うーん、気が進まねぇけど、やるしかねぇか」


 アンジェロ達は化け物狩り専門なので、人殺しは少し抵抗があるのだ。だが、ここは精神世界。これは人ではなくただの記憶だと言い聞かせて、パイロキネシスを発動しようと、手を出した。だが、うんともすんとも言わない。


「あれ? 火が出ない!」

「なんでこんな時に!」

「わかんねぇ! 精神体だからか!?」

「関係ないよ! 能力は君の一部なんだから、出現するはずだよ!」

「じゃぁなんで出ないんだよ! あーくそ! 銃でやるしかねぇ!」


 アンジェロは迫りくる軍団に銃で応戦している。北都も精神波で作った衝撃波を放ちながら、アンジェロを見て考えた。超能力が出現しない。だが、銃は持っている。弾切れもしない。その状況を見ていて、思いついた。


「アンジェロ、自分が超能力者じゃなかったら良かったのにって、思ってるんじゃないの?」


 人間は自分の持つもの全てが、その人の個性やアイデンティティになる。容姿、名前、育った環境、教養、能力、あらゆるものがその人を形作り、それを自分だと認識する。

 この精神世界で能力が出現しないという事は、アンジェロが能力を自分の一部だと認めていないのだと考えた。


 北都に言われてアンジェロも考えた。思い当たる節は山ほどある。

 君は特別だと、子どもの頃から言われた。様々な人体実験を施され、友人になった「失敗作」が処分される。研究員とジュリアスを恨むしかない、心が壊れそうな日常。

 こんな思いをするなら、特別になんてなりたくなかった。普通の人になりたかった。子どもの頃から、何度そう願ってきたか。


「レミの天才脳は使えた。それはアンジェロがレミを認めてるってこと。だけどアンジェロは自分自身を認めてない。アンジェロ、その能力も、アンジェロの一部なんだよ」

「頭では、わかってる」

「気持ちがついてこないんだね」

「ガキの頃から考えてたせいだな」


 話ながらも兵士たちは攻めてくる。大軍の物量に圧倒され、後退しながらも反撃し、対話を続けた。


「アンジェロは特別なんだよ」

「それは聞き飽きた」

「違う、研究とか世界の為じゃない。僕達にとって特別なんだ。とくにお姉ちゃんにとってはね」

「ミナにとって……」

「お姉ちゃんは、アンジェロと一緒に超能力で家の事してる時、楽しそうだったよ」


 アンジェロの能力に驚いたり、自慢げに自分の能力を見せてくれたり、一緒に家を作ったり、アンジェロの出した蛍のような幻想的な小さな火に見惚れたり、猫になったアンジェロを可愛がったり。ミナはいつも喜んでいた。幸せそうに笑っていた。


「それに、その能力があったから、今までクリス達を守って来れたんだよね?」

「……そうだな」

「アンジェロの能力は、アンジェロを不幸にしたかもしれない。だけど、アンジェロはその力で、人を幸せに出来るし、人を守れる。アンジェロの力は、災厄じゃないよ。もっと自分に自信持って」


 北都が笑ってそう言うので、少し勇気を出してみることにした。確かにこの能力のせいで散々な目に遭ったけれど、この能力を託してくれた人や、仲間たちの想いは大切にしてきたつもりだ。

 だからもう自分を許そう。能力は使う人間次第だ。かつてアンジェロに能力を与えてくれた老人が言っていた。有効に使いなさい、と。アンジェロの能力は人を守れる。人を幸せに出来る。きっとこの戦争の空間だって乗り越えられる。

 もう誰も、不幸にしたりはしない。


 眼前に迫る大軍に、アンジェロは片方の銃を仕舞うと、右手を差し出した。そして指をスクラッチして、パチンと指を鳴らした。

 途端に、迫りくる兵士がぴたりと動きを止めた。巻き上げられた木の葉や粉塵が空中で止まっている。駆ける馬が空中で止まっている。隣の北都が衝撃波を出したまま止まっている。


「出来た……」


 きちんと能力が出現したことに安堵して、アンジェロは北都の肩を叩いた。すると北都は動きを取り戻して、兵士の様子を見て、驚いた顔をしてアンジェロに振り向いた。


「なにこれ! どうなってるの!?」

「急がなきゃいけねーからな。時間を止めた」

「そんなことできんの!?」

「出来てよかったわマジで」


 北都は驚いていたが、安心したように笑って、次はニヤニヤと笑い出した。


「ちょっとは男っぷりが上がったね」

「うるせー」

「あはは、照れてるー。じゃぁ今のうちにやっちゃおう」

「おう」


 時が止まった世界で、アンジェロは容赦なく炎や竜巻を起こし、広域殲滅によって大軍を排除することが出来た。

 

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