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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
11 インド/無人島編
112/140

11-8 静かにして欲しい話し相手


 地下室。


 なんだかわからないが、アイザックがいなくなった。これ幸いとイルファーンに話しかけた。


「ねぇ」

「おう。なんだ、あの男はいねぇのか」

「うん、どっか行った。今回は割と静かな方だったでしょ」

「はっはっは! その調子で頼むわ」


 こんなことを笑い飛ばされても困るが、ミナは一つ息を吐いて、話を続けた。


「イルファーンさん、私達の事恨んでないの?」

「恨んでるに決まってるだろ。ここから出られたら殺してやるからな」

「じゃぁなんで励ましてくれるの?」


 イルファーンはムカつく悪人であるが、ミナは確かに励まされた。恨んでいるはずなのに、なぜミナを応援してくれるのかが分からなかった。

 壁の向こうからは唸るような声が聞こえる。


「なんでってお前、お前がうるさいからなぁ……お陰でこっちは睡眠不足だしよ」

「えぇ、そんな理由? 静かにして欲しかっただけ?」

「そんな理由ってお前、睡眠は人間の3大欲求だぞ」

「そりゃそーだけど……」 


 まさか睡眠の為だとは思わなかった。実はいい人なのかもと期待したのがバカみたいだ。


「それによぉ、前はお前がメシ係だったろ」


 以前ミナ達がこの屋敷に住んでいた時は、ずっとイルファーンの存在を隠していたので、ミナが食事を運んでいたのだ。


「そうだったね。それが?」

「あん時お前、俺の話し相手になってくれただろ」

「うん」

「だからだよ」

「え?」

「こういう環境ではよ、話し相手がいるかいないかで、全然違うもんだ」


 確かにミナはご飯を運んでいた時、イルファーンと色々話していた。最初はイルファーンにも無視されたり、冷たい態度を取られたが、徐々に色々話してくれるようになったのだ。


 それを思い出していたら、唐突に記憶がよみがえった。イルファーンと話していた時、人身売買を何故始めたのかを聞いたことがあった。その時イルファーンが話してくれた。


 イルファーンが40歳代の頃、彼には娘がいた。彼の娘とは思えないほど、美しい娘だった。既にギャングのリーダーだった彼は、別の組織から恨まれていた。そして娘が誘拐され、強姦殺人の上宅配便で遺体が届けられた。

 その後イルファーンはその組織の人間を皆殺しにし、その家族の娘や妹を誘拐して売り飛ばした。これが思いがけず金になったので、味を占めたらしい。


 その宅配便には、娘の遺体とともに、強姦され殺害されるまでの様子を収めたDVDが同梱されていた。


「可哀想で見ていられなかった。娘の悲鳴が、今でも耳について離れない」


 イルファーンはそう語っていた。

 だからミナの悲鳴を聞きたくないのだ。娘を思い出して辛くなるから。そして、孤独な独房でただ一人、自分が生きている時間を感じさせてくれる話し相手が、この状況に負けないように。


「イルファーンさん」

「あぁ?」

「なるべく静かにするように頑張る」

「助かる」

「だから私の話し相手になって」

「俺はそろそろ眠くなってきたんだけどよ」

「もうちょっと付き合ってよ」

「はいはい」


 仕方なしと言った返事だったが、イルファーンの声は笑っていた。それにミナも少し心が軽くなって、イルファーンのいる壁の方に体を向けた。


「ねぇ、私達の話聞いてた」

「大体な。師匠は死んだんだってな」

「……そうみたい」

「俺にしてみりゃ、ザマーミロって感じだけどよ」

「……」

「怒ってんのか」

「怒ってるに決まってんじゃん」

「まぁ許せ。これで心置きなく恋人を殺せるようになったな」

「うん。絶対殺す」

「お前も言ってたけどよ、あの男は本当にイカレてやがるな」

「でしょ? だからささやかな仕返ししてやったの」

「はっはっは! お前が友達の名前呼ぶたびに怒ってたな。あれは良かった」

「あとね、刺客を送ってやったの」

「刺客だぁ?」

「そう。私の中に住んでた、精神攻撃のプロを送り込んでやった。ただでさえイカレてるけど、もっとブッ壊れてアンジェロから追い出されることになる」

「えげつねぇ。はっはっは! そうなったら傑作だ。お前なかなかやるじゃねぇか」

「極悪人の弟子だもん。これでも少しは見習ってるの」

「そうかいそうかい」


 刺客を送った。精神攻撃のプロフェッショナルを。だから後は北都を信じて、解放された時に足手まといにならないように、少しでも心の傷を癒そう。そう考えて、ミナはイルファーンと語り合った。


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