11-6 アヴァリ一家脱出作戦
クリスティアーノとレオナルドはようやくインドに到着した。さすがに息を切らせるクリスティアーノの横で、レオナルドが電話をかけていた。電話の相手はレミだ。
「お、レミ、着いたぜ」
「この携帯電話を衛星回線に改造してよかったって、僕は心から自分を褒めたい」
「は?」
スピーカーフォンにしてから、レミから無人島にいること等の状況を聞いて、クリスティアーノと揃って頭を抱える。
「マジか……そっちはどうするんだ?」
「僕らは多分大丈夫。さっき軍用の小型機が島の上を飛んで行ったから、もうしばらくしたら救助が来ると思う。最初は飛行機のパーツを拝借してボートでも作ろうかと思ったけど、時間がなさそうだから、伯爵に暗示をかけてもらって脱出する予定。多分この辺りはまだ東南アジアだと思うから、そっちに行けるのにはやっぱり時間かかりそう」
「うーん、そっか、わかった」
「そっちの様子はどう?」
レミに尋ねられて、レオナルドは千里眼を発動して、5キロ先のシャンティの屋敷を見た。しばらく視線をさまよわせると、ミナとアンジェロを地下室で見つけた。だが、見たものに驚いて、思わず視線を逸らした。
「ヤバい」
「え! なに!?」
「言えないけどマジでヤバい。マジ急いで来い」
「ちゃんと教えてよ! 全然わかんないんだけど!」
「いや無理。とにかくヤバい。もうとにかく急いで来い」
口にするのも嫌だし、しかも子どものレミに話したくもない。ヴィンセントからは監視を頼まれたが、どう考えても監視したくもないし、それに甘んじていられないのはわかった。
また連絡すると告げて一旦電話を切って、クリスティアーノに状況を伝えて話し合う事にした。
「家の人間は無事なのか?」
「全員2階のそれぞれの部屋にいるみたいだ。全員無事」
「家の奴らはこの状況を知らないのか?」
「いや、多分わかってる。あれがシャンティかな。女が泣きながら祈ってる」
「なるほど……脅迫でもされたか。まぁ普通の奴にはどうしようもないよな」
「状況を見て家の奴らは外に逃がした方がいいかも」
「だな。人質に取られたらたまんねぇからな。アイザックはまだ地下室か?」
「うん。死ねばいいのにマジで」
「千里眼も考え物だな……アイザックが地下にいる内に、あいつら逃がすか」
「だね。どこに集めるか……インド門だな。一目が多くて広い」
「OK。じゃぁ俺が行く」
話がまとまると、クリスティアーノは早速残像と突風を残して消えた。レオナルドが再び電話をかけて、レミが電話に出る頃には、クリスティアーノはシャンティの部屋のバルコニーにいた。
コンコンと窓ガラスを叩く音がして、シャンティは涙に濡れた顔を上げた。窓を見ると金髪の大柄な男が立っていて、口元に人差し指を立てて手招きしている。シャンティは静かに立ち上がって、窓を開けた。
「シャンティか?」
「あぁ、あんたは?」
「俺はクリス。アンジェロの仲間だ。お前達を逃がしに来た」
「ありがとう、クリス。でも、ミナ様を置いていけない」
「心配するな、ミナも助ける」
「本当?」
「勿論。この事を他の奴らに伝えられるか?」
「できる。ちょっと待ってて」
シャンティは社内メールを使って、家の人間にこの事を一斉送信して伝えた。二人で静かに部屋を出て、シャンティに案内してもらいながら、2人ずつインド門まで運ぶことに成功した。
最後にシャンティも連れて出ると、一瞬でインド門に到着したことにシャンティは驚いていたが、クリスティアーノの手を掴んで、涙に濡れた瞳で見上げた。
「お願い、絶対絶対ミナ様を助けてくれ」
「約束する」
クリスティアーノはシャンティを安心させるように微笑むと、残像と突風を残して消えた。それを見送り、シャンティはその場に膝をついて、インド門に灯されている炎に向かって両手を組んだ。
「神様、神様、どうか私の裏切りを許してください。どうかミナ様をお助け下さい」
涙を流しながら祈りを捧げるシャンティの傍で、仲間たちも悲痛な表情で祈りを捧げた。