11-3 私はあなたのものにはならない
ミナの殺害予告を聞いても、アイザックは笑って平然とミナに触れる。嫌悪感に眉を寄せながらも、ミナは耐えた。
「ヴィンセントさん達を、殺したんですか」
「うん、追って来られても迷惑だからね」
「私に恨まれるとは思わなかったんですか」
「思ったよ。だけど、君が僕をどう思っていようが関係ない。僕は君を愛してる」
「イカれてる」
「なんとでも」
抵抗も拒絶もしない。その代り、腸を混ぜ返される様な怒りを忍耐力に変えて、ミナは顔を上げて、アイザックの耳元でささやいた。
「アンジェロ」
ピクリとアイザックが反応したのを見て、もう一度囁く。
「アンジェロ」
「やめろ」
「アンジェロ」
「僕はアンジェロじゃない」
「大好きだよ、アンジェロ」
「アンジェロの名を呼ぶな!」
見下ろして怒鳴りつけるアイザックを、しっとりと睨んだ。
「この体はアンジェロのもの。私はアンジェロに抱かれてるんです。決してあなたじゃな……むぐっ」
「黙れ」
ミナの口を掌で塞いで、アイザックはアンジェロはもう戻ってこないと何度も言った。
ミナはただただ耐えていた。耐えて、そして、その時が来るのを。その時が来た時、一際膨れ上がった嫌悪感を宥めすかしながら、心の中で叫んだ。
(北都、今よ! 行って!)
(うん! わかった!)
アイザックが恍惚の表情でミナを見ている。唾を吐きかけてやりたかったが、相変わらず口を塞がれていて、それすらも出来ない。
「アンジェロはもう戻ってこないよ。この体も君も、僕のものだよ」
せいぜいほざいているがいい。ミナにとっての苦痛も、アイザックにとっての天国も、いずれ終わる時が来る。
ミナはただただ時を待ち、北都を信じて耐え忍んだ。