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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
10 オーストラリア編
104/140

10-14 禁忌を冒してでも守るべきものがある


 慌ててクライドがヴィンセントに駆け寄った。


「おい、ミナの居場所は?」

「インドのようだ」

「シャンティの所か?」

「そうだ」


 クライドは不思議そうに首をかしげた。


「なんでシャンティの所に? 全然知らねぇ土地の方がよくねぇか?」

「ミナの居場所は私にはわかるのだ。私が追跡することなどわかっているはず


。ならば、私が追って来た時に、人質に出来る人間がいた方が逃げやすい」

「クリシュナが、そんな卑怯な手を使うのか?」

「兄様にとってアンジェロは恋敵であるが、復活させてくれた恩人でもあるはずなのだ。だというのに、そのアンジェロを殺そうとするくらいだ。この位の事はするだろう」


 二人の会話に、クリスティアーノが血相を変えて割り込んできた。


「アンジェロを殺すって、どういうことですか!?」

「アンジェロよりも兄様の意識の方が強い。今は眠っているだけのようだが、このまま時が経てば、アンジェロの魂は淘汰され、消滅する」


 ヴィンセントの答えに、クリスティアーノは真っ青になった。それを見て、ヴィンセントはSMARTに命令を下した。


「レミ、最短でインドへ渡れるルートを探れ。それが済んだらジョヴァンニと交代で、随時インドの屋敷を監視しろ」

「「はい!」」

「クリス、水の上は」

「走れます!」

「……そうか。レオ、インドのミナの様子は見えるか?」

「見えます!」

「そ、そうか、よろしい。クリスの方が私達より早い。お前はレオと共に先に行け」

「はい!」

「わかりました!」


 返事をするとすぐにレミとジョヴァンニは仕事に取り掛かり始め、レオナルドの腕を引っ掴んだクリスティアーノは、残像と突風を残して消えた。



 それを見届けて、ヴィンセントが視線を向けたのは、アイザックの体だ。のそり、のそりと起き上って来た、魂の無い体。

 その眼は野獣の様にぎらぎらと輝き、好戦的な表情を浮かべている。吸血鬼の本能、吸血と闘争だけを宿した体だった。


「ヴィンセント、アイザックをどうするの? まさか、殺さないわよね?」


 メリッサが訝るように言うので、ヴィンセントは苦笑交じりに答えた。


「私に兄様を殺せると思うか?」

「いえ、ごめんなさい。無理ね」


 メリッサも苦笑交じりに答えたが、改めて同じ質問をした。ヴィンセントは憐れむような視線をアイザックに向けながら、その質問に答えた。


「兄様の戻る体が必要だからな。殺しはしない。だが、弱らせておく必要はあるな」

「どうするの?」

「こうするしかあるまい」


 そう言ってヴィンセントは襲い掛かって来たアイザックを捕まえると、その首筋に噛みついた。


「ヴィンセント!」


 メリッサが血相を変えて、口元を手で覆いながらその様子をみていた。メリッサの視線の先では、ヴィンセントがアイザックから吸血するに従って、アイザックが力を失っていく。

 それと同時に、ヴィンセントが一口血液を飲み下すごとに、ヴィンセントの体のどこかが石化して、剥落しては再生を繰り返し、彼も苦痛に呻いている。

 

 吸血鬼は、相手が眷愛隷属と始祖の関係という例外を除いて、吸血鬼同士で吸血する事は禁忌である。

 その理由は、移植片対宿主病。所謂拒絶反応だ。吸血鬼の本体と呼べるものは血液だ。血液を触媒に他者の魂を取り込んでエネルギーにしている。

 そこに他の吸血鬼の血液が入ってくると、自分と他者の血液が拮抗し、強烈な免疫反応が起きて、血液や体の細胞が死滅する。だから、吸血鬼は吸血鬼の血液を飲んではいけないのだ。


 アイザックがようやく力を失ってぐったりと倒れこんだ時、ヴィンセントも息を荒げてその場に膝をついた。


「ヴィンセント、どうしてこんな無茶を……」


 慌てて駆け寄ったメリッサの手を借りて、ヴィンセントは何とか立ち上がると、息を荒げつつも、自嘲するように笑った。


「兄様に……酷い事をした。私も、この位の報いは……受けるべきだろう」

「それなら私だって報いを受けるべきだわ」

「ダメだ。お前達では死んでしまう……。私だけで十分だ」

「でも……」


 心配そうに見上げるメリッサにヴィンセントは笑って、親愛を込めて頬にキスを送った。


「これ以上家族を失うことはできない。わかるな?」

「……えぇ、わかっているわ」


 メリッサは諦めたのか、溜息を吐いてヴィンセントにハグをして、ボニーとクライドに指示を出し、弱ったアイザックを拘束して家の壁に磔にした。


 アイザックはこのまま放っておいて大丈夫だろう。砂漠の強烈な日光と、食料が一切手に入らない環境で、更に衰弱するはずだ。


 レミが経路を調べてやってきた。砂漠を横断してアデレードからホバート国際空港へ、そして乗り継いでインドへ。どれほど急いでも29時間はかかるとの事だった。


「やれやれ、仕方がない。私も瞬間移動ではなく、空間転移が出来ればよかったのだがな」

「空間転移できる超能力者を吸血すれば大丈夫よ」

「そうしよう」


 準備のできたヴィンセント達は、ヴィンセントの瞬間移動によって、アデレード空港へ転移した。

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