10-13 コピーキャットのオリジナル
確かめるようにアンジェロの体を動かし、いくつか超能力を試したアイザックは、満足そうに笑った。
「なるほどね。アンジェロは霊能力があると思っていたけど、シャーマンの能力を持っているんだね」
シャーマンの能力は霊体との交信や、憑依や降霊だ。アイザックは一度霊体になっているから、そのやり方を覚えていれば離れることは出来た。
そして、シャーマンの能力を有しているが為に、アンジェロは霊的な感受性が高く憑依しやすかったのだ。
呆然とするミナに、アンジェロに憑依したアイザックが優しく微笑みかけた。
「アンジェロの体に僕の魂。これでミナの元にはどちらも残る。いい考えだと思わない?」
いい考え。それは誰にとってのモノなのだろうか。 少なくともミナにとっては、何一ついい事だとは思えなかった。
「アンジェロから、出てって下さい」
「どうして?」
「だって、その体はアンジェロのものです。クリシュナさんのものじゃない」
心も体も、その人だけのものだ。ただでさえアンジェロ達は、ミナ達と出会うまでに受けてきた扱いは、明らかに人権を奪われたものだった。
だから、これ以上アンジェロから、何も奪わないでほしかった。
「なのにどうして、こんな酷いことをするんですか……」
泣きながら訴えるミナに、アイザックは少し苦笑した。
「アンジェロの事が大事なんだね」
「……はい」
「じゃぁ仕方がないね。たまにはアンジェロの意識も出してあげるよ」
「そう言う問題じゃ……!」
的外れな提案をされたことに、怒りが湧き上がってアイザックに掴みかかった。だが、アイザックはそのままミナを抱きしめて、ヴィンセント達に笑いかけた。
その時、クリスティアーノが飛び出してきた。
「アンジェロから出て行けよ。じゃないと、アンタの体は処分する」
クリスティアーノが横たわっているアイザックの体に剣を向けた。しかし、アイザックが指を振ると、握っていた剣は弾き飛ばされてしまった。それを見てクリスティアーノは顔を歪めてアイザックを睨みつけた。
「その力はアンジェロのモノだ! お前が使うな!」
「何を言っているのかな。この力はコピーしたものだよ? オリジナルじゃないのはお互い様だ」
「コピーしたのはアンジェロだ! アンジェロが今までどんな思いで能力を手に入れてきたか、それを知らない奴が使うなって言ってんだよ!」
敵から能力を奪ったこともあった。だけど、アンジェロが仲間だからと、力を貸してくれた人もいた。死に際に、有効に使う様にと遺言と共に能力を与えてくれた人もいた。
アンジェロの能力はただの力ではない。能力を託した人の想いも託されている。
コピーはオリジナルを超えることはできない。
だが、アンジェロが積み重ねてきたものは、間違いなくアンジェロだけのオリジナルだった。それを土足で踏みにじられたようで、クリスティアーノは許せなかったのだ。
クリスティアーノの言い分を聞いて、アイザックは面倒くさそうにSMART達に視線を巡らせた。
「能力にまつわるストーリーなんて、僕には関係のない話だよ。あぁ、僕の体を処分するんだっけ。殺しきるのに弾が何万発必要になるかはわからないけれど、好きにしたらいいんじゃないかな。僕にはもうこの体があるしね」
「ふざけるな!」
ジョヴァンニが激昂して、アイザックに銃を向けた。それを見てアイザックは笑って言った。
「僕を撃ちたい気持ちはわかるけど、この体を撃つの? いいの? アンジェロが死んじゃうかもしれないよ?」
その言葉を聞いてクリスティアーノもジョヴァンニも葛藤しているのを見て取ったアイザックは、愉快そうにしている。
銃を構えながらも迷っているジョヴァンニの隣に、ヴィンセントが立った。
「兄様、いい加減にしろ。おい、アンジェロ、聞こえているだろう。兄様を追い出せ」
「無理だよ。アンジェロの意識は眠らせて沈めたからね」
「そんなはずはない。アンジェロの体だ。本体が負けるはずがない」
「負けるよ。精神体や霊体は、意志の強い方が勝つんだから」
アイザックは霊体になってまでミナを探し求めていたのだ。それほどの強烈な意志に、アンジェロは勝てずに抑え込まれてしまった。
腕の中から逃れようともがいていたミナに、ヴィンセントが目配せをした。ミナにはその意味が解らなかったが、警戒したアイザックはミナを抱く腕に力を込めた。
「ミナは手に入れた。もうお前達に用はないよ。じゃあね」
アイザックはミナを捕えたまま、アンジェロの空間転移を使い、その場から姿を消した。