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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
1 邂逅編
10/140

1-10 今日は北都の誕生日

 起きてすぐヴィンセントはご飯も食べずに「出かけるぞ。さっさと支度しろ」と突然急かす。慌てて後を追ってマンションから出ようとすると、外はまだ西日が差している。そんな中、ヴィンセントは日の光を浴びながら普通に歩いていく。西日なら大丈夫なのかと、恐る恐る出てみるとジュッと音を立てて手の甲が焦げた。

「あっつ!」

 焼け焦げた手の甲を抑えて、慌てて日陰に入って、サクサク行ってしまうヴィンセントに叫んだ。

「ヴィンセントさーん! 待ってください! 私まだダメです!」

 それを聞いたヴィンセントは足を止めて、あぁそうか、と言って引き返してきた。

「うぅ……ヴィンセントさん、痛いですぅ……」

 日焼け(?)した部分は修復していっているものの回復が遅い。太陽の光はやはり敵だ。空を見ると雲一つない。きっと今日はいい天気だったに違いない。

 ミナはもう光の下で町を散歩することも、公園で鳩に餌をやることもできない。吸血鬼になって得た物も大きいが、失った物の方がはるかに大きい。そのことを今更思い知る。

 傷が完治したと時を同じくして日が沈む。これでやっと出れる。なるほど、正真正銘の「日陰者」だ。薄暗がりをビクビクしながら歩くことしか許されない。なんだってこんなに吸血鬼は、神様に嫌われてしまったのだろう。

 いつものように目的地を告げずにサクサク歩くヴィンセントを一生懸命追いかける。しばらく歩くとコンビニに入っていく。着いて行こうとしたら「待て」を言いつけられて店の外で待った。ヴィンセントはすぐに出てきて、また歩いていく。

 次は雑貨屋に入って、紙袋を買って出てきた。どこに用事があるのか全く分からないが、ミナは本当は行きたい所があった。だけど起きてすぐ出てきてしまったから言い出せなかった。出来るなら今日は実家に帰りたい。それが難しいのもわかっているけど。

 ヴィンセントは駅に向かって、そのまま電車に乗り込む。しばらく電車を走らせてある駅に着くと、ヴィンセントは席を立った。

(あれ、ここ……)

 ヴィンセントを追って電車を降りて、後をついていくと、どんどん見慣れた景色が広がってくる。

「ミナ、インターホンを押せ」

 たどり着いたのはミナの実家。

「ヴィンセントさん、なんで……」

 なんだか泣きそうになってしまった。そんなミナの様子にヴィンセントはクスッと笑った。

「泣き顔で家族に会うのか?」

「いえ、ちゃんと笑顔で会います」

 目に堪った涙をぬぐってそう言って、インターホンを押した。

 実家に帰っただけなのに、なんだか緊張する。トトトと廊下を歩く音が聞こえ、玄関のドアが開かれる。

「はーい、どちら様?」

 そう言って顔を出したのは母のあずまだった。玄関先で驚いた顔を見せるあずまに「ただいま」と笑顔を向けると、満面の笑顔で「おかえり」と迎えてくれた。

「もう! 来るなら連絡してくれたら良かったのに! ヴィンセントさんまでご一緒させちゃって、ごめんなさいね!」

 あずははそう言いつつも、とても嬉しそうにした。

「うふふ。お父さんも北都も、びっくりしちゃうわね!」

 リビングに向かって「素敵なお客様がお見えよ!」と、勿体つけて、あずまがリビングのドアを開けた。

「ただいま!」

「お邪魔致します」

 ヴィンセントと二人でリビングに入ると、父のセイジも北都もとても驚いたが、すぐに笑顔になって駆け寄ってきてくれた。

「お姉ちゃん! お帰り!」

「北都! 会いたかったよ! ただいま!」

 抱きついてきた北都をギュッと抱きしめ返す。

「ミナ、お帰り。ヴィンセントさんもいらっしゃい」

「お父さんただいま!」

「お邪魔しております」

 セイジも優しい笑顔で迎えてくれて、さぁさぁ座ってと恭しく促されてソファに着いた。

「ヴィンセントさんまで付き合ってもらって悪いね! でも、嬉しいよ。ありがとう」

「お姉ちゃん! 今日来てくれるなんて、ぼくすっごく嬉しい! ありがとう!」

 北都はメチャクチャ上機嫌だ。

「ぼくのお祝いに来てくれたんだね!」

 そう。今日は北都の10歳の誕生日。ヴィンセントには言い出せなかったけど、今日は実家に帰りたいと思っていた。偶然にも今日帰れるなんて思わなかった。しかし、まさか今日帰れると思っていなくて、プレゼントを買っていない。

【ミナ、これを北都に渡せ】

 そう言ってヴィンセントは、さっき買った紙袋を差し出す。まさか、と思いながらも受け取った紙袋を「お誕生日おめでとう」と言いながら北都に渡した。

「わぁ! ありがとう!」

 受け取った袋を即座に開ける北都。開けた瞬間、笑顔がさらに満面の笑顔になった。

「わぁ! ぼくが欲しいって言ってたカード! お姉ちゃん覚えてくれてたんだね! こんなにたくさん! ありがとう!」

 北都はよほど嬉しかったのかすぐに紙箱を開けて、カードの袋を破りだした。

【ヴィンセントさん! 私何も言ってないのに! どうしてわかったんですか!?】

 ヴィンセントは寄ったコンビニでカードを箱買いしてくれていたらしい。

【お前は昨夜何度も、北都の誕生日だから帰りたいと考えていたからな】

【あーそっか! 本当にありがとうございます!】

 思考が流れていることを一々忘れるミナだったが、この時ばかりはとても嬉しかった。ヴィンセントは時々怖いけど、こういう時は本当に優しい。

「ミナとヴィンセントさんは仲良しねぇ! 見つめあっちゃって!」

 テレパシーで話をしているときは見つめあってるように見えるようだ。


 みんなで仲良くテーブルを囲んで食卓に着く。もちろんミナとヴィンセントはご飯は食べられないから会話しているだけだけだ。「お姉ちゃんもご飯は血なの?」と北都が聞いてくるが、食卓で血液の話題を出すのはどうだろう。

「あ、うん。まぁその話はまた後でいいじゃない。それより北都、学校やクラブはちゃんと頑張ってる?」

「うん! ぼくちゃんと頑張ってるよ! こないだなんか算数のテスト100点とったんだから!」

 ささっと話題を切り替えると、北都はあっさり乗ってきて、更にはどうだ! と言わんばかりの顔だ。

「北都は偉いのよ。次にミナに会った時に褒めてもらえるようにって、前よりもうんと頑張ってるのよ」

 なんで言っちゃうんだよー! と北都は膨れているが、本当に自慢の弟だ。

「本当に北都は偉いねぇ。北都が頑張ってるのお姉ちゃん嬉しいよ。100点とるなんてすごいね。頑張ったね」

 そう言って頭を撫でると、北都は嬉しそうにエヘヘと笑った。

「ところで、ミナは最近どうしているんだ?」

 セイジが少し赤らめた顔をして、お酒を注ぎたしながら尋ねてきた。

「うーんと、そんなに大したことはやってないけど、家事とたまに修行してる」

 そう言うと、「修行?」とみんなは身を乗り出してくる。

「うん。私、力の制御がまだ下手で、しょっちゅう物を壊したりしちゃうから、上手くコントロールできるようにって、ヴィンセントさんが考えてくれたの」

「ほぉ、修行って具体的には何をしてるんだ?」

 それを聞かれると少々困る。当然の質問だが、悪党征伐をしているなんて言って喜ぶのは北都だけだ。「え、えーっとねー」と返事に困っていると、ヴィンセントが助け船を出してくれた。

「人助けをしてるんですよ。ミナさんは正義感が強く優しい人ですから、修行を始める前からよく困った人を助けていました。その時には、私に迷惑がかかると思ったようで遠慮していたこともあったんです。ですからそれを修行にしてしまえば、人の役に立ちたいというミナさんの思いを無駄にすることはないだろうと思いまして、それを修行として課しました」

 思わずヴィンセントの言葉に感動した。同じ事なのだが、言い方を変えるだけで随分違って聞こえる。勉強になった。

(すごいなヴィンセントさんは。よく口が回るもんだなぁ。私、遠慮なんてしたことないぞ)

 しかし家族はまんまと引っかかる。

「あなたはそこまでミナのことを考えて……ありがとうございます」

「本当に。ヴィンセントさんは素敵な方ね」

「お前いいとこあるじゃん」

 ヴィンセントの株はうなぎ登りだ。


 食事が終わってみんなでリビングで談笑していると、さっきの話をあずまが蒸し返してきた。

「ミナ、さっき北都も言ってたけど、ご飯はちゃんと食べてるの?」

 人間に、しかも家族の前で血を飲んでいるということをあまり話したくなくて、「え、あ、うーん。たまに……」と、目を泳がせながら小さく言うと、あずまは怒ったような顔になった。

「ダメじゃない! 3食ちゃんと食べなきゃ!」

「いや、でも、普通のご飯なら3食食べるよ……私のご飯って血液だし……なんかイヤっていうか……勿論、毎日飲む必要ないっていうのもあるけど……」

 あずまの剣幕に圧倒されながらそう言うと、今度は顔を青ざめさせた。

「血液! ミナ! あなた人を襲うなんてダメじゃない!」

 何を言っても怒られそうな気配だ。。

「私そんなことしてないよ……血は飲んじゃったけど、人は襲ったりなんかしない。それに、ヴィンセントさんも血をくれるし……」

 誰にも迷惑をかけてないと言いたくてそう言ったのに、やっぱり話を真に受け過ぎる母は怒る。

「ミナ! 自分の上司の血を吸うなんてもっとダメじゃない!」

 さすがに言い返すこともできずにシュンとしていると「お母様、ミナさんは何も悪い事などしてはいませんよ」とヴィンセントが優しくフォローに回ってくれた。

「ミナさんは今でも血を飲むことを拒否することがあります。自分が許せないのでしょう。それでも飲まないわけにはいきませんから、普段は輸血用の血液を飲んでいます。それでも、渋々には変わりありませんが。私の血を飲むことも吸血鬼の世界では別段珍しい事ではなく、むしろ必要なことでもあります。ミナさんも、お母様方もそのことに関して気に病むことは何一つございませんので、ご安心ください」

 その言葉を聞いたあずまは、幾分か安心したようだった。本当にヴィンセントには頭が上がらない。

「ねーねーお姉ちゃん」

 北都が身を乗り出してくる。

「血って美味しい?」

 正直、あまり答えたくない質問だ。「え、うん、まぁ」と、適当に返事をすると、北都は驚いたような顔をする。

「でも鉄みたいな味がしてしょっぱくて不味いじゃん!」

「うーん、確かに人間の頃はそうだったんだよね。吸血鬼になったら味覚が変わっちゃうというか、ジュースっぽい……かな」

「人によって味違ったりするの?」

「う、うーん? どうかなぁ……よくわかんないな」

 そんな事を聞いて一体どうするというのか。というより、あまりこっちの世界のことを北都に知ってほしくなくて、適当に答えをはぐらかすと、代わりにヴィンセントが口を開いた。

「人それぞれ健康状態によっても違いますし、血液型によっても味が違いますよ」

 知らなかった。むしろミナの方が興味を惹かれて、ヴィンセントの話に聞き入る。

「ちなみに病気の方や薬物を服用している方の血は、不味くて飲めたものではありません。是非とも人間の皆様には健康でいて欲しい、というのは我々にも共通した願いです」

 ヴィンセントは腕を開いて首を横に振ってみせる。そうなんだ~とみんなでフンフン頷く。

「個人的にはA型の血が好きなのでこの国に滞在しているというのもありますが、最近は輸血用が手に入りますので飢えることも人を襲う必要もありません」

 そう言う理由で日本にいたようだ。

「ていうかヴィンセント、お前何人?」

 ミナもそれは一回聞いて見たい質問だったが、その聞き方はない。間違いなくイラッと来ているであろうヴィンセントは少し考えて「ヨーロッパですよ」と答えた。もちろん、北都は納得しない。

「ヨーロッパのどこ?」

「内緒です」

 にっこり笑って秘密にしてしまったヴィンセントに北都はムッとしてしまった。

「ていうかお前外国人なら、絶対不法入国だろ!」

 そう言われてみればそうだ。今頃気づいた。

「そうでもありませんよ。昔は切符さえ買えば、船でどこへでも行けましたから」

「いつ来たの?」

「日本へ来たのは太平洋戦争の真っただ中でしたね」

「その前はどこ?」

「アメリカですね」

「その当時なら思いっきり不法入国じゃんか!」

「あっ、そうですね」

 結局不法入国していたヴィンセント。ふと疑問に思って尋ねた。

「そういえばヴィンセントさんは、A型が好きだから日本にいるって言ってるけど、そもそも日本に来た理由ってなんですか?」

 日本は吸血鬼には入りにくい国だろうに、わざわざ来るなんて理由があるに違いない。

※一般的な吸血鬼は流れる川や海を踏破することはできません。

 ヴィンセントが過去を探りながら話す。住んでいた家がパールハーバーにあって、真珠湾攻撃の際家を爆撃されたらしい。それで腹が立って戦闘機を拝借し、日本軍に仕返しに来た、と言うのが当初の目的だったようだ。

「ですがあの当時、日本人の国民性は非常に面白かったですね。まるで中世の宗教戦争を見ているようでしたよ」

「なんだかヴィンセントと話してると、社会の勉強になる気がするよ」

 随分長生きしているのだ、ヴィンセントは歩く歴史書だ。

「大義の為に死ぬ事も厭わず、死ぬ事に美学を見つける者が大勢いました。私にとっては衝撃でした」

 ふと「武士道とは死ぬ事と見つけたり」と言う言葉が浮かんだ。北都がヴィンセントを覗き込んだ。

「結局、仕返ししたの?」

「基地を一か所攻撃しましたが、それで満足してその後は普通に暮らしていましたよ。あの頃の日本人は本当に面白かったので、殺すのは惜しいと思いまして」

「なんで?」

 北都が問うと、ヴィンセントはミナに振り向いた。

「ミナさんには以前、化け物が人間に勝つ事は出来ないと話しましたね」

 そういえば、前にそんな話をしていた。

「化け物とは弱い存在です。人間として生きることにも、死ぬ事にも耐えられなかった弱い生き物。自分の野望を果たせないまま、死ぬという事実を受け入れることができなかった。私も含め、自ら吸血鬼という道を選択した者は皆、そういった弱い人間だったのですよ。ですから美しく死ぬ事に意義を見出す人間たちに、少なからず感動を覚えたのです」

 化け物が弱い存在と言った意味が分かった。何だか触れてはいけないことを聞いたようで、申し訳なく思った。

「ヴィンセントさん、無神経な質問してごめんなさい」

「いいえ。大したことではありません。気になさらないでください」

 ヴィンセントはそう言ってくれたが、なんだか落ち着かずにその場の雰囲気はお通夜のようになってしまった。ふと、セイジが口を開いた。

「野望を果たせないまま死ぬとは、ヴィンセントさんは病気か事故だったのですか?」

 驚いた。つくづく永倉一家は無神経だと思った。

(お父さん会社で嫌われてないといいけど……)

 さすがにその質問には「内緒です」と笑って答えた。また微妙な雰囲気。このままではお通夜どころか火葬場だ。

「そういえばね! 私、ヴィンセントさんのおかげでお友達ができたのよ!」

 必死に話題を転換すると、雰囲気を嫌っていたのはみんなも同じだったのか「へぇ! どんな人?」とすぐ話題に乗ってきた。

「あのね、一人はミラーカさんっていう金髪でナイスバディの美女だよ。ヴィンセントさんのお友達なんだけど、いつも私を気遣って会いに来てくれたりするよ!」

 金髪美女にあずまの鼻の下が伸びる。エロおやじ。

「それに、すごく気遣いのできる人で優しくて大好き。お嫁さんにするならああいう人がいいなーみたいな」

「ミラーカはレズですしね」

 突然ヴィンセントが口を挟んだせいで両親が青ざめる。狼狽える両親の隣で北都は「レズってなに?」と頭を悩ませている。

「ちょ! ヴィンセントさん! 余計なこと言わないでくださいよ! ちょ! 私は違うよ! ただの友達だってば!」

 なんだかもう必死だ。

「本当にただの友達だって!」

 力説してなんとかその場は収まった。

「お姉ちゃんレズって何?」

 悪いけど北都は無視だ。

「あと、もう一人お友達ができたんだけど、その人は日本に昔からいる妖怪なんだって! 姫様――誘夜姫っていう人で和風美人だよ」

 両親は「日本にも吸血鬼っていたのねー」と感心している。北都は「だからレズってなんだよ」と、まだ言っていた。

「最初はね、色々誤解があったりしたんだけど和解してからすごく仲良くしてくれて、純粋で情が深くて大好き! しばらく家にお泊りしてたんだよ」

「その間私は女性2人にのけ者扱いされました」

 また口を挟む。さっきから何だというのか。

「ミナ、ヴィンセントさんにお世話になっておきながらのけ者とはなんだ!」

「あなたやっぱり……」

 ほらこうなった。

「もう! ヴィンセントさん勘弁してくださいよ! だからお母さん違うってば! それに私のけ者なんて……」

 あ、と思う。してた。ミナの表情で察したのか「ミナ、お前をそんな薄情で自分勝手な娘に育てた覚えはないぞ!」と、セイジがいよいよ怒りだした。

 ヴィンセントを見ると「ざまぁみろ」と言いたげな顔でニヤニヤしている。さてはさっきの仕返か。

「た、確かにのけ者みたいにしたかもしれないけど……」

 その理由を話したら、帰ってから酷い目に合わされそうだ。

「ヴィンセントさん、ごめんなさい……今度からはヴィンセントさんをのけ者にしたりしません」

 なんだろう、この敗北感。

「ミナ、ヴィンセントさんに失礼なことをするんじゃないぞ!」

 セイジはあれだけミナに男が寄り付くのを嫌っていたのに、なぜそんなにヴィンセントのことを信用しているのか、買収でもされたのか、それとも催眠でもかけられたのかと疑問だ(正解)。

「ヴィンセントさんは仲間外れにされてお辛かったわね。ミナ、愛の形はそれぞれっていうから反対はしないけど、程ほどにね……」

 あずまはミナの話を聞いてないし、もう味方は北都しかいない。

「ぼくヴィンセントのことは嫌いだけど、仲間外れにするとかイジメでしょ。そういうことしちゃだめじゃん」

 北都まで敵に回って、実家なのに居場所がなくなった。結局、謝罪と弁明を繰り返す羽目になってしまった。



 もう時間も遅い。普通の人は活動を停止する時間だ。

「遅くまでお邪魔して申し訳ありませんでした」

 ヴィンセントが頭を下げるので、つられて頭を下げる。

「いやいや! こっちこそこんな時間まで引き留めて申し訳ない! ミナ、わかってるな!?」

 さっきの件で釘を刺された。

「うぅ…わかってるわよぅ」

 チクリやがって、と不貞腐れていると、北都が駆けてきた。

「お姉ちゃん! 今日は来てくれてありがとう!」

 名残惜しそうに、北都が抱き着いてきた。本当のことを言ってしまおうか。北都はどんな顔をするだろう。

「本当はね、ヴィンセントさんが今日北都の誕生日だって聞いて、行こうって言い出したんだよ」

 こっそり耳打ちすると、北都は驚いてぱっとヴィンセントを見るも、すぐに目をそらして「ふーん」と目を泳がせた。素直じゃないなぁと思いつつ、そんな北都も可愛いと思うミナはブラコンかもしれない。

「じゃぁ、帰るね。次はいつになるかわからないけど、また、来るから」

「いつでも遊びに来なさい。ここはお前の家なのだから」

 優しく微笑んでくれる家族に手を振って、実家を後にした。


 帰り道。

「お前北都に喋っただろう」

 やっぱり気付いていたようだ。ヴィンセントの性格とプライドを考えると、言わない方が良かったのかもしれない。

「ごめんなさい。でも……」

 北都にもヴィンセントは優しい人なんだとわかってほしかった。ヴィンセントは小さく溜息を吐いて「まぁ、いい」と言ってサクサク歩く。ヴィンセントにはミナの考えていることはわかっている。もしかして照れ隠しかもしれないと思って、笑って隣まで駆けた。

「ヴィンセントさん、今日は本当にありがとうございました。北都も両親も喜んでくれたし、私も嬉しかったです」

 そう言うと、ヴィンセントは小さく微笑んだ……気がした。

「とりあえず帰ったらお仕置きだな」

 前から思ってはいたが、ヴィンセントは根に持つタイプだ。やっぱり微笑んだように見えたのは気のせいだ。


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