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ウロボロスの消滅と



 僕は小説の中に居る。

 厳密に言えば僕は小説として書かれている。いまこうやって思っていることや、考えていることは、文字として書かれている。


僕→文字


 逆を言えば、文字という形で僕は書かれている。


文字(僕)


 僕という存在が再生されるのは、読者である君が文字を読み、意識をした瞬間である。


文字(僕)→君


 僕は文字を介して自在に動き回ることが出来る。しかしそれは空論でしかなく、実際には動かされている。僕が自分で動かしているつもりになっている事は、基本的に既に文字という

形で存在しているからだ。つまりは僕は決められた文字というルートをたどっているに過ぎない。僕は決して自発的には行動できず、常に受動的に行動をしているのである。

 誰に、させられているか。この文字を書いた者。作者にである。


作者→文字(僕)→君


 *


 ここからややこしくなって行く。

 今僕は作者を見ている。やや狭い六畳間の和室で寝転がりながら彼は必死にキーをタッチし原稿を進めている。


作者→文字(僕が見ている作者)→君


 作者は自らによって僕と同じく書かれている。ディスプレイにはこう写っている「この小説は、読者という侵してはならない神聖の場所を踏み荒らします。了承の上お読みください。(中略)ディスプレイにはこう写っている『(以下略」

 僕の見ている作者もまた僕を書いている。その中の僕が見ている作者もまた僕を書いていて、合わせ鏡のように僕は無限に存在する。


作者→文字(僕が見ている作者→文字(僕が見ている作者→文字(僕が見ている作者(以下略


同時に君という存在も無限に存在し始める。


作者→文字(僕が見ている作者→文字(僕が見ている作者→文字(僕が見ている作者(中略))→君)→君)→君


 おそらく、これを書いている作者の後ろにも僕が居て、それを書いている作者が居て、と続いているのだろう。


以上略)→文字(僕が見ている作者→文字(僕が見ている作者→文字(僕が見ている作者(以下略


 さっきまで僕は作者を見ていた。ということは、作者が存在するということは君もまた存在することを余儀なくされる。

 僕は君を見ている。君は、本(正確には紙)に書かれている文字を目で追っている。


作者→文字(僕が見ている君)→君


これもまた、合わせ鏡のように無限に続く。


作者→文字(文字(文字((中略))→僕が見ている君)→僕が見ている君)→君


 そしてこれもまたおそらく、これを読んできる君の後ろにも僕が居て、それを読んでいる君が居て、と続いているのだろう。


以上略)→僕が見ている君)→僕が見ている君)→僕が見ている君(以下略


 *


 しかしどうだろう。元といえば、僕が見た作者や君は、僕の意識でしかない。よくよく考えれば存在する全ての作者や君は僕の意識から生まれたものであり、僕そのものなのだ。



 しかし、僕は文字であって、作者に書かれたのであって、君に読まれないと再生しないのであって。僕だけでは生まれることも存在し得ることも不可能なのである。


作者→文字(僕)→君


しかし作者や君は僕に見られないと存在しないのであって。


作者⇔文字(僕)⇔君


そして君が居ないと僕は存在せず、作者も存在せず。そして作者が居ないと僕は存在せず、君も存在せず。


……作者⇔文字(僕)⇔君⇔作者……


 *


 僕達は互いに存在を作り出し、互いに生きている。しかし、もう次の段落でこの小説は終わる。必然的に僕は消えて、同時に作者も君も居なくなる。続くのは無のみである。


 


でもこれだけは言える。確かに僕は作者に書かれて、君に見られて存在することが出来る。僕というのはもともと無なのだ。でも書かれ見せられた僕が感じた幾千ともなる感覚だけは僕だと信じることが出来る。

 僕達が感じる感覚だけは、いつまでも残存し消え失せることは無いだろう。







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