6.
「今気付いたけど、龍二来てないんだな」
今頃気付いたのかよ、とリーダーさんに言いたいが、反論したらめんどくさいことになるから、
「そうですね」
無難な答えを返しておく。
「まだ来てないのが、龍二と智葉那か」
ん? 龍二と智葉那は確かにまだ来てないが、上月は……、
「……いますよ」
驚いて後ろを振り返ると、声の主がいた。
そしてありさは、上月を見た途端ガタッ、と音をたてながら立ち上がり、すぐに俺の背に身を潜める。
そこには、小柄な体躯を持つ少女がいつの間にかちょこん、と座っていた。
毎度毎度のことだが……上月は気配が全くないのか、いつも気が付けばそこにいる。
俺はたまにこいつを、幽霊かなんかじゃないのか、と疑うときがある。
それよりリーダーさんは、上月がいることは分かったのに、何故龍二がいることに気づかなかったのだろう。そっちのほうが謎だ。
この小さい少女は、上月奏。身長145センチのチビだが、こんなでも一応同年代だ。
肩に揃えたサラサラの金髪。
深海のような蒼い瞳。
纏っているその雰囲気はまるで、どこかの綺麗な西洋人形を連想させる。
見てわかるだろうが、ありさは上月に対して苦手意識を持っている。
先程述べたように、上月は気が付いたらそこにいる、神出鬼没なやつだ。
それこそお化けのように。
そしてありさは、霊の類いが大嫌いだ。
だから、上月が現れたらいつもビックリして俺の背中に隠れるのだ。
いまみたいに。
「なあ上月」
「……なんですか」
「お前いつからそこにいた?」
「……先程から」
その先程が知りたいんだがな。
「まあいいや、でも本当意外ですよね。龍二がこんなに遅いなんて」
リーダーに話題をふってみる。
本音を言うと、あまりこの人と話したくない。
でもいまは仕方がない。怖がっているありさのため、この空気を打破しなければ。
「そうだなー、遅刻しないのが、あいつの唯一の取り柄だったのに」
いや、龍二の取り柄は他にもあると思うが……、まあいいや。
「ありさ、いま何時だ」
自分で時計を見ればわかることだが、あえてありさに訊く。
「あ、うん。今は8時12分」
「そうか、ありがとう」
なんとか落ち着きを取り戻したありさは、上月を警戒しながら自席に戻る。
念のため言っておくが、ありさは確かに上月が苦手だ。しかし嫌ってはいない。むしろ信頼しているぐらいだ。
無論俺たちも。
上月は一見、何を考えているのかよくわからないやつだ。でも、これだけはわかる。
上月は俺たちのことを、仲間だと思っていてくれているということを。
面と向かって口にされた訳ではない。だがこれまで、共に戦場で戦い抜いたその時間。それがなによりの証だ。
一昔前、俺が孤立していたとき、俺は〈ネブラ〉を倒すために仲間を犠牲にしたことがあった。
……いまでも後悔してる。だがそのときの俺は、後悔するどころか罪の意識さえ持ち合わせていなかった。
そんな俺に真っ先に怒りをぶつけてきたのが、他ならぬ上月だった。
まあ、怒りをぶつけてきた、といっても無言の平手打ちだけだったが。
そんなこともあって、俺は人として少し成長することができた。
仲間というありがたみを知ることができた。
本当に感謝しているよ、上月には。