5.
ありさと話していると、少しずつ生徒の数が増えてきた。
と思っていたら、いきなり教室のドアがバンッ、とでかいおとをたてて開かれる。
「……はあ」
思わずため息が出てしまう。なぜ、この人はこうも目立ちたがりやなのだろうか。
ドアを暴力的に開けた彼女は、俺とありさが視界にはいったらしく、こちらに歩いてくる。
「ようお前ら、おはよう……っと、どうした? 辛気くさい顔しちゃって。朝っぱらそんな顔するなよ、テンション下がるだろうが」
「……すいません」
「……ごめんなさい」
この人にまともに接していたら、たぶん今日1日分の活力を根こそぎ持っていかれるだろうから、いろいろと言いたいことがあるものの、ここは素直に謝っておこう。
ありさも同じことを思ったのだろう。俺と同じようにこれといった不平をもらさず、素直に謝った。
「……? まあいいや」
俺とありさの態度に多少疑問をもったようだが、いつものように深く考えようとせず席につく。
この人は、水無月曄子。見た目は、すごい美人さん。
髪留めでしばっている髪は、赤みがかかった茶髪。
夜を凝縮したような漆黒の瞳。
スタイルは……ものすごい。どれくらいかはさすがにわからないが、出るところは出て、締まるところは締まっているといった感じだろうか。他の女性が見れば、誰もが羨ましがると思われる。
その昔俺は彼女に、ハーフ? と聞いたことがあるが、彼女いわく、純粋な日本人、とのことだ。
彼女が俺達のチームリーダーだ。
「あー眠い。授業サボりたい。帰って寝たい」
あくびをしながら面倒そうに、リーダーらしくないことを仰っているような人だが、紛れもなく、本物のチームリーダーです。
こんなのが? と疑問に思う人いるだろう。かくゆう俺もそうだったのだから。
初めてあった日の俺の第一印象は、がさつな女。
しかし、それはあくまで第一印象だ。
俺は知っている。いや、俺のチームの皆、全員知っている。
この人が、俺達にとって最高の指導者であることを。
かつての俺は、いまよりはるかに冷たい人間だった。
自分は〈ネブラ〉を殲滅するためだけに存在しているのだ、と勝手に決めつけ、それ以外のことを無視してきた。
だから、妹のありさを除いた他の仲間のことも、足手まといにしかならない邪魔なもの、と認識していた。
そのつまらない認識を壊してくれたのが、彼女、水無月曄子だった。
普段はだらだらしていて、頼りない感じがするが、一度その能力を発揮すれば、誰よりも頼れる存在になる。
もう一度言う。この人は、俺の……俺達にとっての最高のリーダーだ。
「あーコーヒー飲みたくなってきた。悠哉買ってきて。勿論、暖かいやつをな」
……自分の語った言葉が、ちょっとだけ信用できなくなった。