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ブラック・レイン  作者: 桐生 彰
プロローグ
1/79

1.

 1997年4月16日、僕のすべてが壊れされた。

 僕の街が、壊された。

 僕の家が、壊された。

 僕の友人が、壊された。

 僕の家族が、壊された。

 すべて壊された。あの悪魔に。黒い雨と共にやって来たあの悪魔に。

 とても冷かった黒い雨は、今はもうやんでいる。

 あるのは、数えきれないほどの瓦礫の山と、おびただしい数の死体。そして、そこらじゅうにある赤黒い血の海。

 たったそれだけ。僕の目に写るものは、ほかにはなにもない。

 僕は何も感じなかった。

 悲しみも感じない。

 怒りも感じない。

 後悔も何も感じない。

 ただ目の前の残酷な現実を、僕という無力な人間に、これでもかと目の前に突き付け、僕を押し潰そうとしているているのだけは、なんとか理解できた。

 少しだけ頭を動かし、周りを見渡す。おそらくないであろう、希望を視ようと。

「……あ」

 思わず声が出た。

 いた。僕の大切な人が。僕にとっての"希望"が。

 僕のたった一人の妹が。僕の目の前に。

 微かだが、胸が動いていることもわかる。

(生きてる!!)

 それが分かった瞬間、身体中に強い意志が宿った。空っぽのコップに、希望という名の水が注がれてくように。

 ズタボロの体で、妹のいるところまで進もうとする。

 だが動かない。足はおろか、指の一本もまともに動いちゃくれない。

 それでも足掻く。妹を──残されたたった一人の家族のもとへ。 

でも無理だった。どんなに気力を込めようとも動かない。

 意識が徐々に遠退いていく……。

 妹を助けたい。でも、体は全く言うことを聞いてくれない……。

 ホントに何も感じなくなってきた……。

 痛みも、疲れもなにもかも……。

 自分に肉体があるのかさえわからなくなる。

 僕もここで死ぬのか?皆と同じように?

 ──それもいいかもしれない。この地獄から抜け出せるなら、なんだっていい。 

(ごめん、ありさ。弱い兄ちゃんでごめんな)

 不甲斐ない自分を──妹一人助けられない自分を呪いながら、少しずつ……目を閉じる

 そして完全に閉じようとしたとき、僕は見た。

 白衣を纏った男が涙を流している姿を。

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