1.
1997年4月16日、僕のすべてが壊れされた。
僕の街が、壊された。
僕の家が、壊された。
僕の友人が、壊された。
僕の家族が、壊された。
すべて壊された。あの悪魔に。黒い雨と共にやって来たあの悪魔に。
とても冷かった黒い雨は、今はもうやんでいる。
あるのは、数えきれないほどの瓦礫の山と、おびただしい数の死体。そして、そこらじゅうにある赤黒い血の海。
たったそれだけ。僕の目に写るものは、ほかにはなにもない。
僕は何も感じなかった。
悲しみも感じない。
怒りも感じない。
後悔も何も感じない。
ただ目の前の残酷な現実を、僕という無力な人間に、これでもかと目の前に突き付け、僕を押し潰そうとしているているのだけは、なんとか理解できた。
少しだけ頭を動かし、周りを見渡す。おそらくないであろう、希望を視ようと。
「……あ」
思わず声が出た。
いた。僕の大切な人が。僕にとっての"希望"が。
僕のたった一人の妹が。僕の目の前に。
微かだが、胸が動いていることもわかる。
(生きてる!!)
それが分かった瞬間、身体中に強い意志が宿った。空っぽのコップに、希望という名の水が注がれてくように。
ズタボロの体で、妹のいるところまで進もうとする。
だが動かない。足はおろか、指の一本もまともに動いちゃくれない。
それでも足掻く。妹を──残されたたった一人の家族のもとへ。
でも無理だった。どんなに気力を込めようとも動かない。
意識が徐々に遠退いていく……。
妹を助けたい。でも、体は全く言うことを聞いてくれない……。
ホントに何も感じなくなってきた……。
痛みも、疲れもなにもかも……。
自分に肉体があるのかさえわからなくなる。
僕もここで死ぬのか?皆と同じように?
──それもいいかもしれない。この地獄から抜け出せるなら、なんだっていい。
(ごめん、ありさ。弱い兄ちゃんでごめんな)
不甲斐ない自分を──妹一人助けられない自分を呪いながら、少しずつ……目を閉じる
そして完全に閉じようとしたとき、僕は見た。
白衣を纏った男が涙を流している姿を。