四人の軌跡 上司編
続き
私は卑怯者だ
君の記憶が乱れてるのを幸いに、君と結婚した
そして…あいつに赦されてしまった
君の親友に赦されてしまった
私は…どう謝ればよいのだ!?
どう懺悔すればよいのだ!?
私は、君に会うまで欲っして手にはいらないものはなかった
親族皆に可愛がられ、されど甘やかされずに育った
全てが努力だとはいわないが、今の全ては自分が掴みとってきたものだ
一流の学歴を残し、今の会社に入った
順調に出世して、将来は社長になることが決まっている
そんな私が唯一手に入れられなかったのが君だった
私が今の役職に就いた年に入社してきたのが、君だった
君は私の部下になった
ともに仕事をする内に引かれていった
君の裏表のない優しい性格と
柔らかい雰囲気に引かれていった
君は私の癒しだった
煩わしい馬鹿どもに荒らされた心が
君に癒された
しかし君はあいつと付き合っていた
君の笑顔があいつに向けられるのに嫉妬した
君があいつといると幸せそうなのに嫉妬した
あいつと私と何が違うのだと嫉妬した
君への思いとあいつへの嫉妬を隠して
私は君の上司であり続けた
君へのさりげないアプローチはあいつへの意趣返しだった
あいつはそれにこたえなかった
君とあいつの絆に嫉妬した
そんなある日、君が通り魔に巻き込まれたのを知った
あいつが刺されたのは知ったが、無視した
私は君の見舞いにいった
君はあいつの記憶を無くしていた
私は、たまたまあいつが刺されたのと同じところを怪我していた
これは私に、神が与えてくれたチャンスだと思った
それから私は毎日見舞いにいった
君はあいつとの思い出を、私との思い出だと記憶を塗り替えた
私は君にプロポーズした
君は受けてくれた
私は幸せだった
ある日、医者の一人が私に怒りをぶつけた
患者の記憶を塗り替えたのに気付かれた
そいつはあいつの担当医だった
私は無視した
私の幸せを邪魔するなと怒りが湧いてきた
君の担当医と、仲が悪かったのが都合がよかった
君の担当医は懐柔しやすかった
あいつの担当医は命を救うのにこだわる頑固者だった
逆だったらとぞっとした
今思えば、嫉妬で私は狂っていた
そして優越感に浸っていた
君があいつと付き合ってるのを知ってるのは、彼女だけだと私はしっていた
彼女がしばらく会いにいけないと君に連絡してきたとき
私はラッキーだと思った
退院してから私と君は繋がった
処女だったことに驚いた
あいつが手を出さなかったことに感謝した
貪るように君を求めた
私は満たされた
今まで満たされてなかったことに気がついた
私は幸せだった
親族皆に結婚することを伝えた
皆に祝われた
君は幸せそうだった
私も幸せだった
着々と結婚式の準備が進んだ
名実共に君を手に入れられることがうれしかった
あいつが退院したことをしった
優越感に満たされた
そして結婚式の日
彼女が現れた
私達の幸せを願われた
君と彼女はしばらく話してた
親友と話す君は輝いていた
彼女が去り
結婚式が終わった後
君に連れられて
彼女の元にいった
彼女と共にあいつがいた
あいつがはじめましてと言ったとき
私は目が覚めた
気付いた時には
私はあいつと彼女と対峙してた
あいつに結婚を祝われた
思わずうらんでないのかと聞いた
うらんでないと返された
なんでだなんでだと私は混乱した
何かを言おうとしても出なかった
沈黙に耐えられなかった
君に呼ばれたのをいいことに、逃げるように去った
あいつらに背中からかけられた声に涙が出た
君にどうしたのと聞かれても答られなかった
それからしばらくのことを覚えていない
意識が覚醒したのは、君が妊娠したのを知った時だ
素直に嬉しかった
彼に赦されて
彼女に赦されたのだから
私は喜んだ
私は、彼と彼女と杯を願わくは交わしたい
君を幸せにすると誓いたい
君から彼女から彼から
奪ってしまったけど
新しい関係をつくりたい
三人が四人になれるように
私は償い
私は動く
赦された私が出来るのは
それくらいだろう
真実は墓場まで持っていく
嘘を真実にかえる
間違えて、過ちを犯してしまった私を
赦してくれた彼らと
愛してくれる君に
報いよう
それが私の贖罪だ