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助け出された時、彼は友人から『さっちゃん』と呼ばれていたので私も『さっちゃん』と呼ぶ事にしよう。
可愛いな男の人でさっちゃん。
しかし、さっちゃんの格好なのだが、ヴィジュアル系…。
ピアスがこめかみ、唇2個。うわっ…舌にもある!!
それに、長めの髪は表面は赤で中は黒、アクセサリーも結構ゴッテリ。
黙って眺められたら怖い訳ですよ。
他のお友達もタトゥー入ってたりしてるけど、ここまで派手じゃないよ!
正直、この姿じゃなければ到底近づく事はおろか目すら合せないだろうと思う。
だって、普通に怖いもん。
だけど、私を撫でる手が他の人より優しい。それに笑顔も…。
それに、このまま放り出されて食べ物もなく彷徨うのも、さっちゃんに縋るのとでは訳が違う!
迷惑を承知で私はさっちゃんにしがみ付いた。
「ずいぶん懐かれたなぁ~。さっちゃんの家で飼っちゃえば?」
「猫は大好きだけどなぁ~」
思い切りしがみ付きながらもスリつく私をさっちゃんは微笑みながら見つめる。
「飼い主が見つかるまで預かろうかな。野良ならここまで人にジャレつかないだろうし、多分飼い猫だろ」
そのままさっちゃんは友達と別れ私を抱っこしたまま自宅へ向かった。
私の想像では、バンドをしている人達の家は木造で部屋が汚くてバイトに明け暮れてるイメージが強かったのだが…。
さっちゃんの家は綺麗なマンションの2LDK。偏見もってゴメンナサイ。
しかも、部屋の中は整理整頓までされている。
仕事が終わったら趣味でバンドをやっているのだとしても、その格好はないだろうし。うん、深い事は考えないでおこう。お世話になる身だしその内わかるだろうしね♪
キッチンでご飯を作っているさっちゃんの邪魔にならないように座りながら様子を眺めているのだが、私…大事な事に気づいてしまいました。
猫のご飯って、カリカリだよね。あと猫缶…。
それにトイレって砂だよねぇ?
………ワタシ無理デス………。
カリカリと猫缶は、まだ根性で食べれない事もないがトイレだけは無理!!
だって、男の人に自分のトイレしてる様をみられるなんて!
猫の姿だから何とも思われなくても、私の精神が崩壊するわ!!
それに考えないようにしてたけど、この姿もいつまで?一生戻らないかもしれない!!
考えていたら不安が広がって、自分ではどうしようもないくらいに体が震えていた。
それに気が付いたさっちゃんが頭を優しく撫でてくれた。
「どうした?」
心配そうな目で私を見る。
抱っこされひたすら優しく撫でられる手に安心しながら震えは収まっていく。
他人の手がここまで安心出来る物だと思わなかった。
優しくソファーの上に私を降ろしたさっちゃんはまたキッチンに戻っていく。
その後姿をみながら、胸がキュウと締め付けられた。
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