『次の人』
離婚届に判を押した日。
沙織は涙を流さなかった。
鏡の前で口紅を塗り直し、小さく笑う。
「次は失敗しない。」
彼女が欲しかったのは恋ではない。
「お金や生活で困りたくない。普通の家族がほしい。」
それだけだった。
だから次の相手は慎重に選んだ。
優しい人。 安定した仕事。 家族思い。 できれば持ち家。
恋愛感情より、条件が先だった。
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半年後。
取引先で出会った男性、修平。
穏やかで、誠実で、人当たりがいい。
彼は離婚経験があり、一人で暮らしていた。
沙織は計算した。
「この人なら再婚相手にちょうどいい。」
偶然を装って連絡を取り、彼の趣味を調べ、好きな店を覚え、彼の前では聞き上手を演じた。
修平は少しずつ心を開いていく。
「沙織さんといると落ち着く。」
その言葉に、沙織は心の中だけで微笑んだ。
「順調。順調。」
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だが、修平には過去の離婚で学んだことがあった。
「言葉より行動を見る。」
どれだけ優しくされても、相手が店員や家族、困っている人にどう接するかをさり気なく見ていた。
ある日、沙織は予約した店がダブルブッキングで満席だったことに腹を立て、対応した店員に険しく冷たい態度を取った。
修平は何も言わなかった。
沙織の姿を静かに見ていた。
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数週間後。
沙織は切り出した。
「私、将来は再婚したいな。」
修平は少し間を置いて答えた。
「僕も、そう思える人がいたらしたい。」
「じゃあ……」
期待に満ちた視線を向ける沙織に、修平は穏やかな表情のまま続けた。
「相手の条件じゃなく、一緒に歳を重ねたいと思える人がいたらね。」
その一言で、沙織は、自分が見透かされていることに気づいた。
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恋愛は、相手を手に入れるための駆け引きだけでは長く続かない。
条件で近づけば、条件で離れることもある。
再婚を望むこと自体は悪いことではない。
けれど、誰かを標的として見ている限り、本当の意味で相手との信頼を築き上げていくのは難しいのだろう。




