CASE9 錬金術師としての心構え
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ルチナがルドルフに弟子入してから約2ヶ月がたった頃…
「ルドルフさん、いつものお薬ください!」
「ああ、あれだね。ちょっと待っていてくれ」
便利屋にやってきた少女に応対すると、ルドルフは棚の中からある薬品を取り出し、手渡す。
「では200コールになるよ」
「はい、いつもありがとうございます!」
「お安い御用だよ、また来てね」
ルドルフは薬を受け取って駆け出す少女を小さく手を振って見送る。
「先生、あの子は?」
「ああ、あの子はうちの常連でね、病気の母親のために定期的に薬を買いに来るんだ」
ルドルフが棚を探りながらルチナに説明をする。
「ふむ、薬が切れてる、さて、材料は…切らしているか」
ルドルフが材料の入ったコンテナを探るも、少女に渡した薬を作るのに必要なものがないことに気づく。
「よし、わたしは採取へ行ってくるよ。場所は北に数キロいったところのドゥンスト湖畔だ」
「それじゃ、あたしもいきますね、採取の経験もつまないと」
「よし、では準備を始めよう、なるべく早く頼むよ」
ルドルフとルチナは準備を済ませ、村から北へ数キロ進んだ先にあるドゥンスト湖畔へ向かった。
「よし、たどり着いたね」
「くしゅん!寒いですね…」
ルドルフたちがたどり着いたのは、冷たい風が吹き、木々が生い茂り、水底がよく見えるほどに澄んだ湖がある湖畔だった。
「ここには一本だけ、銀色の葉を生やす、「シロガネ樹」があって、それがあの薬の素材になるんだ。たしか…あのあたりだったかな」
「あ、はい!置いてかないでください!」
ルドルフは木々が深く生い茂る森へ向かっていき、ルチナとマリーがついていく。森の中には青々とした葉をつけた木々が立ち並んでいる。
「…んむう…なんか気になるな」
「どうかしましたか先生?」
地面や木々を見ながら考え込むルドルフを見てルチナが声をかける。
「あ、ああ、なんだか、素材になる草や木の実とかがかなり減ってるように見えてね。草を乱雑に引きちぎったようなやつや、質が悪かったであろうものを地面に叩きつけて潰したような跡もあったりで…なんだか気になってね」
「い、言われてみると…」
素材の多い少ないはわからなかったものの、乱雑に引きちぎられた草、岩に叩きつけられて潰された木ノ実に虫が集っている様子はルチナにもよく見えた。
「たぶんマナーのよくない錬金術師の仕業なんだろうけども…それはそうと、この木だよ」
ルドルフが足を止めると、目の前には銀色に輝く不思議な葉をつけた大樹があった。
「この木だな」
「よし、では登ってたくさんとってきますね!」
ルチナは軽く伸びをして気にしがみついた。
「待て!!」
「ぴゃい!?」
ルドルフがきに登ろうとしたルチナを制止した。いつにないルドルフの様子に思わずルチナはすくみ上がる。
「ど、どうしました?」
「たくさん取る必要ないんだ。ひと瓶に使うのが3枚ほど。次回分やほかの用途も考えるとして…10枚もあれば多いくらいだな」
「で、でも、いっぱいとっておけば、また何度も取りに行かなくて済むんじゃ…」
ルチナが言うと、ルドルフは少し険しい表情になる。
「これを必要としている人は僕たちが知らないところにもいるからね。そういった人たちにも渡るようにしないと。なんでも取り放題というわけにはいかないんだよ、ルチナ君」
ルドルフはルチナの目を見つめ、懇々と説いた。
「は、はい!わかりました!」
「ああ、ならいいんだよ。では、取ってきてもらえるかな?」
「任せてください!」
ルチナは大樹を登っていき、その手に葉を10枚ほど抱え、大樹から降りていった。
「ふむ、よくやったね、さて、ここの湖畔には水辺でとれる素材も多くとれるんだ。帰る前に採取しておこうか」
ルチナが銀の葉を採ってきたのを確認したルドルフはそう切り出した。
「水辺というと、お魚や貝とかですか?」
「まあ、そうなるね。あとは水草だったり、水質によっては水そのものが素材になるね。ということで、きみにはこれをあげるよ」
ルドルフは籠からあるものを取り出した。
「ええと、これはただの釣り竿…とかじゃあないですよね?」
ルドルフがルチナに手渡したのは、竹を切り出した棒に糸と針を取り付けた、わかりやすい釣り竿であった。
「一見そう見えるだろう?糸も竿も針も、錬金術で手を加えたものだからね、そこいらの釣り竿よりはよほど丈夫で使いやすくなっているはずさ、この糸は丈夫な糸を吐くハガネグモの糸から作られたものであってね…」
「つ、つまり、釣りやすいとかは…」
「ああ、それは使い手の腕と、餌次第だね…」
つまりは丈夫ではあるが、普通の釣り竿だった。一瞬微妙な感じの空気になってしまう。
「そ、そうなんですね…それと餌は」
「調合した練り餌がある。これを針につけて、水に垂らせば…」
ルドルフとルチナは釣り針を垂らしその場で待ち構えるも…
「…こないなあ」
「きませんね…」
数分、十数分待とうとも釣れる気配がない。
「おかしいな…ここは水産資源が豊富でいつもは入れ食いのはずなんだがなあ…」
「きゅむう」
ルドルフは訝しげにする。マリーもいつもと何がが違うと感じているようだ。
「よ、ようやく、引っかかったみたいです!な、なんか重いような…」
ルチナの竿に何かがかかった。引きからするとなかなかの大物のようだ。ルチナはなんとかつり上げようとする。
「つ、つりあげ…わきゃ〜!」
「あらあら、これは」
「きゅむ…」
なんとかルチナが釣り上げたもの。それは黒光りする大きな…長ぐつだった。
「誰だこんなところに捨てたのは…」
「ほんと、ゴミはきちんと持ち帰ってほしいですよねえ」
湖にゴミを捨てた不届きな者がいることに嘆くルドルフに同意するようなことを言いながらルチナが釣り上げた長ぐつを湖に投げ捨てようとする。
「待て待て待て!そう言いながら投げ捨てようとしないの。ゴミはちゃんとした場所に捨てなきゃ…」
ルドルフがルチナの腕を掴み制止する。
「あう、すみません…」
「わかればよろしい。さて、続けるとしようか」
ルドルフたちは釣りを再開した。こうして2時間ほどたったころ…。
「やはりあまり釣れないか…いつもはこんなもんじゃないんだがなあ」
「それに、やはりゴミとかも多いですね…」
長ぐつやバケツ、破れた網などといったゴミがいくつも釣れる一方、魚などはあまり釣れておらず、ルドルフたちのバケツには2匹ほどが寂しく泳いでいた。
「先生の餌とかが悪いとかじゃないですか…」
「きゅむ!きゅむ!」
ルチナにたいしてはマリーが抗議するかのように詰め寄る。
「そのセンもないとは言い切れないけども、どうしたものかなあ…」
「きゅむきゅむ!」
考え込むようなルドルフに、マリーが何か言いたげにする。
「マリー、これで伝えるように…」
ルドルフはマリーに向けて文字表を掲げる。マリーは文字表の文字を指さし、意思疎通を図る。
「その手があったんですね…。それで、マリーちゃんはなんて言ってます?」
「あ、ああ… "なんだかいつもとちがうとおもうなら、マリーがもぐってみてくるよ!" だってさ…」
ルドルフがマリーの指した文字を読み上げると、マリーはにまっと笑みを浮かべ、頷く。
「よし、飛び込むならこれを飲んで。水中でも呼吸が続くようになるよ」
「んくっ…わわわ!口の中がしゅわしゅわに〜!」
「きゅむむ〜!」
ルドルフは青い錠剤を手渡す。口に含むと、口いっぱいに酸味と甘味を含んだ泡が溢れる。
「んしゅわ…よし、飛び込むよ、泳げるよね、ルチナくん?」
「ええ!得意です!」
「きゅむ!」
ルドルフが飛び込むと、それに続きルチナとマリーも湖に飛び込んだ。
「んむ…こりゃひどいね…」
「きゅむ…」
湖の底には破れた網の残骸や、長ぐつなどといったゴミが散乱していた。マリーは手に持てるだけのゴミを拾い集める。
「これじゃあ入れ食いにもならないわけだ…何があったんだ」
湖の底には死んだ魚が散らばっており、生きた魚は疎らにしか見えていなかった。
「ゴミといい、魚の死骸といい…。人為的なものだろうか」
「捕まえるのに使った網とかを捨てて、余ったお魚を捨てちゃったとか…ですかね」
岸に上がったルドルフたちが回収したゴミなどを見つめ、考えをまとめる。
「そんなところだろうな。しかし、放置するわけにはいかないが…」
ルドルフがそういった時、後方からガラの悪い男たちの集団の声がした。
「さて、今日も素材を取りまくるかな」
「ここはいいものがよく手にはいるからなあ!」
「なんだあ、先客か?ってあいつらも錬金術師か?」
いかにも、という集団であり、ルチナはこいつらが乱獲をしたりゴミを捨てたりして湖畔を荒らした奴らだと確信した。
「あの人たちが…!なんか言ってやらなきゃ!」
憤慨したルチナが抗議をしに行こうとした時だった。
「おいお前ら、怪我したくなけりゃ、ここでとった素材全部置いていきな」
ガラの悪い集団がルドルフたちに向け、短刀や爆弾を向ける。
「まず聞かせてもらう。この湖畔にゴミを捨てたり素材似なるものを無闇矢鱈に採取して荒らしたのはお前たちか?」
ルドルフが鋭い目を向け問いかけるちむ、男は腹を抱えて笑い出した。
「ははは、何いきがってんだこの状況でぐお、おおお!?」
ルドルフが男の頭を両手で掴み、ギリギリと捻り始める。首が捻れていく痛みが男に襲いかかる。
「首が180°回る前に答えろ、この湖畔にゴミを捨てたり素材似なるものを無闇矢鱈に採取して荒らしたのはお前たちか?」
ルドルフの手の力が徐々に加わっていき、男の脳裏に首が真逆を向いた自分の姿が浮かぶ。
「い、言います!言いますからぁ!」
男が言うと、ルドルフは頭から手を離した。
「ここいらの素材取り尽くして、高く売りさばいて儲けようと思いまして…ゴミは…壊れたから捨てました…」
完全に怯えた男たちが言ったのは、聞くに堪えない低俗な答えであった。
「そうか、そのために僕達からも素材を巻き上げようとしたのか。では…」
ルドルフの手が赤く光り、熱を帯びていく。禍々しいほどの魔力と熱をを帯びるルドルフを目にし、男たちはたじろぐ。
「うっ、なんだこいつぅ!」
「こんなやべえやつがいたなんて!」
「もうここにはこねえよ!」
男たちはルドルフの気迫に押され、尻尾を巻いて逃げていった。
「まったく、不届きな奴らもいたもんだ。さて、帰るよ」
「は、はい!」
「きゅむ!」
ルドルフはルチナとマリーに声をかけ、湖畔を後にした。そんな様子を木陰から見つめる影が…
「便利屋ゼルトザーム社長、ルドルフ…あの力、利用できそうね…ふふ…でも今は、まだ…」
さて、どうでしたか?




