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不思議の王国の奇妙な錬金術師  作者: えのころ
vol.1 便利屋ゼルトザームの事件簿
8/9

CASE8 錬金術師は在りし日の夢を見るか

1週間ぶり投稿となります。


…またあの頃の…忌々しい…


見覚えのある部屋、見覚えのある人物たち…そして…


「今回の課題もS判定だ!君はアカデミー始まって以来の才人だ!ルドルフ君…」

「…そりゃどうも」


 見知ったあの頃の…自分自身…


 アカデミー始まって以来の優秀な生徒だと言われていたルドルフ。錬金術、魔法術…。ほかの生徒を凌駕していた。しかし、彼に向けられる目線は冷たいものだった。


「ッ…いろいろされてきたけど、流石にこりゃないでしょ…」


 ルドルフは自分の鞄が校庭の噴水に投げ捨てられてるのを見つけた。ふと周りを見てみると、同じクラスの「万年2位」とその取り巻きたちがニヤニヤと笑っている。ルドルフは声をかけようとした「万年2位」を無視し、噴水のもとへ向かう。


「教科書ずぶぬれ…しかもペンまで折られて…なんだよもう…」


 ルドルフは惨めな気持ちになりながらも鞄とぶちまけられた中身を回収するために噴水に入っていく。噴水似投げ込まれた行為そのものより、あんな奴らにつけこまれる隙を作った自分に腹をたてながら回収をしていると…


「わわ…こりゃひどいね…。手伝ってあげるよっ」


 不意に声をかけられた。後ろを振り返ると、緑がかった青い色のふわっとした肩までの長さの髪を生やし、を泥がついたクロークを纏った女生徒がいた。年はルドルフより1.2つくらい年上といったところだろうか。


「…いや、いいですから僕に関わらないで…ってもう入ってる!?」


 女生徒はルドルフの返答を聞くことなく、噴水に入り、ルドルフの私物を集めていく。結局、二人がかりですべて拾い上げた。


「あ、ありがとうございます…」

「いいんだよいいんだよ、困ってる人を助けるのは大切なことでしょ?」


 ルドルフは礼を言いつつ噴水から引き上げたものを見る。鞄は乾かせばいいが、ペンは何本か折られており、ノートやテキストは濡れており、使えそうにない。


「そのテキスト、1年生のやつだよね?あたしも同じものあるし…あたしのあげようか?」

「は、はぁ…ということは僕より上級生?」

「えへ…1年生を2年やりつつ、ようやく進級できたんだ…」


 女生徒は上級生にして留年生だったことを告げた。


「え、ええ…す、すみません」

「えへ、明日ここに来てよ、ええと…なんて呼べばいいかな」

「ルドルフといいます」


 女生徒に対して、ルドルフが簡潔に自分の名前だけを伝える。


「それじゃあルドちゃん、でいいかな?」

「よくないです、距離感を測ってください…」


 ぐいぐいと距離を近づけていく女生徒にルドルフは困惑するしかなかった。


「あたしは※※※※!よろしーー」


 突然ルドルフの耳にノイズが走ったように声が途切れたと思うと、そのまま目の前が真っ暗になった…




「!!」


 目が覚めると、そこは見知った自室だった。太陽はまだ昇らない薄暗い空間をガラスのランプが照らしている。シーツは嫌な汗でまみれており、隣にはマリーがすぅすぅと寝息を立てて眠っている…。


「あの時の…まったく、嫌な夢だったよ…嫌な…」


 再び眠ろうとするも寝付けず、ルドルフはマリーを起こさないようにそっと寝床から離れていった。




日が昇った頃…


「んへえ…ねむっ」


 目覚めたセリアが自室からオフィスへ向かう。すると… 


「…あ、ああ、来たか、セリア専務」

「あ、ああ…また、なの?」


 オフィスではルドルフが書類仕事を黙々とこなしていた。セリアは気づいていた、こういうときルドルフは眠らずに徹夜していたか、なにかあって眠れずにいて時間をつぶしていたか…


「あー、眠れなかったの?大変だね、お兄様」

「仕事中は社長とよぶように…別にいいんだけども…」


 ルドルフが寝不足ぎみなのを察したセリアはルドルフの前に向かう。


「まったくもう、それじゃ、何日か前に城下町で見かけた安眠の魔術を…」


 セリアがモノクルを光らせながら、懐から糸を結わえた穴あき硬貨を取り出す。


「これをよーくみて…」  

「……」


 ルドルフは怪訝そうにセリアの言うとおりにする。


「お兄様はだんだん眠くなーる…眠くなーる…社長の座をあたしに明け渡したくなーる…眠くなーる…」

「…」  



 セリアは硬貨を左右に振り子のように揺らしながら囁く。ルドルフの目が可哀想なものをみる目にかわっていく。


「セリア、一つ聞いていいかな?」

「なーに、お兄様?」


 セリアは硬貨を振る手を止める。ルドルフはセリアの目をじっと見る。


「それ、どこでどうやって知ったかな?」

「城下町で、なんか実演してた。んで、催眠術に使えるっていわれて買ったの」


 ルドルフは頭を抱えた。


「いくらしたの?あと、途中社長の座を譲りますように、とか言わなかった?」

「5000コール」


 50コール硬貨に糸を結びつけて5000コール…なんてアコギな商売だ、とルドルフは思い、こんなことに引っかかるセリアを情けなくも思った。そして後半の質問にかんしては口を閉ざしている。


「お前というやつは…」


 ルドルフが呆れ顔で書類仕事を再開した。表情はどこか張り詰めたものが和らいだように見える。セリアはそれを見て微笑む。


「んと、今月の納品は…」


 ルドルフが書類仕事をしていると、オフィスの戸が叩かれる音が響いた。


「はい、どなた?」


 ルドルフがドアを開け、出迎えると、そこには作業着を着た体格のいい若い鉱夫が立っていた。


「どうしましたか?発破用の爆弾ですか?先週納品した分では足りなかったとか…?」 

「い、いえ、爆弾は足りているのですが…」

「詳しくはあちらで聞きましょう」


 ルドルフは鉱夫を応接室へ案内した。


「実を言いますと、最近鉱山で無許可での盗掘を行なっている輩がいまして…」

「なるほど、それはお困りでしょう…」


 シュタール村にある大きな鉱山、シュタール鉱山では資源となる多種多様な鉱石が採れる、シュタール村において大きな利益を生み出す産業となっている。それが最近何者かが無許可で採掘されており、商売あがったり…ということだ。


「盗掘をしている人間の目星はついていますか?」

「いえ…それがつかなくて。それに、止めに入った鉱夫が何人もケガを負わされ…今はわずかな人員しかおらず、困っています」


 鉱夫が語ったのは切実な事情であった。


「つまり、盗掘者をなんとかする。わかりました、引き受けましょう。村のためです」

「ええ、助かります…」

「では、準備ができ次第鉱山へ向かいましょう」 


 依頼を引き受けたルドルフは籠に食料や薬、爆弾などを詰めると、セリアたちとともにシュタール鉱山へ向かっていった。


「これは…」


鉱山内の鉱夫の詰所に入ったルドルフはその光景に思わず絶句する。


「いてぇよう…」

「早く治してカカァと子供を安心させないと…ぐぅ…」

「無理に動いては行けませんよ…さあ、包帯を換えますよ」


 詰所内には、盗掘者に襲われた鉱夫が横たわり、数人の町医者が手当てをする。そんな光景だった。


「死者は出ていませんが、動ける人員はほんの数人。仕事にならなくなっていますよ」


 ため息交じりに鉱夫は言う。目の下のクマや充血した目が疲労を物語っている。


「ええ、力になりますよ。それまでは私は治療を手伝いましょう、マリー、いくよ」

「きゅむ!」


 ルドルフとマリーは薬を持って、鉱夫たちの治療をはじめた。


「あたしとルカスくんは鉱山を入り口で張り込んでいますね」

「ええ!任せてよ、コンコン…」


 セリアとルカスは鉱山の入り口付近に張り込んだ。手にはパンとミルクを持っている。こうして待つこと数時間…


「やー、今日も鉱石いただいちゃいますかー!」

「邪魔するやつはたたんじまえばいいからなあ!」

「で、でもそろそろ兵隊とかにバレないですかね…」

「そうなったら…流石にやばいよなあ」


 4人の見るからにガラの悪そうなチンピラ風の男たちがツルハシや爆弾などを持って鉱山内に現れた。まさに盗掘者といった雰囲気である。


「やつらだね、バカはわかりやすくていいや。ルカスくん、いつもの変身を」

「わかったよ!どろんっ」


 セリアの支持を受け、ルカスは変身術を唱えた。銀毛で胴長の狐は、銀髪でロングスカートの狐耳と尻尾を生やした美少女メイドに早変わりした。


「別にこんなにかわいくなくてもいいけど、まあいいや。まずはっと」


 セリアは懐から深緑色の小さな玉を取り出すと、盗掘者たちの足元に放り投げた。


パアアアアン!!!


 盗掘者たちの足元に落ちた玉が弾けると、耳を劈くような破裂音が鉱山内にこだました。


「な、なんだあ!?」

「お、落ち着けぇ!音だけだ!」


 盗掘者たちが狼狽えている間に、セリアとルカスが矢のような速さで飛び出す。


「盗掘者さん、いらっしゃ〜い」

「ひ、ひえんっ」


 セリアは飄々とした口調で出迎えると、かまいたちを纏った指で一人の両肘と脇腹を一瞬にして射抜いた。


「がはっ…」


 射抜かれた男は鮮血を噴き出し、その場に倒れ込む。


「あれは緋燕だ!便利屋だ!」

「ちいぃ、やっかいなのに目をつけられ…うわあああ!?」


 盗掘者たちが色めきだった瞬間。物陰から銀髪をなびかせたルカスが飛び出す。


「お仕置きの時間ですよ〜」

「んぎょええ!!」


 張り付いたような笑顔をしたルカスが下っ端風の男の金的を目掛け強烈なトゥキックを放つ。硬そうな靴の爪先が男の急所を打ち抜いた。下っ端風の男は泡を吹いて倒れ込む。


「は、早い…」

「ビビリちらしてんじゃねえ!やるぞ!」

「お、おう…!」


 流れるような速さで2人の射程をを倒された2人の兄貴分はそれぞれ短ドスと長剣を抜き、セリアににじり寄る。


「だが、俺たちはあの二人とは違うぞ!血ぃぶちまけとけやあ!」


 兄貴分の一人が短ドスを構えセリアに向かって飛び出していく。刃先はセリアの心臓を正確に狙い定めている。


「あらあら、さっきまでの奴らとはまるで違うねえ」


 セリアは右足に力を込め強烈な横っ跳びでかわし、ドスが空を切る。


「余裕こいてんじゃねえぞ緋燕!」

「!隙をつかれた…」


 兄貴分の片割れ、長剣の男が横っ跳びをした隙をつき、セリアに袈裟斬りを食らわせる。セリアは後ろにかわそうとするも左肩から右脇腹にかけて薄く斬りつけられてしまう。


「いちち…油断しちゃったかなぁ…魔法術を練る暇もなかったよ、流石に一味違ったよ、でも…」


 セリアが二人の後方を見つめる。その瞬間だった。


「なんだ?なにがあるってんだ?」

「なにが…ぐあああああ!?」


 短ドスの男が突如燃え上がった。短ドスの男は火達磨になり、のたうち回る。


「あたしたちからしたら誤差の範疇なんだよね。にしても遅くない?社長」

「爆発音が鳴ったから来てみれば、すでにここまでやられてた…君の仕事が早かっただけだよ、セリア専務」


 遅れてやってきたルドルフの魔法術により短ドスの男はプスプスと煙をあげ、ピクピクと力なく動く黒く焦げた肉塊となった。


「さて、この状況でどうにかできるとは思えないけど…」 

「さっきのも虚をつかれただけ、たしかに痛いけども…」

「さて、お前はどうする?降伏か?死か?」


 ルカスが長ドスの男を羽交い締めにし、セリアが指に纏ったかまいたち、ルドルフが火の玉を浮かせにじり寄る。男の脳裏に凄惨な死の情景が浮かぶ。


「言います、言いますから!」


 こうして、戦意を失った男はあえなく降伏、駆けつけた王家直属I&Sのチェルシーによって連行されることとなった。


「いやはやありがとうございます!盗掘者をやっつけただけではなく、治療まで…」

「いえいえ、これも仕事ですから」


 ルドルフに依頼をした鉱夫が深々と頭を下げる。ルドルフはどこか照れくさそうにしている。


「では仕事料を。またお願いしますね」

「ええ、ではまた何かあれば」


 銀貨の入った袋と、いくつかの鉱石を受け取ったルドルフはセリアやルカス、マリーとともに鉱山を後にし、オフィスへ帰っていった。



「今日の仕事も終わりだね…あたしもう寝るよ、お兄様もちゃんと寝るんだよ…」

「ああ、今日は疲れたからな」


 オフィスで残りの書類仕事を終えたセリアとルドルフはそれぞれの寝室へ向かっていった。


「…はは、寝られる…といいな」


 寝床についたルドルフは今朝の夢を思い出し、なかなか眠れずにいた。ふと壁をみると、額に入れて飾られた一枚の絵が目に入る。緑がかった青い色の髪の女性が、在りし日のルドルフのルドルフの腕を無理やり組もうとしてる、そんな絵であった。


「…なにやってんですか、近況報告もせずに…ねぇ、エリーゼ先輩…」

駆け足な部分もありましたが…今回はこんなところです

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