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不思議の王国の奇妙な錬金術師  作者: えのころ
vol.1 便利屋ゼルトザームの事件簿
7/7

CASE7 メンタンピン亭のおもてなし

メンタンピン亭でのおもてなしと、新たな顔ぶれが…!?

「さあて、どんどん食べてってよ!」


 タイゲンが最初に運んできたのは赤いスープに数種の野菜と白身魚にも鶏肉にも見える肉が浮かんだスープだった。


「おお…なんだろこれ…」


 ルチナはスープに浮かぶ肉を口に運ぶ。食感は鶏肉に似ており、脂身の少ないさっぱりとした歯ごたえと、スープの舌を刺すような辛みを感じた。


「!!おお…!」

「ぐっ…か、からっ!?」


 辛さに目を輝かせながらスープをどんどん口に運ぶルチナとは対照的に、ルドルフは辛さに少し悶えている。


「おいしい…けどこれ、なんのお肉なの?」

「青蛙だよ!」


 ルチナの問いかけにタイゲンはにこやかに答えた。前髪に隠れた目がにやついてるのが見えた。ルチナは一瞬固まった。


「あ、あの田んぼとかでゲコゲコ鳴いてるアレだよね!?…でも、おいしいから…いいのかな?」

「たしかに、食べたことはなかったけど、さっぱりしてて好きね…」


 クリセルダは手をとめることなく食べ続けている。


「さあさあ、次はうちの看板メニュー、饅頭だよ!」


 タイゲンは竹の蒸籠をルドルフたちのテーブルに置く。フタを開けるともわっと湯気が立ち上り、4つの大ぶりの饅頭が顔を出した。


「蒸したてだから熱いので気をつけて食べてねえ」

「ええ。ルチナちゃん、あわてて食べたらやけどしちゃうからね」 

「もう、そんな、ことないよう…ってあちゃちゃ…」


 クリセルダがやんわりと注意をするも、ルチナはかまわずかぶりつき、熱さに悶えた。


「だから言ったのにぃ。中身が何かは食べてみてのお楽しみだよ」


 タイゲンが言うと、4人はゆっくりと饅頭にかぶりついた。


「ん…これは、ひき肉か?んううっ!!濃厚な肉の旨味と肉汁…これは美味い…」

「もっちりでジューシィで…もうたまらないよう!」


 ルドルフとルチナはもっちりとしたほのかに甘い生地と肉汁あふれるジューシィな肉餡の饅頭に舌鼓をうつ。


「にゃはは!おかわりもあるからいっぱい食べて!よかったらお土産に持ち帰っちゃってよ!メンタンピン亭の肉まんがある時はみんな笑顔、ないときはみんな悲しい顔してるんなよ!」

「それじゃ、お父さんとお母さんの分もらっちゃおうかな?」

「にゃはは!お持ち帰りは別料金だよ〜」

「もうタイゲンくんってば商売がうまいねっ!」


 食が進んで止まらないルチナはタイゲンとコントのように掛け合いを重ねた。


「それはそうとして…ほんとにうまいよこれ…メイリンくん、同じのを持ってきてよ」

「はいよろこびましてー!」


 肉まんを気に入ったルドルフは何個もおかわりをした。


「さて、わたしのは…むぐむぐ…おお…これは…クリ姉…じゃない、栗ね!」

「きゅむきゅむ!」


クリセルダとマリーが手に取ったのはもっちりした生地とハガネグリの甘い餡のハーモニーがたまらない饅頭だった。


「クルミが入ってるのもいいわね…うん、もっちり、ほくほく、かりかり…」

「あ、あたしもクリ姉と同じやつも食べたい!」

「はいはい、お持ちしますよー!」


 タイゲンは饅頭を取るために厨房へ向かっていった。


「きゅむしゃ、きゅむしゃ…」

「えへ、どう、マリーちゃん、タイゲンが蒸したお饅頭」


ルドルフにおかわりの饅頭を運び終えたメイリンがマリーに声をかける。


「きゅむ、きゅむむ!」

「ふむふむ」

「きゅむ、きゅむきゅむ!」

「なるほど…!」

「きゅむ!きゅむきゅむ、きゅむきゅむ!」

「それは、タイゲンに言ったら喜ぶよ!」


 マリーとメイリンはどうやら話が弾んでいるようで、お互いに楽しそうに言葉を交わしていた。


「なんだメイリンくん、マリーの言葉がわかるのか?」


 ルドルフが興味深そうに問いかける。


「えへん、わかるよ!なにもわからないということがわかるよ!」


 メイリンが間髪入れずに胸を張って答えた。それはまさしく、無知の知であった。


「…そ、そりゃあ…その…いいこと、だね」


 無知の知の境地に立ったメイリンに対しルドルフは言葉を詰まらせるしかなかった。


「にゃははは!まだまだ、いっぱいあるからどんどん食べてってよ!」


 ルドルフたちが食べ進むごとにタイゲンとメイリンが運んでいく。裏ではタイゲンの父が調理を続けているが…表には出てこなかった。


「もういくらでも食べられそうだよ!」

「黒い卵とは…んむ…まろやかな黄身…いや、黒身?にタレがよくマッチしていてうまいな…」


 灰の中でしばらく寝かせた卵や、蛙をあげたもの、満月を連想するような丸い焼き菓子…などと、東大陸の様々な料理を一行は食べ進めていった。


「んぅ…もう食べられないよ…」

「きゅむ…」

「すごくおいしかったわ…」

「すまないねタイゲン君。報酬とはいえこんなに食べてしまって」


 2時間ほどたった頃、4人は満腹感のあまりテーブルに突っ伏していた。


「にゃはは!いいよいいよ!喜んでもらえたし、ルドルフさんの便利屋にはいつもお世話になってるからね!それと、お土産のお饅頭を持って帰るなら、おひとつ40コールになるよ!」


 タイゲンが嬉しそうに答える。左手には算盤を抱え、何かを期待しているような笑みを浮かべた。


「うん、お父さんやお母さんに持って帰ってあげたいけど、今は動きづらいや…でもおいしかった…」


 ルチナは突っ伏したまま答える。


「お店にはないものも東大陸にはまだまだいろいろあるんだよ!例えば猿ののうみ…もごご」

「やめなさいやめなさい!食後にそんなグロテスクな奇食のお話は…ボクだってあれでひどい目にあったんだから…」


 メイリンが不穏なワードを口にする前に、タイゲンは両手でメイリンの口を塞いだ。


「今のは気にしないでね?ね?」

「うん、わかったよ!これ以上聞いちゃいけないのはわかった!」


 聞いてはいけない、聞いたら後悔する。ルチナにはそれしかわからなかった。


「ソ、そうだよね〜…にゃはは…さ、皿とか片付けないとだ」


タイゲンはメイリンとともにルドルフたちが使った皿を片付け始める。 ルドルフたちはまだ動けそうになかった。ルドルフたちのテーブルが綺麗に片付いたころ…


「ん…お腹減った…」

「えへ、こんばんは、メイリンちゃん、タイゲンくん!」

「いらっしゃいませぇ!」

「い、いらっしゃいませ…」


 店内に2人のメイド服姿の獣人が入店した。メイリンはにこやかに出迎えるが、タイゲンはどことなくぎこちない。


「えへ、ここ空いてるよ!」

「ん、ありがと…仕事疲れた…いくらでも食べられそう」


 銀髪のウルフカットに狼の耳と尻尾を生やした身の丈180cm近くありそうな無表情なメイドがメイリンが案内したテーブルまで向かっていく。


「こ、こっち…だよ?チェルシーさん?」

「ありがと、タイゲンくん!」

「でへ、でへ…」


 スカイブルーの髪にウサギの耳と尻尾を生やしたミミと比べると小柄なメイドがタイゲンににこやかに礼を言う。タイゲンは頬を紅潮させ、チェルシーと目を合わせることができないでいる。


「んう、ルドルフさんも来てたんだね」

「ええ、依頼の報告のために」


 ミミとルドルフは当たり障りのない言葉を交わした。


「んう?そっちの子は…新入りさん?」

「あたしはルチナです、ルドルフ先生に錬金術を教わっています!」

「そうなんだね。ボクはチェルシー。このヴァルト王国王家直属、I&Sのサブリーダーなんだ」

「I&S…ですか?」


 ルチナとチェルシーはお互いに自己紹介をするが、ルチナは聞き慣れない言葉に戸惑う。


「ええ。王国の治安を乱したり、国益を害する者に対する調査や処理を行う、王家直属のエリート諜報部隊なんだよ」

「い、いや、処理とか…なんか不穏な単語出てません!?」

「まあそれはおいといて、ルドルフさんの便利屋とは仕事柄連携を組むこともありますからねー、ルド社長っ」


 処理という言葉に不穏さを感じたルチナをいなし、チェルシーはルドルフに笑みを向ける。


「そうだねぇ…情け無用、報酬さえ出すならなんだってやる、がうちのモットーだからね」

「あはは、治安を荒らしたり、国益を乱すなら、ボクもルドさんを処理、しないとですねぇ?」

「君に処理ができるならねぇ…ふふ」


 ルドルフとチェルシーはにやにやとしながら軽口を叩き合う。その姿はまさに悪友同士、といった雰囲気であった。


「あは、あはは…」

「…ねぇ、ルチナちゃん、だっけ?」

「わひゃあああああ!?」


 ルチナは突然声をかけられ跳び上がる。


「…そんなに、驚くことだった?」


 声をかけたミミの狼耳が垂れる。表情は無表情ながら眉も垂れ下がり、どことなく悲しげに見える。


「あ、いえいえ!大丈夫です!すみません!」

「…な、なら…セリアちゃんに言ってくれるかな?手配犯を捕まえてくれるの、助かるけどつぶれたトマトみたいにして引き渡すの…ちょっと事情聴取するのに治療とかの手間がかかるからって…」


 ミミは無表情でとんでもないことを述べる。ルチナの頭らついにショートした。


「あ、あれ…あたし…とんでもないところで錬金術を…?」


 ルチナは目をぐるぐるさせるしかなかった。


「…ま、まあ…大丈夫さ…ルチナ君…君は今は僕の弟子で新入社員なわけで…まだそういった荒事はさせるつもりはさらさらないから…」


 弟子の心境を察したルドルフがすかさずフォローを入れる。


「あははは…確かに思った以上に危ないこともやるんだなと思いましたけど、あのときミカくんを助けたのを見て、錬金術って人を幸せにできるもなんだなって思ったんです」


 錬金術師を志したルチナの脳裏にあったのは、あの時友人を救った薬を作ったルドルフの姿と、錬金術の可能性であった。


「ルドルフ先生みたいに、誰かを救えて幸せにできる、そんな人になりたいなって。だからあたしは、これからもルドルフ先生の教え子でいますよ!」


 ルチナは決意の瞳と強い意志をルドルフに向ける。


「僕のように、か…。僕はそんな立派な人間じゃないさ…、だけど、君を誰かを幸せにできる錬金術師に育て上げる。それが僕が受けた依頼だとするなら…僕はそれを遂行させてもらうよ、ルチナ君」


 ルドルフは一瞬寂しげな表情を向けたと思うと、ルチナに向け真剣な眼差しを向け、頷いた。この日この時。2人の師弟関係はさらに結束を高めることになった。ルチナの、誰かを幸せにできる錬金術師への道は始まったばかり…






さていかがでした?

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