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不思議の王国の奇妙な錬金術師  作者: えのころ
vol.1 便利屋ゼルトザームの事件簿
6/7

CASE6 寝不足注意

ローズバファローに対してどうなるか、さてさて?

「ル、ルドルフ先生…」


 体や服を朱に染めてうつ伏せでで倒れるルドルフの姿を前にしたルチナは言葉を失っていた。いつも丁寧に穏やかに錬金術を教えてくれていた恩師。恩師の生死を確認することもできないまま、ルチナはルドルフに向けて手を伸ばし、硬直する…。


「グムウウウウ…」


 ローズバファローが前足を踏み鳴らしながらルチナとマリーににじり寄る。


「ま、まずい、やられちゃ…」

「きゅむう!!」


 ルチナを守るかのように、マリーが立ちふさがる。じとっとした目つきではあるが、ルチナにはマリーの怒りがか読み取れた。


「きゅむっ!!」


マリーは雪うさぎのようなものを取り出し、投げつける。すると、雪うさぎは弾け、無数の小さな氷の針になり、ローズバファローに襲い掛かる。


「グムウウウウ!!!」


 雨霰のように降り注ぐ氷の針に全身を突かれたローズバファローが鮮血をまき散らす。ローズバファローがもがいている間にマリーは木槌を構え、高く跳び上がる。


「きゅーむっ!」

「グムッ!!?」


 高く跳び上がったマリーは手にした木槌をローズバファローの額に向けて振り下ろした。大きな打撃音が響いたと思うと、ローズバファローは激しくよろめいた。


「グムッ…グムウウウ…」


 前脚で地面を引っ掻き、鋭い目をルチナとマリーに向け、角を振りかざす。


「あれだけやられて、まだ動けるの…?」


 そのタフさにルチナは弱音を吐くしかなかった。ローズバファローは角をふりあげ、ルチナに向けっていく。


「ああああ…」


 ルチナの脳裏にあの時浮かべた悲惨な妄想が浮かび上がった。ルドルフの次は自分が…。


「ルチナちゃん!」


 ルチナの危機を察したクリセルダが茂みから飛び出す。ローズバファローは鋭い角を振り上げ、狙いを定めた。その瞬間だった。


「シャーフ・ヴァルデシュランゲ!!」


ルチナにとって聞きなじみのある低い声があたりに響き渡ったと思うと、リング状の光がローズバファローを包み込んだ。ローズバファローはふらふらとよろめき、そのまま眠りについた。


「いててて…なんとか間に合ったか…っ…きっついね…」


 頭を朱に染めたルドルフがふらふらとしながらも立っていた。倒れそうになるも、なんとか踏みとどまった。


「せ、先生!」

「きゅむ!」


 ルドルフが目を覚ました。その事実はルチナに希望を抱かせるには十分だった。マリーはルドルフに駆け寄り、頭の傷に向けてポーションを一瓶を空にするほどふりかけた。ルドルフの頭の傷がみるみるうちに塞がっていく。


「せ、先生…無事だったんですね…」

「まあ元から身体は丈夫な方ではあったよ…ただ…寝不足のあまり魔法術をうまく扱えずにあのザマだ…り」

「もう…寝不足には注意してくださいよ…」

「…それはほんとにすまなかったよ」

 

ルチナと問答をかわしつつ、頭についたままの血を拭い、眠ったローズバファローのもとへルドルフが向かっていく。


「ならば、わたしが」


 クリセルダは懐から小刀を取り出すと、ローズバファローの耳の後ろに突き立てた。一瞬ピクリと痙攣したと思うと、おびただしい量の血を垂れ流し、動かなくなった。


「く、クリ姉…」

「ルチナちゃん、ちょっと見るのはきついかもだけど、命をいただくということはそういうことよ」


 凄惨に見える光景に目をそらしそうになったルチナに対してクリセルダが諌める。ルチナははっとした表情を見せる。


「大事なことだね。錬金術師である以上は、素材によっては命をいただくということもある。どれ、僕も解体作業、手を貸すよ」

「ええ、お願いします、ルドルフ社長」

「ルチナ君は…まあ見ておいてくれ。一端の錬金術師になるなら、いつかはできておかないといけないことだ」

「は、はい!」


クリセルダとルドルフはローズバファローの血を抜き、角や前脚を落とし、皮を剥ぎ、内臓を抜いていった。むせ返るような血のにおいがあたりに漂い、ローズバファローが見慣れた肉に変わっていく。


「…んぅ…」


 その様子と手順を血のにおいでむせ返りそうになりながらもルチナはじっと見つめる。


「ふむ…こんなところ、かな」

「さて、帰るとしようか」


 クリセルダとルドルフは解体を終えると、シュタール村へと向かっていった。





「タイゲン君、頼まれていたハガネグリに、ローズバファローの肉だよ」

「おお!ありがとうね、助かったよ!そうだ、これは報酬、受け取ってよ」


 タイゲンの待つメンタンピン亭にて依頼された品物を渡したルドルフはタイゲンから報酬として銀貨がずっしりと入った袋を受け取った。


「あとそれと、こっちで食べていってよ。精一杯もてなすよ!」

「ああ、遠慮なくいただくよ」

「ほんとに!?えへへ、タイゲンくんってば太っ腹!」

「で、でもほんとにいいの?お金だけじゃなく食事まで…」


タイゲンの申し出をルドルフたちは受けるも、クリセルダは疑問を口にする。


「うん、お父さんも了承したからね、」

「ええ、うちのお店にこんなにいい品を納品してくれたんです。これくらいサービスいたしますよ」


 タイゲンのものとは違う声がしたと思うと、ルドルフの背後でタイゲンの父がテーブルを拭きながら人の良さそうな笑みを浮かべていた。


「へああああっ!?ご主人、いつの間に!?」

「ははは…ずっといましたよ?」

「気配…してなかったよ。でも先生…なにいまの…ぷくく」


 突然声をかけられたルドルフは素っ頓狂な叫びを上げ飛び上がった。ルチナはそんなルドルフを見て思わず吹き出した。


「あはは、じゃあ僕はそろそろ調理に取り掛かるよ。メイリン、ルドルフさんたちにお茶を出してあげて!うちで一番いいやつだよ!」


 タイゲンはそう言うと厨房へ向かっていった。少し間を置いて、厨房から入れ替わるように菫色の衣装を身にまとった髪を2つシニヨンに結った少女が駆け寄ってきた。


「みなさん、えへえ、これ、一番いいやつだよ!」

「はは、ありがとうね、メイリンくん」


 メイリンがガラスのポットに入った茶を注ぐと、あたりに華やかで甘い香りが漂う。


「どれ、飲んでみるか」


 ルドルフが茶を口にすると、口の中は茶の熱さとほのかな渋み、花のような華やかな香りで満たされた。


「これは…前にも飲んだけど、心が落ち着くような…」

「ハードな依頼を済ませた後によくしみわたるわね…」


 ルドルフとクリセルダはメイリンが淹れた異国情緒溢れる茶を堪能している様子。


「ん…な、なんか不思議なかんじ…」

「きゅむちち…」


 ルチナは飲み慣れない風味にきょとんとた顔になり、マリーは熱さで目に涙を浮かべている。


「飲みづらかったかな?たしかにこのあたりではあまり見かけないやつだからねー。違うお茶もあるから遠慮なく言ってね!」


 飲み慣れない茶に不思議そうにするルチナに対しメイリンが両腕をパタパタと振りながら言う。


「ふむ…精一杯もてなす準備はできたよ…にゃはっ!」


 厨房ではタイゲンが出来上がった料理を前に満悦そうな笑みを浮かべる。東大陸流のおもてなしはまだ始まったばかりだ。

次回は飯テロ回…になるといいなあ

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