CASE4 饅頭屋からの頼み事
第四話です。短めではありますが、キリのよいとこまでいけたかなと
ルチナがルドルフに弟子入りをして数日…。業務のほかにルチナの育成と、忙しさは変わらないものの、ルドルフはルチナの育成に関しては、確かな手ごたえを感じていた。
「ふむ…ルドルフ先生!ポーション4つ、できあがりました!」
「どれ…ほお…これは…」
ルチナが調合したポーションをルドルフに見せる。その出来栄えにルドルフは感嘆の声を漏らした。
「ふむ…品質、効果…。ふふ、ふふ。ルチナ君、材料の見極め、調合のテク…君も身についてきたようだね。もともとそれなりに才はあったみたいだけども…」
「わわ…というか目の下!またクマが」
ルドルフは弟子の成長に笑みを浮かべる。ルチナはその疲れた様子に慄く。前日の睡眠時間は2時間だった。
「さて、そろそろ採取の方も教えていきたいところだね」
ルドルフがそう切り出した時。オフィスの戸がこんこん、と叩かれた。
「はーい、どなた?」
ルドルフがドアを開ける。そこには…
「あら、タイゲン君じゃないか」
「ルドルフさん、こんにちはっ」
異国情緒あふれる臙脂色の服、両目が隠れるほどの長さの切りそろえられた前髪と1本の三つ編みとそばかすが特徴的な少年が両手を袖の中に入れた状態で立っていた。タイゲンと呼ばれた少年は、ルドルフを見上げる。
「それで今日は買い物に来たのかい?それとも、依頼かな?」
「そうだね、今回は採取の依頼なんだけど…ちょっとお時間もらって大丈夫かな?」
「ああ、構わないよ。それじゃ、こっちに来て話を聞かせてくれるかな。ルチナ君、君も話を聞いておくように」
「は、はい!」
ルドルフは依頼の話を聞くために、応接室へ向かう。ルチナはあわてて2人の後をついていく。
「それで、依頼の品とはなんだい?」
「やっぱり、タイゲン君のお店に関することかな?新メニューとか…?」
依頼者の少年、タイゲンは東大陸からの移民であり、父と妹とともにルドルフたちの便利屋のあるシュタール村で "メンタンピン軒" という饅頭屋を切り盛りしている。ルチナは新メニューのことを浮かべながらタイゲンに詰め寄る。
「そ、そうなんだよ。ええとね、必要なのが、『ハガネグリ』を10個ほどに、それと…『ローズバファロー』のお肉を…」
「ええ、あのローズバファローを…?」
ルチナの脳裏に赤毛で巨大な2本の角を携えた猛牛の姿が浮かぶ。ローズバファローはシュタール村周辺では特に凶暴で強大な魔物として知られている。
「ど、どうしよう…あれってすごく強いんだよね…駆け出しのあたしや眠れてないルドルフ先生じゃ…」
顔に青みがさしたルチナがよくない想像を浮かべてしまう。
「っ、ダメだ…逃げ切れなっ!!」
「!る、ルドルフ先生!?」
ルチナの背が緋色に染まる。目の前には後ろからローズバファローの角で串刺しにされ、ぴくぴくと体を震わせるルドルフがいた。逃げていたところを後ろから一突きにされ、角の先端が胸部から飛び出し、鮮血がぼたぼたと落ちていく。
「グルルルル…」
ローズバファローが頭を軽く振り上げ、ルドルフの体が力なく地に落ちると、ローズバファローはルチナに目を向ける。
「!そ、そんな…あ、足が…」
逃げようとするも、足が動かない。猛牛は角を振り上げ、ルチナの方へ向かっていく…
「がくがくがくがく…」
「ルチナさん、どうしちゃったの?」
「…なにを想像してるんだ」
ルチナは顔面蒼白、涙目の状態で生まれたての小鹿のように震える。そんなルチナをルドルフとタイゲンが怪訝そうに見つめる。ルドルフがルチナに顔を近づけると、ルチナがかっと目を見開く。
「やめましょうよ!先生!死んじゃいますよ!あんな寝てないような状態で…あんな強い魔獣とやりあったら…」
「い、いや、だから…別に僕はローズバファローくらい…」
「わわわわ…錬金術をまだ学びきれないうちにそんな…あんまりですよう…」
涙目のルチナがルドルフの肩を掴み、がくがくと揺らす。ルドルフは困惑するほかない。
「それにルドルフ先生が死んじゃったら…マリーちゃんが泣いちゃいますよ…あんなかわいい子を置いて死んじゃうなんて…」
「いやね…だからね…僕はこれでもね…あの…だからさぁ…あのさぁ…」
「そんな…もう…もしものことがあったら…」
埒が明かない言葉の交わしあいがつづく。タイゲンは髪に隠れた目でそれを見届ける。ルチナの目には涙が、ルドルフの額には汗が浮かんでいる。
「ううう…だからあ!!僕はあんな牛の一匹や二匹、どうってことないの!!わかる!!??わからないならこの採取で見せてあげるって言ってんの!!!」
「ひゃーん!ごめんなさーい!!」
「あー、うん…ええと、引き受けでいいのかな…ルドさんの強さ僕なんどか依頼したから知ってるし…問題ないよね?」
ついにルドルフは声を荒げてしまった。見たことない師匠の剣幕にルチナは半泣きで謝るしかなかった。タイゲンは何とも言えなさそうな声色で確認を取る。
「あ、ああ。引き受けるよ。ルチナ君、そうと決まったら、まず、オフィスの人員だけど…今はセリアが出払ってるし…誰か手を貸してくそうな人はいるかな?あと一人ほどいれば心強くはなるだろう」
「は、はい!それならクリ姉が今暇してたと思います!」
「よし、ならば事情を話しに行くよ」
ルチナとルドルフはオフィスで書類を整理していたクリセルダの元へ向かう。
「というわけなんだ。クリ姉、手を貸してほしいんだけど、大丈夫かな?」
「ええ!かわいいルチナちゃんの成長のためだもの!」
「えへ、クリ姉、ありがとう!!」
姉の協力を得られたルチナは喜びを顕にする。クリセルダはルドルフのほうへ向き直る。
「それと、魔物狩りの腕前、見ていただきますからね!」
「ああ。頼りにしていますよ」
「それと…その子も連れて行くんですか?」
「きゅむ!」
クリセルダはルドルフの傍らにいるマリーに目を向ける。マリーは身体に不釣り合いな大きさの木槌を構え、やる気十分だと言わんばかりに胸を張っている。
「ああ、こう見えてマリーには採取や魔物退治のときに力を貸してもらっていてね。頼れるパートナーなんだ」
「きゅむきゅむっ」
「小さく見えて頼りになるんですね…。よし、行きますよ、皆さん!」
こうして、ルドルフ、ルチナ、クリセルダ、マリーによるローズバファロー討伐依頼が始まった。一行は村の西にある高原へ向かって歩き出していった。
次回、初の本格的な戦闘へ…?




