【超超短編小説】蟻
東の街に雨が降った。
何年ぶりかの雨はニュースになってテレビ画面はザァザァと音を立てていた。
西の街や南北の街にも雨が降るだろうか。
東の街に雨が降った。
道端に捨てられていたカップ麺を舐めていた蟻たちは、溺れて死んだ。
泳ぎ方を知らない世代だから仕方ない。
それは俺たちが、渋谷と言う谷底でギャルのまんこを舐めている間に窒息死するのと似ていたのかも知れない。
俺たちはセックスを知らない。
だから仕方ない。
でも単なる夢想でしかないし、実のところ俺たちが舐めているのは、労働の辛酸だとか煙草に似せて作られたアメだとかだ。
だから東の街にある渋谷と言う谷底で、俺たち蜘蛛の糸を待ち続けた。
救いだとかについては、よくわかっていない。ただそれが、真綿で作られた首輪じゃないことを祈っているんだ。
それ以外なら、天使の髪の毛だろうが何だろうが構う事はない。
やっているのはウスバカゲロウと同じことだ。
待つことに意味を見出した。
俺たちは煮詰まった疲弊そのものだ。
俺たちが蜘蛛と違うのは、動きが緩慢だと言うことだ。
それは願いや祈りを信じていないって事だ。
でももしかしたら、単に疲れただけかも知れない。
とにかく、まるで巣に吸い殻を投げられた蜘蛛が、それが生き餌では無いと知った時に見せる倦怠感に似ていて、俺たちは手足を動かす事もできなくなりつつある。
そうだ。
俺たちは、繰り返し投げられた吸い殻に疲れたんだ。
だから待つ事にした。
俺たちは待っている。それが祈りだからだ。救いかどうかは関係が無い。信じていなくても構わない。
俺たちは疲れたんだ。
だからそこにカップ麺の容器があればきっと群がるだろう。
フチから垂れた麺が粗悪な炭水化物だとしても、その瞬間は立派な蜘蛛の糸だ。
俺たちはそれに捕まって登る。
行き先が天国かどうかは、関係がない。
そうやって地面から離れた俺たちは、カップ麺容器の白いフチから次々と茶色い海に落ちていく。
疲労が加速度をつけて落ちる。
スープクラウンを作る。
俺たちは底の浅いスープの中で溶けていく。
やがて雨が降り、そうやって俺たちは溺れて死ぬ。
だがそれでいい。
それこそが救いだ。
東の街に雨が降る。
俺の街にも、雨が降るのを待っている。




