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ジョニーとアブドラと三郎  作者: 六福亭(鹿西こころ)
2/4

2 旅立ち

 サソリと僕は、人間の街に出た。ネズミやネコを見ては走って隠れ、人間の足に踏みつぶされそうになりながら、公園までやってきた。僕はもうくったくた。

「そういえば、お前の名前は何ていうんだ?」

 すっかり元気になったサソリが聞いた。

「僕? ジョニー」

「ふうん。いい名前じゃないか」

「あんたは?」

「オレはアブドラさ。いいかジョニー、大事なのは度胸とはったりだ。びくびくしていれば相手にもバレちまう。堂々としてればいいのさ」

「そんなこと言われたって……」

「おっと、早速おいでなすったぞ」

 アブドラが空を見上げて言った。その瞬間僕は全速力で逃げ出した。

「こら、待て!」

 待つものか! このままサソリに振り回されて危ない目に遭うのはごめんだ!


 サソリも僕を追いかける。だけど僕の方が速い。


 その時、頭上から影が落ちた。目の前が暗くなった瞬間僕の体を恐怖がさっと駆け抜け、固まってしまった。羽の音がすごく近くに聞こえて、見上げると鋭い嘴がぎらりと光った。


 鳥だ!

 

 動けない僕と、襲い来る鳥の間に、アブドラが滑り込んだ。アブドラは、降りてきた鳥の足をはさみで思いっきり締めた。

「ギャーッ!」

 鳥が悲鳴を上げる。サソリはそのまま足に食らいつき、凄みのある声で鳥を脅した。

「痛いか? オレのかぎ爪はもっと恐ろしいぞ。猛毒だから、ちくりとでも刺したらお前はたちどころに地獄行きだ」

 鳥はぴょんぴょんと跳ねて、アブドラを振り落とそうとした。

「おっとっと、大人しくしろ! オレの手元が狂っちまうぞ!」

 僕は彼らの元へ駆け寄った。鳥がサソリにわめいているのが聞こえる。

「わ、分かった分かった! お前を食べたりしないから、放してくれ!」

「そうは行かないんだ。毒にやられたくなければ、言うことを聞け」

 アブドラは鳥にこう言った。

「オレとこのジョニーを、できるだけ西へ連れて行け。海を越えられればなお良い」

「何で……そんなことを俺が……!」

「嫌なら刺す。さあ、どっちがいい? もだえ苦しんであの世へ行くか、ちょっと旅行をするか!」

「分かったよ……」

 鳥はがっくりとうなだれ、僕たちを横目で見た。

「足につかまれ。だけど、俺はそんな遠くまで飛べないんだよ」

「それでもいいさ。いけるところまで」

 サソリは僕に、ここまで来いよと合図をする。はじめて触った鳥の足は、硬くて、でも温かかった。


 空を飛んだのも、もちろんはじめてだ。地面が、どんどん遠くなっていく。風に乗るのがこんなに気持ちが良いなんて、知らなかった! 

「もっとゆっくり飛んでくれ!」

 アブドラは最初の方こそそんな悲鳴を上げていたけれど、鳥が空の高いところに昇っていくにつれ、口もきけなくなったみたいだ。それでも、しっぽをしっかりと鳥の足に巻きつけていた。

「頼むから、絶対に、飛んでいる間は刺さないでくれよ」

 鳥が、羽ばたきながら言った。返事もできないアブドラに代わって僕が答える。

「気をつけろって言っとくよ!」

「今飛べなくなったら、お前らも終わりなんだからな!」

「分かってる!」


 丸一日飛んで、鳥はやっと地面に降りた。心なしか、さっきよりずっと暖かい場所にいる気がする。そこに池があったから、僕はこれ幸いと水浴びをした。

 サソリはぐったりと倒れていた。

「大丈夫か?」

「う……飛ぶのは、嫌いだ……」

「じゃあ、どうやって日本まで来たんだよ」

「行きは船だった。エジプトから運んだ、人間の食料に潜り込んだんだ」

「どうして、日本にまで来たの?」

「うーん」

 さそりはしっぽを持ち上げ、弱々しく振った。

「なりゆきだよ。いろいろあって、仲間と別れることになってな」

「あんた、ワガママだもんね」

「うるさい。……1人になろうと逃げ込んだ先が、日本行きの船だったらしい。海を見たときにはたまげたよ」

「海かあ」

 僕はまだ海を見たことがない。だけど、僕がいた用水路がいつか川につながっていて、その川がまた海に流れ込むことは知っている。


 井戸の中の蛙は海のことを何も知らないかもしれないけど、川はどこにでもつながっているんだ。


 だけど、まさか空の旅をすることになるとは思わなかったなあ……。


 僕はぽつんと呟いた。

「鳥、どっかに行っちゃったね」

「ああ」

「また別の鳥を捕まえなきゃだね」

「ああ」

 だけどその時、僕らを呼ぶ声がした。

「休憩はそろそろ終わりだぞ」

 いつの間にか、あの鳥が側に来ていた。びっくり。

「戻ってきたの?」

「逃げたのかと思ってたぜ」

 鳥は怒り出した。

「何だその言いぐさは、俺をタクシー代わりにしたのはお前らじゃないか!」

「それはそうだけど……もしかして、もっと先まで連れてってくれるの?」

 鳥は、くちばしをカランと鳴らした。

「暇だから、ちょっと遠くまで羽を伸ばしてもいいかなって思っただけさ」

「ありがとよ」

 サソリがしっぽを振り立てて鳥に向かって行く。鳥はのけぞった。その様子がおかしくて、僕は笑ってしまった。


 鳥の名前は、三郎というらしい。

「何で三郎なの?」

「兄弟の中で、生まれたのが三番目だった」

 三郎は風に乗りながら答える。

「お前……よく、平気でしゃべれるな」

 飛んでいる間、アブドラは大人しい。一方僕は、滅多に味わえることのないスリルを楽しんでいた。

「ところで、お前らは結局どこに行きたいんだ」

 アブドラはやっぱり答えられる余裕がないらしい。

「アブドラの故郷の、砂漠だよ。エジプトだって」

「エジプト!?」

 三郎が驚いて、がくんと落下した。アブドラが悲鳴を上げたけど、すぐに持ち直した。

「気をつけて飛んでくれ……」

「悪いな。……エジプトって、どこにあるんだ?」

「分かんない。だけど西だってアブドラは言ったね」

「西へ西へ、太陽の沈む方向へ……か」

 三郎は唄うように言った。それから、ふと下を見た。

「あ、」

「どうしたの?」

「海だ」

 僕も下を見た。


 一面の青が広がっていた。海って、とてつもなくでかい。僕のいた用水路が何千何万も集まってできたみたいだ。どこまで行っても水しかない。

 僕はふと怖くなった。海にザリガニやおたまじゃくしや、ミジンコはいるのだろうか? あんなところにぽちゃんと落ちたら、誰も彼も孤独なまま死んでしまうんじゃないだろうか?

「アブドラが落ちたら、死んじゃうだろうね」

「おい、なんてことを言うんだ!」

 アブドラが叫んだ。ちょっと元気になったみたいだ。三郎が、はじめて大きな声で笑った。


 次に休んだ場所はものすごく熱くて、三郎も僕も動く気になれなかった。だけどアブドラだけはいきいきとしていた。

「これでもっと乾いてりゃ、天国なんだけどな! どうした? ジョニー! 元気出せよ」

「うるさいよ……」

「三郎も、おい! みみずでも捕まえてきてやろうか?」

「……ジョニー、こいつを黙らせろよ」

「空を飛ばせてあげればいいよ……」

 僕らが相手にしないでいると、アブドラはふいっとどこかに行ってしまった。それから少し経って、小さい虫を山ほど抱えて持ってきた。

「ほら、食えよ。力がつくぞ」

「今は虫より水がほしいよ……」

「あっちに川があるぞ」

 三郎がよろよろと這い上がって、アブドラが教えた方向に歩いて行った。

「お前も来るだろ?」

「うん……」

 アブドラに支えられて、僕も川に向かった。川の水はぬるくて、濁っていた。だけど水の中にいたらちょっと元気になった。

 三郎も水を飲んだはずなのに、まだその場でぐったりしている。

「おい、大丈夫か?」

 アブドラがちょっかいをかけても、三郎は返事すらしない。僕は不安になって、三郎に近寄った。

 三郎は目を閉じて、ゆっくり呼吸をしている。

「なあ、ちょっとやばいんじゃないかな……?」

「そうだな」

 アブドラも顔を曇らせている。

「ここは熱すぎるよ。それに、三郎はずっと僕らを運んで飛んでくれたんだ。疲れてるはずだよ」

「……そうだな」

 僕は川の水を何度も運んで、三郎にかけた。そうしたら、ちょっと涼しくなるんじゃないかと思って。三郎は薄目を開けて、また閉じた。

 気がつけば、アブドラがまたいなくなっていた。勝手な奴だ。無性に腹が立ったけど、三郎の側を離れるのは嫌だった。


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